見出し画像

筋トレエレジー

親譲りの甘党かつ炭水化物愛好家である。当然太る。
今まで見て見ぬフリをしてきたのが、ここ一年程度でいよいよ誤魔化し切れない変化となって現れる。具体的に言うと、就活の時に余裕があったスラックスが入らない。転職活動にあたって久々に引っ張り出してみたら、えらくきついので参った。
新調する金も無いから仕方無くそれを履いて「きついなあ」「きついなあ」と思いながら面接など受けたりしていたから、振り返ってみると僕の転職活動が中々うまいこと終わらなかったのは、最低でも八割九分くらいはスラックスのせいだと思っている。
転職したらしたで、飲みが多い。昼は近場の定食屋に連れて行かれる。しかもどこへ行っても白飯がお代わり無料だったりする。今までは飲みなんて期末年末くらいのものだったし、昼も家から持参した弁当を黙々と食うだけだった。そんなだから、やはり体重は増える一方である。

一応、言い訳程度に運動はしていた。
一週間に二、三回のペースで夜には走りに行き、そうでない日はヨガマットを広げて腹筋、腕立て伏せ、スクワット。このスクワットがジャンピングを伴う結構キツめに負荷がかかるやつで、こりゃいいやと調子に乗ってしばらく続けていたら、ある日の朝、玄関のドアに貼り紙、サインペンか何かに汚い殴り書き。

「もうちょっと静かに歩けよ!! 毎晩毎晩うるせえんだよ!!」

我が家はアパートの中でも一階の角部屋だったから騒音とは無縁と思っていたが、そうでもないらしい。ドタバタスクワットはやめよう、って言うか家トレそのものをやめよう。また貼られるかも分からんし。

泣く泣く近場のジムの会員になった。24時間使い放題で8500円也。8500円かあ! 僕はこれから好き好んで8500円も払って、わざわざ死にそうな思いをするんだな。人間は矛盾だらけの生き物だ。
それから三ヶ月通い続けていて、やはりジムは快適だ。空調はガンガン効いているし、マシンも綺麗で新しい。人で埋まってマシン待ちになることもないし、今のところ何の文句も無い。相変わらず食べてはいるから腹回りに大した変化は無いが、多分これからだと信じている。
折角そういうところに通うんだからと、慣れないベンチプレスを始めた。最初は50kgで精一杯だったのが、80kgを複数回持ち上げられるまでになってきた。
すると見た目にも大分変化が来るようで、お前、そんなに肩周りデカかったっけ、と尋ねられる。三ヶ月そこらでそうそう変わるもんじゃないだろうと思っていたが、この前久々に背広に袖を通したら、見るからに小さくなっていた。肩周りがきつ過ぎて、背広が全体的に浮いている。
おかしいな。スラックスが入らないから始めたジム通いで、スラックスはおろか背広すら入らなくなった。こんな理不尽なことがあっていいのか。

「有酸素を頑張ってください」

最近は渋々ランニングマシンを回している。ただ走っているだけだと退屈だから、専ら音楽を聴いたり動画を見たりしながら、早く目標時間になってくれ、なってくれとだけ考えている。
僕が使っているワイヤレスイヤホンにはリモコン昨日が備わっていて、例えば音楽を聴きながらイヤホンの側面に触れると一時停止する。もう一回触れると再生。右耳の方を二回連続で触れると音量が上がり、左耳で同じようにすると音量が下がる。便利なのだが、問題は感度があまりにも良過ぎて、もみあげが側面をかするだけでも「触れた」と認識してしまう。
だから、髪を切る前は常にこんな感じだった。

「無敵のえピッ……ピッがおが荒らピッ……ピッ」
「知りたいそのピッ↑ピッ↑ピッ↑ピッ↑ピッ↑ミステリアス!!!!」
「抜けてるとこさえ↓ピッ↓ピッ↓ピッ↓ピッ↓ピッ↓エリァ……」
「完璧で嘘ピッ……ピッ」
「天才的なアピッ……ピコン『御用件は何でしょう?』」

流石に気が狂いそうになったから、美容院に行って

「もみあげを無くしてください。もみあげは不要です。快適なミュージックライフを阻害する善良ないちリスナーの敵です」

と言ったところ、僕の言葉にいたく感動したのか、美容師さんは見事にもみあげを切り取ってくれた。
ここで僕のアイコンを見てください。一応僕の似顔絵という体でやっていますが、もみあげが無いことにお気付きでしょう。どうですか、気付かなかったでしょう。とうとう点と点が結ばれましたね。皆さん、これがマニエリスムです。

ベンチプレス上げてきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?