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富山県は本当に「『寿司』と言えば富山」になれるか? vol.5(氷見その1)

 前回までの連載(noteの過去記事をご参照ください)で私は、富山県が「『寿司』と言えば富山になるぞ!」と宣言したことに私がいろいろ考えを巡らせ、まずは富山の寿司屋を巡ってみようと思ったこと、富山県はキトキトの魚を旨い酢飯に乗せて〆に食べる「呑み寿司」という独自の文化があるのではないかという仮説を提示し、2泊3日で6軒の寿司屋を回ったこと、フーディー(食いしん坊)たちが寿司の標準だと思っている「世界標準寿司」が富山でも成長しつつあること、富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」のセッション『「寿司と言えば、富山」地方ブランドは本当に作れるのか?』に登壇して「世界標準寿司を増やしてまずは富山にフーディーを呼び、そこで呑み寿司の魅力も知ってもらう流れを作ること」を提案したこと、さらにはます寿司の魅力も発信することの必要性などについて記した。

 それから1ヶ月ほど時間があいてしまったが、それまでも、富山を訪れるたびに寿司屋訪問は欠かしていない。
 たとえば富山市内では、銀八と並んで老舗といわれる「えび寿司」。ここも呑み寿司の典型で、酒肴が豊富。なんと「甘えび頭の煮物」(300円)というのがあって、頼んでみたら、本当に頭を煮たものが10個くらい出てきて、それが味が染みてうまいんだなあ。「生ゲソ昆布〆」(800円)、「紅ズワイ塩茹で」(1600円)あたりを頼んだらすっかりいい気分。酒も地元の「林」「三笑楽」「羽根屋」などが揃い、すべて呑みたくなってしまうほど。最後に「並にぎり」をお願いしたが、9貫も出てきて2500円! 最後に穴キュウ(巻)を追加して最高にいい気分で、えび寿司を後にした。

甘えび頭の煮物
並にぎり
穴キュウ
庶民的な店内

 後日は、新高岡「すし処鳴海」へ。ランチなのでさくっとおまかせにぎりを頼み、追加で煮蛤(はまぐり)と穴キュウ(巻)。煮はまぐりなんていうと江戸前仕事の典型だが、大将の煮蛤も穴子もうまい。酢飯もしっかりしているし、これは世界標準寿司の一翼に加えてもいいのではないか。夜にもう一度行こう。

煮はまぐりが素晴らしい
カンパチ
白エビ
当日のおすすめ
メニュー表

 富山市内にもまだまだ行かねばならぬ寿司屋はあるのだが、ここでちょっと地方遠征を試みることにした。まずは氷見へ。
 氷見と言えばブリだが、私が訪れた11月下旬はすでに充分に脂は乗っているものの漁獲量が安定せず「寒ブリ宣言」を出せない状況だった。氷見に関しても下調べはしてあった。安定しているのはミシュランンのビブグルマンにも選ばれている「城光」だが、一年ほど前に新しくできた「成希」もちょっとそそられる。この2軒は先行して予約をし、あとは評判を聞きながら探してみることにした。
 氷見に到着したのはランチ前。市内でも老舗の名店として知られる「鮨よし」を車内から予約した。ちょっと離れているので、氷見駅前からタクシーで行こうと思ったのだが、タクシーが来ないのでバスでのんびりと。

立派な門構え

 鮨よしは店構えが立派で、入ると大きなL字型のカウンターがある。だが、この日は予約で満席ということで個室をひとり、優雅に使わせていただいた。ドリンクメニューを拝見すると、銀盤、若鶴、三笑楽、勝駒など地元の酒とともに、満寿泉限定酒や而今、黒龍、田酒、作など他県の入手困難酒が並び、こちらの店が古くから信頼され、いい仕入れルートを持っていることがわかる。それにしても富山県はいい日本酒が多い。とはいえ、ワインも、アンリ・ジロー、ドン・ペリニヨン、プピーユ、シャトー・ラグランジェなど品ぞろえが良くてリーズナブル。すごい店だなあ。

白エビ、甘エビ、バイ貝
あじとブリ
日本酒のラインアップが素晴らしい
カワハギの肝醤油

 誘惑に負け、勝駒純米酒と一緒に、昼なので地魚中心のおまかせにぎりを頼む。出されたものは、白エビ、甘エビ、バイ貝、アオリイカ、コショウダイ、石鯛、あじ、ブリ、ミナミマグロ、シメサバ、イクラ、ウニ。酢飯は米酢で甘めだから、ネタの良さが際立つ。富山に行くとバイ貝が食べたくなるが、最初から出てきて感激。白身の状態もよく、ブリの脂の乗りも上々。最後に、仲居さんおすすめのカワハギの肝醤油乗せの握りを頼み、かわはぎの味噌汁とともに味わった。
 夜は「城光」へ。日中、氷見の誇るワイナリー「セイズファーム」に寄って、「アルバリーニョ 2022」を特別に持ち込ませていただいた。だが、この日はふたりだったので、あっという間に空けて日本酒へ。ブリの刺身から始まり、香箱蟹など季節の逸品を味わい、握りへ進む。写真にある白板のメニューからおまかせでお願いしたのだけれど、富山は白身がうまいよね。いくらは北海道だと思っていたら、氷見でとれた秋鮭のいくらだと聞いてびっくり。煮蛤といった「仕事」を施す握りもうまく、やはりここは「世界標準寿司」の一画を占めるにふさわしい。あまりに楽しくて、夜の帳へ昭和歌謡を歌いに行ったのは内緒だけどね。

仕事のしてある寿司がいい
季節の香箱蟹
いくらも氷見産

 翌朝からはひとり行動。まずは市場食堂で、氷見浜丼と鰹の刺身、白海老コロッケを食す。いまはセイズファームを経営している「釣屋魚問屋」の運営で、釣吉範社長も顔を出してくださった。実は20年以上前、前職の出版社で「日本市場食堂めぐり」という連載をやったことがあった。当時から氷見のブリは有名だったが、ブリは成長魚だから、ブリの子供であるフクラギも旨いのか? というわけのわからない企画で、夏に氷見に出かけたのがはじめての氷見。「フクラギはやはり脂が乗っていないなあ」という結論だったが、だって寒ブリの1/10の値段だからね。

つみれ汁
氷見浜丼

 昼は「松葉寿司」へ。氷見市の副市長は現在、民間からの公募で、元TBSの篠田伸二さんが2020年からされている。奥様も有名でご本人もかっこいいが、ひょんなことでご紹介をいただいた。そして、事前のやり取りでいくつかの寿司屋を挙げたら「君は大切なところを外しているよ」と教えていただき、「ここのちらしは食べないといけない」と御一緒させていただいたのが、この寿司屋。
 なんとこちら、カウンターがない。最初、裏口から入ってしまったのかと思うほどで、たしかにこの店をはずしてはいけないね。前菜にブリ大根ならぬ、ブリ大根で出汁を取った素の大根からはじまる。ちらしははたしかに不思議な外見。見た目は錦糸卵といくらだけだが、実は裏にたくさんの海鮮が隠されている。これが楽しくて美味しい。来てよかった。夜はカジュアルな呑み寿司になるらしい。

普通の民家のような店構え
ぶり大根の素大根
錦糸卵の下にたくさんの魚が隠されている

 さてと、氷見の最後の夜は前述の「成希」で締めるはずだったが、その前にどうしても行かねばならぬ寿司屋が出来てしまった。「亀寿司」である。というのも、釣社長から「氷見は亀寿司だよ。俺なんか50年以上週に3回は行っているから。でも握りは食べなくていいよ」という謎のリコメンドをいただいたのだ。どうやら、氷見を代表する「呑み寿司」らしい。
 実は、軽い気持ちで松葉寿司でちらしを食べたあとに、天気がいいのでぶらぶらと亀寿司まで場所を探しに行った。いかにも庶民に愛される町の寿司屋の外観。それを見て、これは行ってみたいなあと突如、思ってしまったのだ。

いかにも町の呑み寿司

 だが、その時はいったんホテルに帰着。途中、行列のラーメン屋もあったのだが、ラーメンはあまりわからないのと、これ以上食べられないのでパス。帰りも歩いてなんとかしてカロリーを落とそうと無駄な努力をした。
 というわけで次回は、亀寿司と成希を書くよ。まだまだ続く、富山寿司の旅。

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