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【詩】ソラローロ

イタリア北部、エミリアロマーニャ
州都ボローニャの南東40キロ
その小さな田舎の無人の駅に
列車を待つ人影はなく
眩しいひなたの光を浴びて
真昼の眺めが、だまって立っている

並木の道に示された道標には
ブドウ畑を越えたむこうの
隣りの町の名が記されている
車は、脇目もふらず走りすぎてゆく
この町の、この道すじは
何もない通過点でしかない

けれど、路地の裏手には
古めかしい教会が聳え立ち
町の入り口には、堅固な城壁の跡と
いかめしい石造りの門が残されている
古址を辿れば、地中深く
遠い古代の遺物が眠り
その上に、二千年にわたる
攻防の歴史を重ねている

今はただ、暑い乾いた風を浴びて
思い出したように鳴る踏切と
線路をたたくローカル列車の音だけが
時の経過を告げている

ブドウ畑の茂みに
鳥の歌声が、響きわたる
並木のこずえを、揺すって走る
風の声音が、聞こえている

ソラローロ、太陽の申し子
この町は、空につながる通り路だ
明々と、照らし出されて
透き通る風が、駆け抜けていく
広く解き放たれた空間に
伸び伸びと、羽根をひろげて
よろこび、うたっている

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。