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富山県は本当に「『寿司』と言えば富山」になれるか? vol.1(承前)

 突然、こんな連載を始めようと思いついた。なんでそう思ったかを今回は丁寧に書いていこうと思う。関係者は苦虫を嚙みつぶしたくなるような気持になるかもしれないが、まずは私の正直な思いだからだ。
きっかけは6月10日のこの記事だ。

〈富山県を連想させるブランドの確立や効果的な情報発信の在り方を考える富山県ブランディング推進本部は9日、2023年度の第1回会合を県庁で開いた。「うどん県」の認知度アップに取り組む香川県を参考に、都市部で「すしと言えば富山」を連想する人の割合を今後10年間で90%にする目標を掲げた。〉

 という内容なのだが、私は瞬間的に「これは無理だろう」と思った。そして同日、Facebookにこんな投稿をした。

〈高級寿司は金沢がデファクト・スタンダードを確保している中、中途半端に寿司というだけでは結局誰にも響かないよね。富山にしかないものを目指さないといけないと思うんだけどなあ。回転寿司なら富山という時代はあったけど、いまや回転寿司は逆風だし、回転寿司によくいく層はそれを食べるためだけに富山には行かないと思う。〉

 そのとき思ったのは、もし寿司をやるなら、富山の名物として定着している「ます寿司」を深く掘り下げるのが一番だろうということ。市場的には大きくないかもしれないし、県外では大きなブランドしか知られていないが、県内には20を超えるます寿司生産者がいて、とてもバラエティがあることを知っていたからだ。
 ところが、それからずっとそのことを考え続けて、考えを変えて8月にこんな投稿をした。ちょっと長いが、お読みいただきたい。

〈「寿司といえば富山県」を推進したいという記事が出た時、私は絶対、無理筋だと思った。関係者は「富山は魚も美味しいし、米も旨い」という。たしかにその通りだが、魚も米も旨い県はほかにもゴマンとある。地方の高級寿司は金沢がデファクトスタンダードを握っているし、富山は一時期、回転寿司で有名だったが、回転寿司にお金を落とす層がわざわざそのために富山を目指すとは思わない。富山寿司空港や富山寿司駅なんていうハコモノブランディングは昭和の発想。いまは実がないとすぐに見抜かれてしまう。香川がうどん県で成功したのは、もともと旨いうどん屋がやまほどあったからだし、それを発展させようという媒体が先行し、それに行政が乗っかったからだ。本(『ニッポン美食立国論』)にも書いたが、私は圧倒的に勝っているヘンタイを見つけて磨き上げないと勝てないと思っているが、富山のヘンタイは寿司じゃないんじゃないか? というわけだ。
「だが、待てよ」と思った。「おまえは富山の寿司を知っているのか?」という疑念が湧いたのだ。有名な寿司屋はいくつか行っているが、都内で私が大切にしているような隠れ寿司屋を富山では知らない。そういう店が富山にないはずがないのだ。しかも私は祖父が富山出身という関係で「とやまふるさと大使」を拝命しているし、父の作品の常設展示がある高志の国文学館のアドバイザーでもある。富山には大恩があるのである。ならば、富山は本当に「すしといえば富山県」になれるのか、富山の寿司屋を回って、検証してみようと思ったのである。このところ北陸に行くことが多いので、それなら富山の寿司屋もいろいろ訪れたい。富山の高級寿司といえば「鮨し人」「GEJO」「大門」あたりが有名だが、きっと地元の知る人ぞ知る店はあるはず。そのあたりを検証してみて、やっぱり「すしといえば富山」は無謀なのか、いや実は富山すし県は大いにあるのかを探ってみようという試みなのである。考えてみれば「くちいわ」も「ねんじり亭」も最初はローカルな蕎麦
屋だったり、小料理屋だったはず。それがいつしかフーディーに発見され、岩瀬に移転したわけだ(このくだりはちょっとオタクっぽいけど)。
というわけで、富山在住の皆様、そして富山が大好きな皆様、「この寿司屋、美味しいよ」という情報をぜひ教えてくださいませんか。こっそりDMでも結構です。「こんな面白いネタがある」「ここのつまみはヘンタイチックで最高」なんて店がきっとあるはず。面白そうな店ならたとえ僻地であろうと、レンタカーを借りてでも行っちゃいます。もちろん、大当たり! が見つかったなら、その戦果はみなさんと共有しますね。〉

 投稿にも書いたが、私自身は東京で生まれ育っているのだが、祖父が富山県入善町出身で父がその入善町に縁故疎開しており、その体験を小説にした関係(しかもそれが藤子不二雄Aさんのおかげで漫画や映画「少年時代」となり、主題歌を井上陽水さんが歌ってくださっている)で「とやまふるさと大使」を拝命しているし、父の作品の常設展示がある「高志の国文学館」のアドバイザーにもなっている。ほかにもさまざまなご縁をいただいており、富山を愛する気持ちはだれよりも強いと自負している。

 それならなおさら、頭ごなしに結論付けるのではなく、まずは実地調査をしてみようと思ったのである。私のサラリーマン時代に一番長くいたのは週刊誌の編集部だった。いまやいろんな意味で有名になった「文春砲」の製造現場である。そこで私が叩き込まれたことは、「まずは現場を踏め」ということである。頭で考えるだけではミスリードしてしまうことが多い。何度も現場に行けば、そこに真実が眠っている、と。
 さらにいえば、私は東京を中心にそこそこの寿司屋を食べつけている。江戸前だけが一番というつもりもなく、日本の風土に根付いた寿司という文化を愛してもいる。だからこそ、まずは富山の寿司を虚心坦懐に味わってみようと思ったのである。
 幸いなことに富山には多数の友人がおり、そのほとんどが食いしん坊で美味しいところの発掘が大好きだ。彼らに「お知恵をお借りできないか」という相談を持ち掛けたところ、あっという間に皆さん、これまで隠し持っていた穴場をご紹介くださったのである。ありがたい。
 私のこれまでの多少の知識でリストアップしていた店から、まったく知らなかったところまで、ほぼ富山全域を網羅できそうな寿司屋が並んでいる。
 ここまで宣言してしまった以上、いかねばなるまい。
 その嚆矢にふさわしい店も見つかった。富山県の玄関口、富山空港の到着ロビーの隣にある「とやま鮨たねや」である。

富山空港の国内線到着ロビーの横という絶好のロケーション。

「とやま鮨」は富山駅前にある回転寿司の名店として知られるが、こちらは回らない。かつては回っていたとも聞くがいまは、種口さんという名物店長のもとで抜群のキトキトの寿司を出すという。
 ここから始めないでどうする! というわけだ。
(vol.2に続く予定)

この7つのこだわりも富山らしい


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