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薬局薬剤師という仕事~接客力と患者力~

薬局の薬剤師になろうと思ってなったわけではない。
国家資格を持っていれば、喰いっぱぐれがないかと思っていたから。


思っていたのと全然ちがう

薬局の薬剤師は、薬をそろえて患者さんにわたして「お大事に」っていうなんだか楽そうな仕事なんじゃないかと思っていました。
実際、薬局に処方箋を持って行って、調剤してもらったことが人生で1回もなかったのに、志してしまったのでした。

就職したころは、医薬分業が少しずつ増えている頃で、医師も患者も理解が追い付いていない状態としか思えなかった。
医師は二言目には「薬剤師のくせに」「処方に文句言うな」
患者は「さっき病院でお金はらったのに、また払えっていうの」
「説明なんて医者からきいているんだから、いちいち時間とらせるな」などと言われる日々。

一生懸命仕事を覚えても、たくさん勉強して国家資格とったのに。いくらなんでも、この世の中の扱いはひどい。
だんだん「いつ辞めようかな。早く辞めたいな」と毎日思って患者さんと接していました。不機嫌な顔して、不機嫌な態度だったに違いありません。

薬局薬剤師はサービス業

最初に配属された店舗の責任者の方に、「薬局はサービス業だからね」と言われた時に、ある意味ショックでした。

大学では、そんなこと全く学んでいません。これからの薬剤師は、医療の担い手として自己研鑽してチーム医療にも参加して。みたいな理想ばかり教わってきて、いざ 社会に出てみたらこの有り様。

サービス業って?患者様は神様ってこと?無茶な要求や、苦情を浴びせかけられることもあってもお詫びするの?

明らかに就職先を間違えたと思いました。でも、就職したばかりでなにができるわけでもない薬剤師を、いったいどこが雇ってくれるというのでしょう。

なんとか1年頑張ろうと思い、無欲で出勤していました。
しかし、だんだん仕事を覚えていくうちに、患者さんの対応だけでなく、薬局の裏方の奥深さを知って、別の店舗も経験させてもらったりして、自分の決めた期限はとっくに過ぎていったのです。

この会社の方針として、1つの店舗にあまり長く配属せずに、様々な規模の店舗や処方を経験させるというローテーションがあり、3店舗経験した所で産休に入り、一旦現場を離れました。

職場復帰の衝撃

産休・育休の間に家庭の事情もあり、復帰までに4年あいてしまいました。

その間に会社は成長を続け、患者さんに薬を渡すだけの薬局ではなく、プラスアルファを目指し「選ばれる薬局を」と、様々な部所を新設し、「接遇マニュアル」を徹底して社員にも研修を課していました。

とても細かいことまで決められていて、正直「とんでもないことになってる。面倒臭い」と、嫌々研修を受けていました。

髪型から出勤時の服装、言葉使いも患者さんにかける言葉も、徹底的に決まっています。お辞儀の角度、金銭授受の手順も。

サービス業では当たり前のことばかりですが、薬局薬剤師がこんなことするのか?と、否定的にも思いました。しかし、この会社の社員は真面目なんです。懸命に習得し、自分もそれにハマっていくことで、気がつくことがありました。

患者さんの変化

以前配属された店舗に再び配属されたので、患者さんの層は変わっていません。なのに、患者さんの反応が明らかに変わっていました。

薬をお渡しした後に「いつもありがとう」とか「仕事している間に用意してもらえて助かる」(オフィスが多いところだったので)なんて、感謝の言葉をかけて下さる方が多い。

そしてなにより、クレームが少ない。

混雑している時間帯でも、今のだいたいの待ち時間をお伝えして「待ち」のイライラを軽減したり、なるべくリピーターの患者さんには話しかけて、お待ちの間に様子を伺うようなこともとても重要なことでした。

実はこれらは、会社のマニュアルにはない、店舗ごとの自然な流れでできたことでした。

「患者さんを思いやる気持ちを持ち、真摯に向き合うと、患者さんも応えてくれる」
それを実感しているので、自然とできるようになった、あたりまえのルールでした。

接客力

その会社は、航空会社や銀行、大手カーディーラーさんの接遇を目標に研修を行っていました。接客の最上級をめざして、少しでも近づけるように定期的な研修と、セルフチェック、店舗ごとの見直しなどを繰り返しました。
「接客力」をつけるために。

その結果ついてきたものは、大きな効果でした。
患者さん側も、ストレスが減り。薬局側も患者さんがピリピリすることもなくお待ちいただけるように配慮することで、返ってくる反応も穏やかで、クレーム減少。

あってはならないことですが、薬局のミスで会計が間違っていたとか、なにかで連絡をしたとしても、いきなり怒られたりすることは皆無になりました。
「次行ったときに、清算してくれればいいよ」なんて言ってくれたりして。

接遇研修によって、常にこちらが下手に出て患者さんの言いなりになるということを学んだわけではないのです。

ある意味、薬局の言い分を通したり、患者さんの間違いや勘違いを正すためのテクニックを少しずつ身に着けていったよう思います。常に先回りして、相手のことを思いやる言葉をかけたり、態度を示すことで患者さんも納得、安心します。

患者力

この会社は、全国に店舗が多くあり、教育は同等に行き届いていました。

患者さんも、この会社の別の店舗でも同じクオリティでサービスが受けられるとして、安心して利用してくれていたはずです。

もし、処方箋に書いてある薬がその薬局になかったとしても、必ずお近くの系列店舗を在庫を調べて紹介したり、取り寄せたりします。
患者さんもそれを知っているので、「薬がない?どうするんだよ!自分で探せっていうのか」なんて取り乱すこともなく、状況を理解してくれています。

ここで大騒ぎしてもどんどん注文や確認が遅れ、不便になるのは患者さんの方ですが、きちんとした流れがあったので患者さんも落ち着いています。
「必要な薬がいつもあるわけじゃない、でもとりよせてくれるのを待つか、または近くを探してくれるようお願いしよう」
これは患者さんの信頼を得ている証拠です。

そして出てくる言葉が「いつもありがとう」なんですね。

薬局側も、同じ作業をするのでも、「早くしてよ、具合悪いんだけど」って言われてするのと、「取り寄せてもらえるかしら、時間かかりそうですか」って言われるのでは、気持ちが全然ちがいます。
申し訳ないけど、その患者さんへの対応も変わってしまうことだってあります。人間ですから。
より良い、適切なサービスを受けられるという「患者力」も、育てていたように思います。

両者のために

20年ほど勤めたその会社は退職してしまいましたが、現在の職場に移ってからも「接客力」の大切さを実感しています。

残念ながら、薬剤師というプライドを十分に兼ね備えてお仕事している方が多いので、サービス業であるとか、接遇のことなんて全く考えていない薬剤師がほとんどです。

今の薬局の開局に携わりましたが、患者さんからの苦情は最初は多かったです。「薬剤師の態度が悪い」って。なにしろ、そのような厳しい研修を受けたことがない薬剤師の寄せ集めでスタートした状態だったので。

注意しても治らず、改めることができない薬剤師は辞めていただいたこともあります。今のメンバーは、少しずつですが患者さんへの対応が上手な薬剤師を見習って接遇を習得しようとしてくれていて、おかげさまで薬局を利用してくださる患者さんも大変増えました。

結果的には、患者さんにも薬剤師にも気持ちよく過ごしてもらえることが一番です。働き甲斐も得られます。患者さんにも温かい気持ちでかえっていただけます。

私の長年の薬剤師生活で気づいたことは
「薬剤師が変われば患者さんも変わる」です。

是非薬局ご利用の際は、薬がもらえればいいやではなく「薬をもらったあとに、温かい気持ちになれたか」で、薬局を選択していただくと良いと思います。

#仕事での気づき

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