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「ダイバーシティ&インクルージョン」をコレクティブインパクトで。そして大企業・デベロッパー・渋谷区・東京都の役割とは。

1. ダイバーシティ&インクルージョンの重要性の高まり

近年、ダイバーシティ&インクルージョンが社会全体でますます重要視されるようになってきました。この背景には、グローバル化の進展や社会的な価値観の変化があり、特に企業や組織においては、D&Iが単なる倫理的義務ではなく、持続可能な成長や競争力強化のための戦略的な要素として位置づけられています。

多様な人材が組織に集まることで、異なる視点や経験が融合し、イノベーションが生まれる土壌が整います。例えば、マッキンゼーの調査によると、多様性のあるチームは、そうでないチームに比べて、イノベーションを推進する能力が高いことが示されています。また、D&Iが進んだ企業は、従業員のエンゲージメントや生産性が向上するだけでなく、顧客や地域社会からの信頼も獲得しやすくなります。

日本でも、D&Iの推進が求められる背景には、少子高齢化による労働力不足や、グローバル競争の激化が挙げられます。日本企業が国際的な競争力を維持し、持続的に成長していくためには、多様な人材を活用し、彼らが最大限に能力を発揮できる環境を整備することが不可欠です​。

2. NPO、行政、企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進事例

NPOの事例: 日本では、特定非営利活動法人ReBitをはじめとする多くのNPOが、LGBTQ+や障害者支援、多文化共生をテーマにD&Iを推進しています。ReBitは、LGBTQ+の若者が直面する教育や職場での差別に対処するためのサポートを提供しており、これにより多様な背景を持つ若者が社会において積極的に活躍できる環境を整備しています。

また、特定非営利活動法人DPI日本会議は、障害者の権利擁護やバリアフリー社会の実現を目指しており、政策提言や啓発活動を通じて社会全体のD&I意識を高める役割を果たしています。これらの取り組みは、特に地域社会におけるD&Iの推進に貢献していますが、資金やリソースの制約が依然として大きな課題となっています。

企業の事例: 日本の企業でも、D&Iを経営戦略に取り入れる動きが広がっています。例えば、コクヨは、性別や顔写真の記載を不要とする履歴書を導入し、応募者のジェンダーや外見に基づく差別を排除することを目指しています。この取り組みは、平等な雇用機会を提供するだけでなく、企業文化として多様性を受け入れる姿勢を明確に示すものです。

ソニーでは、女性のリーダーシップ促進や障害者の積極的な雇用を通じて、社内でのD&Iを推進しています。また、女性の管理職割合を増加させるためのプログラムを展開しており、障害者が安心して働ける環境を整えるためのバリアフリーデザインのオフィスや、柔軟な勤務体系の導入にも取り組んでいます。これにより、社員一人ひとりが持つ多様な能力を最大限に発揮できる職場環境が整えられています。

行政の事例: 行政レベルでも、D&Iの推進に向けた政策が進展しています。例えば、東京都は「ダイバーシティ東京推進計画」を策定し、LGBTQ+フレンドリーな環境整備、多文化共生の促進、そして女性の社会進出を支援する取り組みを行っています。また、神奈川県は、障害者が地域社会で自立して生活できるよう、教育プログラムや雇用支援策を強化しています。

さらに、日本政府全体としても、企業に対して障害者雇用の目標を設定するなど、D&Iを推進するための法制度の整備が進んでいます。しかし、これらの取り組みが現場レベルで実効性を持っているかどうか、またそれがどの程度のインパクトをもたらしているかについては、まだ評価が分かれるところです​。

https://www.japan.go.jp/topics/Diversity_Equity_and_Inclusion.html

3. 対話不足による課題

各セクターがそれぞれ優れた取り組みを行っている一方で、対話や連携が不足していることが、D&Iの取り組みの効果を限定的なものにしてしまっているという現状があります。企業が進める女性活躍推進や障害者雇用の取り組みがあっても、NPOや行政と効果的に連携していない場合、そのインパクトは限られた範囲にとどまります。

例えば、ある企業がLGBTQ+支援を進めているとしても、それが地域社会全体で受け入れられ、理解されていなければ、企業単独での努力は持続的な変革には結びつきにくいです。また、行政が設定する障害者雇用の目標も、企業が実際の職場環境を改善し、障害者が実際に働きやすい環境を提供するための連携がなければ、形骸化してしまう可能性があります。

このような状況では、各セクターが個別に努力しても、全体としてのインパクトが分散し、真の意味での社会変革にはつながりにくいのが現実です​。

4. 「ダイバーシティ&インクルージョンをつなげる30人」の提案

こうした課題を克服し、D&Iにおけるコレクティブインパクトを実現するためには、異なるセクター間の対話と連携を強化することが不可欠です。そこで、「つなげる30人」のような共創コミュニティが果たす役割が重要です。

「つなげる30人」は、NPO、企業、行政がフラットな関係で対話し、共通の目標に向けて協力するためのプラットフォームを提供しています。これにより、各セクターが持つリソースや知見を統合し、より大きな社会的インパクトを生み出すことが可能となります。このような取り組みを通じて、D&Iの推進が単なる個別の努力ではなく、社会全体の持続可能な変革をもたらすものとして機能することを目指しています。

「つなげる30人」が提供するこの共創の場を通じて、D&Iの取り組みが広がり、社会全体における変革の波が起こることを期待しています。これこそが、D&Iを真に推進し、未来に向けた持続可能な社会を築くための鍵となるでしょう。

5.日本の大企業の役割

そのような中、日本の大企業は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で、重要なリーダーシップを発揮する役割を担っています。特に、日本は労働力の減少やグローバルな競争の激化に直面しており、大企業が積極的にD&Iを取り入れることで、社会全体に影響を与えることが期待されています。大企業は、その規模と影響力を活かして、取り組みを社内にとどまらず、サプライチェーンや地域社会全体に広げることができます。

また、大企業は資金やリソースが豊富であるため、革新的なプログラムを開発し、それを他の企業や団体が模倣することで、業界全体に変革をもたらすことができます。例えば、企業内での多様な人材の採用や育成、インクルーシブな職場環境の整備は、他の企業や中小企業にとってのモデルケースとなり、社会全体に広がる可能性があります。

さらに、大企業は政府やNPOと連携することで、ダイバーシティ&インクルージョンを政策提言や社会的な運動を推進することが可能です。こうした取り組みは、単なる企業内の施策としてではなく、社会全体の変革の一部として位置づけるために重要です。

6.まちづくりを担うデベロッパーの役割

特にデベロッパー企業は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で独自の重要な役割を果たしています。デベロッパーは、都市計画やインフラ開発を通じて、地域社会の物理的な環境を構築する責任があります。そのため、彼らの決定は、住民の生活の質や地域社会の持続可能性に直接影響を与えます。

デベロッパーがダイバーシティ&インクルージョンを取り入れた都市開発を行うことで、例えば、バリアフリー設計や多文化共生を考慮した公共スペースの提供など、地域全体がより包摂的な環境となります。これにより、さまざまな背景を持つ住民が快適に暮らせる街づくりが実現し、地域社会全体の活力が向上します。

さらに、デベロッパーは、大規模なプロジェクトを通じて、地域経済に多大な影響を与えることができます。多様なバックグラウンドを持つ労働者の雇用や地元の中小企業とのパートナーシップを推進することで、地域の多様性を尊重しながら経済的な恩恵を広げることが可能です。

このように、日本の大企業、特にデベロッパー企業は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、社会全体にわたるコレクティブインパクトを生み出すために、重要な役割を果たすべきです。彼らのリーダーシップと影響力を活かして、ダイバーシティ&インクルージョンを根付かせ、持続可能で包摂的な社会の実現に貢献することが期待されています。

7.行政、特に渋谷区及び東京都の役割

渋谷区と東京都は、行政としてダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で、極めて重要な役割を果たしています。東京都は、先に述べたように「ダイバーシティ東京推進計画」を策定し、LGBTQ+フレンドリーな環境を整備し、多文化共生の促進に力を入れています。この計画は、性的マイノリティへの理解を深めるための教育プログラムの実施や、性的指向や性別を理由とした差別を防ぐための条例の策定などを含んでおり、ダイバーシティ&インクルージョンの理念を具体的な政策に落とし込んでいます。

特に渋谷区は、2015年に日本で初めて「パートナーシップ証明書」を導入し、LGBTQ+カップルに法的な保護を提供する先進的な取り組みを行っています。これは、渋谷区が多様な家族形態を尊重し、すべての住民が安心して暮らせる環境を整えるための重要なステップとなっています。また、渋谷区は、地域の企業やデベロッパーと連携し、ダイバーシティ&インクルージョンを考慮した都市計画を推進しています。公共スペースのバリアフリー化や、異文化理解を深めるイベントの開催など、地域社会全体で多様性を受け入れる取り組みを行っています。

さらに、渋谷区と東京都は、NPOや民間企業との協力を強化し、D&Iに関する教育や啓発活動を通じて、地域社会の意識を高めています。これにより、東京都全体でD&Iを推進し、住民一人ひとりが多様性を理解し、尊重する社会を築くことを目指しています。渋谷区と東京都のこうした取り組みは、行政がダイバーシティ&インクルージョンの推進において果たすべきリーダーシップを示しており、他の自治体にとってもモデルケースとなるでしょう。これにより、首都圏全体でのコレクティブインパクトが期待されます。

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