アイソレーションタンク

誕生日の前日、六本木にあるアイソレーションタンクへ行ってきた。
そもそもアイソレーションタンクを教えてくれたのはもちだった。スピリ(スピリチュアル)を面白がり、自らの身をもって楽しんでいる私たちはそういったスピリ案件を見つけるたびによく情報共有している。

〜そもそもアイソレーションタンクとは〜
感覚を遮断するための装置であり、光や音が遮られた空間で、皮膚の温度に保たれた高濃度のエプソムソルトの塩水に浮かぶことで、皮膚感覚や重力の感覚を大きく制限することができる。リラックスを目的として、また心理療法や代替医療として使われている。(Wikipedia)

外部からの一切の情報を遮断し、ただただまっさらな状態で、暗闇の中浮かぶのだ。
"生まれる前の胎児のように思考や肉体の感覚を離れ、時を忘れるくらいのフロー状態が経験できる"らしい。
とても怪しい。そしてそんなことを言われて興味をそそられないわけがあるだろうか。
気になった人はアイソレーションタンク、もしくはUNBORNで調べてみて欲しい。


そんな感じで大きな興味とわずかな緊張を抱えながらいざ六本木へ。
お店へと続く薄暗い階段を一段一段降りていく。水中のような音がコポコポと鳴っていた。下まで降りた先に現れるのは大きな黒い扉。おそるおそる扉を開けると少しひらけた空間の中で店員さんに迎えられた。しっとりとしたお姉さんを想像していたが、予想外にエグザイル系で少し笑う。
説明を聞いた後、水に溶かしたCBDオイルを摂取。
さらに手にアロマオイルを塗って息を吸い込み、よりリラックスへと誘われる。これから体験する未知の出来事を受け止められるよう、脳がどんどんほぐされてゆく。


いよいよ別室へ案内された。
ひとりひとり個室になっていて、かなりスタイリッシュなシャワールームと洗面台が併設されている。
そしてなによりもまず目に飛び込んでくるのは大きなアイソレーションタンク。丸みを帯びてつるんとした白色のタンクが部屋の横にずしりと鎮座しており、中には高濃度エプソムソルトの塩水がゆらゆらと揺れている。
そしてその塩水をぼやっとしたライトがゆっくりと色を変えながら幻想的に照らしだす。とてもあやしく魅惑的である。
メイクを落としてシャワーを浴び、耳栓をし(塩が濃過ぎて炎症を起こす)、完全に何も持たない状態でいざ中へ。


おそるおそる足を入れてみると、意外と浅い。そして熱くも冷たくもないぬるま湯に迎えられた。人の体温に近いらしい。温泉でたまに不感湯というのがあるけれどそんな感じだった。
まず体育座りで座り、初めの音声ガイダンスに従ってそのままゆっくりと背を水に浸していく。

…浮いた!
すべて身体を預けるとぷかんと浮いた。
いとも簡単に身体が水に浮いているので脳が???状態になる。20数年生きてきて初めての感覚。

正直60分間の中で、慣れるまで初めは時間がかかった。濡れた手で目を触って悶絶したり、慣れていないと首の力が抜けず首に痛みを感じたり。試行錯誤のすえ首を上げて頭の重さを落とすと解消された。頭は重い。
身体を浮かばせながらぐるぐるといろんなことを考えてしまっていた。ただ、初めのガイドに従って考えていることを一旦そのままにして観察していると、しゃぼん玉が弾けるように静かにパチン、パチンと消えていった。そして聞こえるのは自分の心臓が脈打つ音だけ。


さらに目を閉じてそのままじっとしていると、次第に身体が慣れてゾーンに入ってきた。一度そのゾーンに入るとだいぶ浮遊感がある。
不思議なことに重力から解放されていると、なんだか精神もふわふわしてくる。自分と他との境界線が曖昧になって、意識も解放されてゆく。
頭の中で、次第に宇宙が浮かんできた。嘘のようだが本当にイメージが浮かぶ。
 真っ暗な無重力空間。無数の惑星が散りばめられ、遠くに銀河系があるような。そこに私が漂っている。私というよりも、私の精神が漂っている。

またさらにしばらく浮いていると、今度は水草になっていた。海や川底に生息する水草としてゆらゆらと揺れている。タンクの中に波などは無いのに揺れていた。そこにただ身を任せて何も考えずぷかぷかしていた。


そのまま揺れていると終わりの音声がじわぁ〜っと鳴り始める。
ふぁわ…としたままゆっくりと起き上がり、シャワーを浴びて外に。待合室のようなところで無重力チェアに座ってお茶をもらう。産まれたての人みたいになり、ぁわ…ども、、みたいなことしか喋れない。なにしろさっきまで水草だったのだ。
最初に記入したカルテを確認してくれたのか、明日が誕生日ということで0% NON-ALCOHOL EXPERIENCEのノンアルワインもいただいた。
そうしてふらふらと外に出て、人間界の重力を感じながら浮遊体験を終えた。簡単に瞑想を極めつくした感覚になり(そんなことはないのだが)とても楽しかった。またやりたい。



そういえば最近20歳になる前日の日記をなんとなく見返した。
その日私は工事中の渋谷の街が見渡せる、高い場所に1人でいた。周りに人はおらず、台風が近づいていた。
グレーの雲に覆われた眼下の渋谷をみながら、静かなひとりきりの空間で私はこう思った。
"…でも、外の騒がしい世界とは対照的に室内で見るそれはやけに静かだった。人が何かに向かってせわしなく動く渋谷の様子とは全く別の次元で、台風のためかあまり人もおらず雨音さえも遮断された静謐な空間  、
そこで確実に私は何者でもなかった。1人で、どこの世界にも属していなかった。身体と肉体から、精神から、私という名前を持った個体から解放され別の存在になれたのだ"


形は変われど考えていることは変わらないね。
そうしてまたひとつ年をとった。26歳もよろしくおねがいします。

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