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野原広子さんインタビュー『人生最大の失敗』楽天Kobo電子書籍Award2023受賞記念 

離婚後のスッキリしない
モヤモヤとした気持ちを描きたかった


 ――この度は、『楽天Kobo電子書籍Award2023』1巻完結!読み切りコミック部門第2位の受賞おめでとうございます!改めて受賞のご感想をお願いします。
 
野原広子さん(以下、野原) ありがとうございます。受賞のお話は単純にとても嬉しかったです。この作品を作っている時は、コロナ禍で、更年期の症状があったり、他の作品と並行して作っていた事もあって、とても辛い時期でした。コロナも落ち着き授賞式では人にも会えて、沢山の人に作品を読んで頂けているんだなという事を実感できました。また松田さんが立ち上げた、はちみつコミックエッセイで出版した作品が受賞できたことも、改めて嬉しかったです。

2022年9月に発売。50代を目前にして、夫の一言をきっかけに離婚を選んだ主人公・エリコ。つかのまの自由や孤独、後悔や希望をないまぜにしながら、人生後半戦に足を踏み入れる姿を描いた話題作です。

 
――私たち編集部も野原さん作品の大ファンです。素敵な作品を描いていただきありがとうございました。今回「離婚後の生き方」をテーマに作品づくりをしようと思ったきっかけを教えてください。
 
野原 私自身も数年前に離婚をしまして、離婚したらすっきりするかなと思っていたら、そうではなくて…。結婚生活は20年以上あったのですが、長年住んでいた家を出てゼロからのスタートでした。家もそうですし、人間関係などもリセットされてしまった気持ちが強くて。あの家に帰れない、自分が築き上げてきた世界と離れてしまってこれで良かったのか、モヤモヤと整理しきれない気持ちが残りました。子どもも大きくなったとはいえ、子ども心にダメージはあったのだろうなと。同じような気持ちを描いた本を読みたいなと思ったけど、当時そういう作品が見当たらなかったので、この気持ちを描こうと思い立ち離婚して3~4年目で描き始めました。離婚したことを後悔しているわけじゃないのですが、自分で選んだ道とは言え明るい気持ちだけではない。良い事だけじゃないんだよというのを伝えられたらと思っています。

主人公エリコも長年住んでいた家を離れ、小さなアパートから新たな人生をスタートさせました。


――離婚を選択した女性の心の機微や、それでも自分が選択した道で希望を持って生きていこうというメッセージがとても伝わってきました。「人生最大の失敗」というインパクトのあるタイトルは、初期の段階から決まっていたのでしょうか?

 
野原 実はタイトルは、独身時代に勤めていた会社の上司の「結婚は人生最大の失敗だよ」というつぶやきを使わせてもらいました。幸せそうに見える素敵なご夫婦だったので、当時は「ひどい事を言うな」と結構大きな衝撃を受けましたね。結婚に夢を見るなという話だと思うのですが、長い結婚生活の中では、上司のつぶやきも少しわかるような気もしましたね。
 

夫が、妻との結婚を「人生最大の失敗」と不倫相手に愚痴をこぼす場面を目撃してしまい、エリコは大きなショックを受けます。次第に離婚の意志が固めていくのですが・・・。

――なんと、本当に既婚者から出た言葉だったのですね。作品では、当事者しか持ちえない心情もとても深く伝わってきました。野原さんの作品の真髄でもあると思うのですが、なぜそこまで心の機微を描けるのか、日ごろの作品づくりのために行っている事があればあわせて教えて頂きたいです。
 
野原 作品を描く際は色々な人に取材をするのですが、『人生最大の失敗』の時も、離婚を経験された方の話を沢山聞きました。質問した時に相手が動揺していたり、明確に答えてくれなくても滲み出るものがあったりすると、触れてはいけない所に触れてしまったのかなとか思ったりします。そういう時に、その人の心の奥底にあるものを想像するようにしています。取材の時に引っかかった態度や言葉から広がることもあります。また、私自身も年を重ねてきたので、経験してきたものを引っ張り出すという事もありますし、読んでいる小説が勉強になる事も多いです。漫画よりも、文字だけの小説の方が想像が膨らむなと思います。
 
――野原さんの作品の深みは、その洞察力あってこそなのですね。スーパーで買い物をするシーンで、今までは夫や子どもの好みを優先してきたから、自分の好きなものが分からなくなったり、離婚すると急に怪しい男性が近づいてきたりするというのも、あるあるなのかなと感じました。
 
野原 離婚すると男性が近づいてきてお金を貸すことになるというのは、よく聞く話ですね。その他にも宗教にお誘いを頂いたり…。離婚したらやりたい事リストは、雑誌の特集で見て面白そうだなと思って入れてみました。私自身はリストは作っていなくて、「1人暮らしをしたい」とか「旅をする」などは考えていたのですが、10個もなかったかなと思います。
 
――ネーム作りの段階で、印象に残っている事はありますか?
 
野原 この作品を作っていた時は辛い時期で、正直覚えていない事が多いんです。ただ面白いのかどうか、分からなくなってしまう時がありました。松田さんからネームにOKが出た後に、もう1回描き直させてもらったのですが、結局元のネームとほぼ同じだった…という事もありました。第3者の目が入るのはとても大事だなと思います。自分よがりだと良い作品は出来ないですから。カバーのデザインから引っ張られる事も多いです。「人生最大の失敗」の表紙はとても好きですね。デザイナー・坂野弘美さんのシンプルでありながらもザワザワしたものを駆り立てるようなデザインは、自分の中のイメージを広げられるので、いつも助けられています。

これまでの結婚生活に対する苦労や諦めなど全ての感情を1つにしたような、夫婦の何とも言えない表情が印象的なカバーデザインです。結婚への幻想を持ちすぎないでと言われているようで…。

 
――夫婦関係に色々問題はあるけれど、結婚生活を続けている方もいらっしゃいます。何かメッセージを頂けると嬉しいです。
 
野原 離婚をしても結婚生活を続けていても、思い悩む事は色々あると思うのですが、自分を大事にして欲しいし、自分を褒めてあげて欲しいと思います。そしてもっとワガママを言っていいと思います。「泣かない赤ちゃんはミルクをもらえない」という言葉がありますが、「ここを直して欲しい」って相手に大声で言わないと分かってもらえないです。離婚したいけど、色々な問題で離婚できずに瀬戸際で頑張っている人がいるということを知りました。離婚できてうらやましいと言われる事もあります。離婚をしないという選択をした人を応援したいですが、諦めないで欲しいなと思います。諦めて耐えている人、多いですよね。それもその人の選択だとは思うのですが、人生は一度きりですからね。離婚を勧めているわけじゃないのですが、離婚しないことだけが正解ではないなとも思います。
 

松田編集長に初対面で言われた

忘れられない一言 


――コミックエッセイ作家としてデビューをされてから約10年。ずっと第一線で活躍されています。野原さんが作品を作る上で大切にされている事を教えてください。

野原 第一線かどうかはわかりませんが…気がついたら10年経っていました。ありがとうございます。1冊の中で、描いている自分自身が飽きないようにする事を大切にしていますね。自分が飽きていたら、読者も飽きてしまうと思っています。主人公がダラダラと悩んでいるシーンが続いてしまっている時は、そろそろ怒りたい~!などと思いながら、構成や展開を工夫したりしています。
 
――デビュー当時からタッグを組まれている松田編集長との作品づくりで、忘れられない思い出はありますか?
 
野原 松田さんと初対面の時に「モノを描くことで、人生が変わることがある。それでも描きますか!?」と言われた事ですね。デビュー作が2013年に出版した『娘が学校に行きません』(KADOKAWA)という子どもの登校拒否を題材にした作品だったので、その覚悟を問われたと思うのですが、まるで『ガラスの仮面』(白泉社🄫美内すずえ)の北島マヤと月影先生のようでした。当時学校でのいじめや自殺のニュースが多くて、自ら命を絶ってしまうぐらいなら学校に行かなくていいんだよ、という事が伝えたかったんです。松田さんには「それでも描きます、描きたいんです」と話したのを記憶しています。まさしくマヤのようでしたね(笑) 

KADOKAWA(当時メディアファクトリー)のコミックエッセイプチ大賞で受賞し、見事書籍化デビューを果たされました。

――私生活を描くコミックエッセイは、周囲との信頼関係や、描き方もとても慎重になります。そんな熱いやり取りがあったのですね!そんな松田さんが立ち上げたはちみつコミックエッセイ編集部の中で、注目している作家さんや作品がありましたら教えてください。
 
野原 皆さんプロだな、上手だなと思って拝見しています。今メンタル的に優しいものしか読めないというのもあるのですが、小池ぬーみんさんの『結婚してから同じ布団で寝てません』は、絵も可愛いしギャグセンスがある作家さんだなと感じました。これからも面白いものを描かれそうですよね。こいしさんの『うっかり婚も気がつけば10年め。』もとても面白かったです。絵の可愛さや笑いのテンポがすばらしい!って思いました。こいしさんの多くを語らない表情がいいですよね。結婚挨拶の時に、こいしさんのお父さんが良い事言うな~と思いました(笑)

はちみつコミックエッセイ記念すべき創刊第1弾作品『結婚してから同じ布団で寝てません』(著/小池ぬーみん)

2023 年5月発売。主婦のしみじみとした日常にスポットを当てた『うっかり婚も気がつけば10年め。』(著/こいしさん)


――ありがとうございます!野原さんを目標としている作家さんも多いです。若手作家さんへのアドバイスや応援メッセージを頂けますか?
 
野原 若手作家の皆さんの作品から”描きたい”という気持ちがすごく伝わってきて、いつもエネルギーをいただいております。もしもアドバイスをするとしたら…と考えましたが、昨年壁にぶち当たって倒れ込んだ私がアドバイスするなどいかががなものだろう?と考え直しました。若手作家さんは若手ならではの新鮮な感性でひたすら描いて新しい世界を開拓して欲しいと思います。描いていると悩み落ち込むこともあると思いますが、それもまたエネルギーに変えて進んでもらいたいです。
 はちみつコミックエッセイは他の編集部とは一味違って、編集さんも共に頑張ってる姿が伝わってくる感じが新鮮なのですが、これからさらに面白い作品が出てくるのを楽しみにしています。
 
――心強いメッセージをありがとうございます。はちみつ編集部も作家さんと力を合わせて頑張っていきたいと思います。最後に、今後の意気込みや、描いていきたいテーマがありましたら教えてください。
 
野原 去年出版が落ち着いてから、「3年は休む」と宣言していました。でも最近また復活しました。休んでいる間に、私は皆さんに大事にされていたんだな…というのを実感しました。やっぱり描くのは楽しかったかもと思いましたし、描かないとやる事がないというのに気がつきました。コロナ禍だったというのもあり、人間ピリピリしてしまう事が多いですが、優しいものを描いていきたいし、そういうものが必要とされている気がします。無理をせずに、でも感謝を忘れずに自分に出来ることをやっていきたいです。
 
――野原さんの新しい作品楽しみです。心待ちにしております。改めてこの度は受賞おめでとうございました!

『人生最大の失敗』は、はちみつコミックエッセイのサイトから
試し読みいただけます。ぜひご覧ください。




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