【詩】蝉
樹の幹で、蝉たちが啼いている
しがみつき、身を震わせて
声を限りに、張り上げて
長い土中の記憶もなく
たった一度の、真夏の日々を
懸命に、思いのまま
樹に集い、互いを競い合う
やかましく、にぎわい
おびただしく、さわぎ立て
やがて、ひとり、ちから尽き
あお向けに、落ちて
褪せたむくろを、残すだけ
季節のめぐりを、知ることもなく
希むもなく、哀しむもなく
かわいた腹を、さらしている
疲れて、ちぎれかけた翅を
風に、まかせて
©2023 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。