見出し画像

「これでいい」は意外に深くて、なかなかいいのだ

ゴミ屋敷や汚部屋の片付けの仕事をしていて、毎日、たくさんの物を処分していると、ついつい物を買うことの意味について考えてしまいます。

これは買うべきだったのか、買うべきではなかったのか?

「モダンデザインの父」とも呼ばれるウィリアム・モリス(1834-1896)は、こう言っています。

有用とも美しいとも思えないものを家のなかにおいてはいけない
 (1880年の講演 生活の美より)

近藤麻理恵さんは、「人生がときめく片づけの魔法」の中で「モノを一つひとつ手にとり、ときめくモノは残し、ときめかないモノは捨てる」と、おっしゃっています。

お二人の考え方をざっくりまとめると、有用な物、美しい物、ときめく物は家の中に置いてもよい、さらに拡大解釈をするなら、買ってもよいということになります。

しかし、いくら美しい物、ときめく物であっても、めちゃくちゃ高価だったら手が出ませんし、無理に買うのも間違っています。

毎回とは言いませんが、買い物をする時には、どこかに「これでいい」という妥協が入り込むことになるはずです。

妥協は、やはりネガティブなイメージ。

果たして「これでいい」は歓迎すべき言葉ではないのでしょうか?

「これでいい」は美徳の場合がある

私の母は、「これでいい」が口癖でした。
一緒に食事に行って、メニューを見て何を食べるか決める時も、必ず「これでいい」と言うのです。

「これでいい」には、「他に食べたいものもないし、まあこれでもいいや」といった、一種のあきらめが感じられます。

料理を作ってくれる人にも、注文を取ってくれる人にも申し訳ないし、一緒に食べに行っている私たちも、母には「これがいい」と思うものを美味しく食べてほしい。

その度に、私も妻も「これがいいと思うものを注文して」と頼みましたが、母は、絶対に「これでいい」をやめませんでした。

実は、母がそうしたのには、止むを得ない事情があったのだと思っています。
実家は貧乏でしたから、家で食事をする時も「私は残りものでいい」、服も「安い服でいい」など、節約する習慣が身についてしまっていたのではないか・・・。

母にとって「これでいい」は、たぶん美徳だったし、実際のところ母の「これでいい」が私たち家族の暮らしを守ってくれたような気もします。

「これでいい」は、私が思っているよりも、もっと奥が深い言葉なのかもしれません。

「これでいい」はヴィジョンの場合がある

「これでいい」と「これがいい」の違いに興味を感じたので、ググってみたら、なんと無印良品のページが見つかりました。

無印良品[無印良品からのメッセージ]
無印良品はブランドではありません。無印良品は個性や流行を商品にはせず、商標の人気を価格に反映させません。無印良品は地球規模の消費の未来を見とおす視点から商品を生み出してきました。それは「これがいい」「これでなくてはいけない」というような強い嗜好性を誘う商品づくりではありません。無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり「が」ではなく「で」なのです。
 しかしながら「で」にもレベルがあります。無印良品はこの「で」のレベルをできるだけ高い水準に掲げることを目指します。「が」には微かなエゴイズムや不協和が含まれますが「で」には抑制や譲歩を含んだ理性が働いています。一方で「で」の中には、あきらめや小さな不満足が含まれるかもしれません。従って「で」のレベルを上げるということは、このあきらめや小さな不満足を払拭していくことなのです。そういう「で」の次元を創造し、明晰で自信に満ちた「これでいい」を実現すること。それが無印良品のヴィジョンです。後略

「で」の次元を創造し、明晰で自信に満ちた「これでいい」を実現すること。それが無印良品のヴィジョンです。

う~ん、素晴らしい表現力!

私も、無印良品でよく買い物をしますが、「これでいい」と思って買ったことはありません。
たぶん、自信に満ちた「これでいい」をビジョンにしているから、満足して買えたのだろうと思います。

私は、どちらかと言うと「これでいい」は嫌いでしたが、自信に満ちた「これでいい」は、なかなかイケてる気がしてきました。

そういえば・・・

「これでいい」が美徳の母は、誰にも文句は言わせないぞという自信に満ちた感じで「これでいい」とソバ定食を食べていました。

母のヴィジョンは無印良品並みに強力でしたが、食事の後でよく「ちーっとも美味しくなかったがね」と言っていたのは、いったいどういうことだったのでしょうか。

なかなかイケてる母です。

「これでいい」は愛情を伝えることもできる

たとえば、部下が自分の不始末で取引先ともめ、本人だけでは収拾がつかなくなったとします。

相談を受けた上司が、取引先に謝罪するなどの対応をし、再発防止策をまとめ、事態をおさめてから、悩んでる部下の肩をポンポンと叩きながら「これでいい」と言ったら・・・。

たぶん、部下は上司の愛情を感じるでしょう。

「これでいい」は意外に深い言葉だった

このnoteを書き始める前、何か物を買う時は、「これでいい」ではなく「これがいい」と思って買えば、物を大切にできるよ、と言おうと思っていたのですが、「これでいい」の意味が深すぎて、そんなことは言えなくなってしまいました。

それに、よくよく思い出してみれば、小さい頃は「これでいい」が好きだったのです。

ちなみに、私の妻は「どっちが東でどっちが西かわからないから、天才バカボンの歌を思い出して、東はその反対なのだと考える」と言っていました。

妻とライブ会場で待ち合わせた時、なかなか来ないのでソワソワしていたら、「迷った」と電話がかかってきました。
そこから東へまっすぐ来たら会場だよ、と教えて電話を切った後、天才バカボンの歌を歌っている妻を想像して、たぶんたどり着けないなと思ったのでした。

母だけでなく、妻も結構イケてます。

話を元に戻しますが、物を買う時は、「のだ」を付け加えた、より明晰で自信に満ちた「これでいいのだ」がオススメのような気がしてきたのだ。

サポートしていただいたお金は、サービス向上のために使わせていただきます。(会社規定上、スタッフ個人に渡すことはできません。あらかじめご承知おきください。) ※スキ♡はnote会員でなくても押すことができます。あなたのスキは私たちの励み。よろしかったらお願いします。