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【詩】メッシーナ(海峡)

大陸が伸ばしたつま先と
島から突き出た嘴が
触れようとする
青い、青いすき間
水面は深く揺れている
底知れぬ力を空に向けて
青い、青い水の路に
沈黙を湛えている

南イタリア、オリーブの実る岸辺
レッジョカラブリア
旅の列車はなじみの船着き場で
スイッチバックを重ねて
長い車列を折りたたみ
船の揺りかごに横たえる
しばしの眠りに
安堵の息をひそめている

船は波止場を離れた
波立つ潮の鏡を踏んで
滑らかな航跡を刻もうとする
滔々と流れる
大河のような無限の波
潮は、押し寄せ、ぶつかり
渦巻き、うねりとなって
船首を洗い、舵を奪おうとする
力まかせの怒濤の風が
加勢する、容赦なく
行く手をはばもうとする
海峡は、潮と風の交差点だ

岸と岸がすれ違う虚空に
まだ見ぬ橋梁をさがしている
海門を跨いで、飛び越えようと
宙に吊られた回廊を
幾たびも、夢に見ては
虚しく、あきらめてきた
人は、旅路の末に
退屈な日常を抜け出し
異次元の高揚に身を投じる
まなざしの白波に
鼓動の極まりをみつめている
着岸のメッシーナは
渇望の入り口にすぎない

太陽の島、シチリア
日に灼けた灰と岩の土地
人は、そこに束縛をほどいて
肌をさらし、汗を解放する
自由とは、何だろう
鮮やかな陽射し
潮にまみれた港のにおい
波の咆哮が聞こえる
船を迎える突堤の先端で
聖母が右手をのべて
よろこびを告げている
祈りに目を伏せて


©2022  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。