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【かすみを食べて生きる 14 一般病棟⑩ 】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症12日目:一般病棟10日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。鼻からの経管栄養と点滴での水分栄養を併用。
・状態:歩行訓練中。日中、看護師付き添いで車いすでのトイレ可。嚥下訓練は昨日久しぶりに嚥下音が出た。

昨晩は途中で排尿もなく、通しで7.5時間ほど眠れた。
朝から体温も平熱。
3日前から経管栄養が始まったことで、排便を促すため昨晩下剤投入。
久しぶりに大便が出た。
この日は土曜でリハビリも理学療法士だけだった。

<発症11日目:一般病棟9日目   
発症13日目:一般病棟11日目>


かがみよかがみ

車いすでトイレに行けるようになったことで、もう一つ行けるようになった場所がある。
洗面所だ。
これまでベッドの上で、歯みがきはコップ一杯の水と小さな洗面器で行い、洗顔はあたたかなおしぼりで顔を拭いて過ごしてきた。
朝と夜、トイレに行くついでに看護師さんに洗面所まで連れて行ってもらい、しばらく過ごしてまた連れて帰ってもらう。
洗面所では好きなだけぶくぶくうがいができる。
顔も思いきり洗いたいけど鼻から経鼻の管が出ているので、うっかり管に手をひっかけて抜けないように注意して洗う。
そして洗面台には大きな鏡がある
大きな鏡が映し出す自分の顔は、目をそらすことのできない現実。
私の症状の一つに左の眼瞼下垂(まぶたが下がってくる)がある。
まぶたが腫れて四谷怪談のお岩さん状態。
左の顔面、目の上からおでこにかけて、触った感覚も鈍く、体感で2cmくらい分厚くなっていると感じる。
朝起きてすぐが特にひどい。
でも顔を洗って、化粧水で整えると少しマシになる。
鏡を前に顔を動かしてみる。
意識的に少し目を大きく開けて笑ってみると、目が細くなって眼瞼下垂があまりに気ならない、ような気がする。
「笑顔でカバー」の方針が決定した。

嚥下自主リハビリスタート

昨日のリハビリで、嚥下音「ごっくんのくん」が少し出たことを受け、嚥下の自主リハビリが解禁となった。
1回の自主リハビリで5回、口で氷を溶かして飲み込むことが許された。
嚥下音が出たといっても、まだ確率は低い。
「ごっくん」という音がしてのどに水が通る感覚があっても、一部の水が通りきらず気管のほうに行きそうになり、大きくむせる。
どういうときに成功するのか、どういうときにむせやすいのか。
1回1回の嚥下を記録していくことにした。
首を横に回す角度、あごを引く角度、あごの引き方、飲み込むタイミング。
無意識にやっていたことを意識的にやってみる。
飲めたと思っても、リクライニングから起き上がるとむせることも多く、飲みきれなったものがどこかに溜まっている感じがする。
引き続き、むせてしんどい訓練だけど、のどぼとけが「ごっくん」となってのどに水が通る感覚はただただうれしい。

嚥下自主リハビリのメモ

あめんぼあかいな

発症当初、呂律が回りにくかったので、滑舌練習の必要性を感じた。
何をやろうか考えたとき、学生時代入っていた吹奏楽部の隣で練習をしていた演劇部がいつもやっていた「あめんぼあかいな」をやってみたくなった。
スマホで検索すると「発声練習、滑舌トレーニング」としてすぐに出てきた。北原白秋の「五十音」という詩。
口ずさんでみると小気味のいいリズム。1行ごとに浮かぶ情景。楽しい。北原白秋すごい。
そして何度もやってみると「マ行」がもつれやすいことがわかった。
顔面左上の眼瞼下垂の影響で左の上唇の動きが少し鈍く、唇を使う「マ行」が言いにくい。
日によって、うまく読める日とそうでない日があった。
言語聴覚士の谷元さん(仮)にその話をすると、構音訓練の本にトレーニングの一つとしてその詩が載っているそうで、コピーをしてくれた。
スマホをスクロールしながら読むより、紙一枚を目線と同じくらいの高さにもって少し顎を引いて読むと口が回りやすかった。
ベッド上からは動けない時期は、他の方のベッドにリハビリが入り病室内がにぎやかになったタイミングで、一人小さく声を出した。
今は洗面所に行った時に声出しができるようになった。
鏡の前でやれると口の動きも意識できるのではかどる。
声を出すことは少しストレス解消にもなった。

あめんぼあかいな

あめちゃんもらった

一昨日私が気落ちしていたことが申し送られたのか、以前眠れない話を聞いてくれた看護師さんが来てくれた。
そして、あめちゃんをくれた。
言語聴覚士の谷元さん(仮)にも確認してくれたそうで、噛んで出すのであれば口にしてよしとのことだった。
看護師さんたちにあめちゃんを持っていないか聞いて集めてくれたそうだ。
お心遣い、ありがたい。味があるものを噛めるの、うれしい。
でももったいなくて食べれない。
(1個だけいただいた)

もらったあめちゃん

ー振り返って

私は学生時代、吹奏楽部と合唱部に入った経験があります。
この経験は意外と、嚥下ができなくなり体のバランスも崩している私の状況に応用がききました。
楽器を吹くにあたり、できないことは反復練習と分析を繰り返すと少しずつできるようになること。
できないところは分解して最小単位からやっていくこと。
息をしっかり吸って、しっかりはくこと。
また吹奏楽ではマーチングという楽器を吹きながらマスゲームをするようなこともやっていたので、「歩く練習」というのを重点的にやったことがありました。
合唱部では発声はもちろん、のどの使い方やのどぼとけを動かす練習をしていました。
隣の演劇部が「あめんぼあかいな」で滑舌と発声の練習をしていたのを、楽器を吹きながら毎日見ていました。
まさか、あの青春の日々がこんなところにつながっていようとは。

そして最近、これを書くためにひっぱりだした「あめんぼあかいな」の紙を子どもがみつけておもしろがるので、一緒に練習をしています。


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