以下は、石原ユキオさんの俳句と生存のネットプリント「副産物の会」vol.6(2022年12月)に寄稿した文章です。


「ただ、生き残るために−続「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」 高松霞」

きっと忘れられてしまう。悩みながら三年間の活動を終えた。

「江南通り魔殺人」をご存じかと思う。2016年5月、韓国ソウルの繁華街江南で起こった無差別殺人である。当時34才の男性はカラオケバーのトイレに潜み、偶然やってきた22才の女性を10数回に渡って刺し殺した。犯人は被害者と一切関係なかったこと、犯行動機として女性嫌悪を供述したことから、人々の大きな注目を集めた。SNSでは自身が経験した性暴力を告発する「#살아남았다(生き残った)」が流行し、2018年ごろに「#MeToo」が本格化する以前から韓国社会は議論を深めていった。

<「それで、あなたが失うものはなんなの?」>『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ/2016年)2018年、ソ・ジヒョン検事が上司から受けたセクハラと人事不利益を告発した。<「マイ・ボディ! マイ・チョイス!」>『僕の狂ったフェミ彼女』(ミン・ジヒョン/2019年)2019年4月、66年間続いていた「堕胎罪」に違法判決が出た。

韓国のフェミニズム運動は、確実に社会を動かした。しかし2022年現在、「男嫌いは出ていけ」「フェミニズムは精神障害だ」という反フェミニズムの動きが加速している。

2019年から2022年にかけて、プロジェクト「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」を行った。当時から私が危惧していたのは、寄せられた110件の体験談と支援の声は忘れ去られてしまうということだ。いつか絶対に風化してしまう。だからこそ、要望は「書面での声明」と「セクハラ窓口の設置」にこだわった。回答期限は1ヶ月延長して4ヶ月。結果を誰にも言えず、書き起こしを始めるまでにさらに2ヶ月を要した。

2022年11月、文学フリマ東京で短歌の友人のブースでパンフレットを販売してもらった。それをツイートし合ったところ、友人の元には「高松霞はどういった人物か」「どういった形で連帯できるか」という問い合わせが数件届いた。友人は男性で、問い合わせてきた人物も全員男性である。友人は「高松さん、どうする?」と連絡してきて、私はただ戸惑った。彼らは要望書の提出先でもあったし、プレスリリースの送付先でもあったからだ。私はそれまで、正しい、少なくとも、自分が正しいと信じていることを真っ直ぐにぶつければ、答えてくれるはずだと信じていた。私が男性であっても、女性であっても。

振り返るのは簡単だ。大切なのは、振り返れるようにしておくことだ。私たちが生きている場所では何が起きているのかを、10年後20年後に残さなければならない。私は、「なにを言われてもいい、どんな方法を使ってでも、やる」と決めてやってきた。だとしたら、ここからは。