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【詩】古墳にて

塚は、悠々と横たわっている
胸を張り、足を伸ばし
黙って、空を見上げている
なだらかに、草におおわれた
頂きは、杜に塞がれている

地中に置かれた亡骸は
この地を治めた主であろうか
名も記されず、取りのこされて
刹那の誉れを抱えたまま
眠りに、沈んでいる

山を削り、石を重ね
土砂を盛り、地面を掘って
築き上げた威光のむくろ
子々孫々に身をゆだねても
陽に焼かれ、風雨に疲れ
いつしか、忘れ去られてしまう

往時の威厳を諦めきれず
姿かたちを気取ってみても
変わり果てたまなざしに
ただ、通り抜けてしまうだけ

大地は眺めを変えただろう
山は姿を変えただろう
けれど、空の眺めは変わらない
峰の景色は変わらない

巨漢の赤子を築こうと
汗を流し、泥にまみれた無数の民人
踏み締める音、叱咤の叫び

「欲望」を「希望」にはき違え
「服従」を「忠節」にすげ替えて
「欺瞞」を「崇拝」と信じ込ませて

赤子の意味を問うこともなく
誉れの行く方を疑うもなく
泥山づくりに、精を出す

静まり返った眺めのむこうの
どこからか、声がする
陽が翳り、風が騒ぐ
朽ちゆくもない、塚の赤子は
永い眠りを掘り起こされて
地中の主の化身となる

大空を、飛行機雲が貫いていく
後を追う、ジェットの音色
空の眺めを、変えてしまった
科学は、知ったかぶりの、したり顔で
幾多の赤子を産み落とす
民人は、樹脂の細工に血道をあげる
薄っぺらな、張り子の孤児
見せかけだけの、裸のむくろ

墳墓の原を、風が吹きぬけていく
千年前も千年後も、変わらないのは
飛び交う鴉の黒さだけ



©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。