勢いって大事よ時には

 物事にはタイミングというものがあって、なんだか良くわからないけど、勢いと自問の絶妙なブレンドによって、普段の自分では思いもよらない行動を起こすことがたまにある。

 十数年前、イギリスに行ってきた。一週間という超短期のホームステイ。仕事があったからそれくらいが休めるギリギリだったというのもあるが、三十代手前での初海外、しかも一人旅(というか勉強なのだが)、かつ資金的な問題もあって、一週間がとても丁度良かった。また上手い具合にそういうプランを見つけてしまったというのもある。
 その頃、仕事で英語を使うことが割とあった。基本は翻訳のための下訳作業だが、時々喋ることもあった。本来、中学の頃から英語は苦手だったのだが、やっていると存外楽しいもので、それが高じて英語教室に通うようにもなっていた。何か目標があった方が良いだろうと思い、ひとまず英検二級を目指して。……なんでTOEICもしくはTOEFLにしなかったんだろ。
 さておき。
 勉強をしていく中で、教室の先生から「もう一個上を受けてみたら?」と言われ、それもそうかなと思い英検準一級に目標を変えた。過程は省くが、なんとこれが受かったのである。自分でも驚いたが――繰り返しになるが、教科で二番目くらいに苦手だったのが英語だ――これで自信がついたことが、直接的にホームステイへと繋がったと言える。
 昔は自分の生活圏で生きるのが好きで、旅行もさほど好きではなかったのだが、ある時期を境に急に一人旅が好きになり、あれよあれよと一人海外。自分ってこんなに外に出て行くタイプではなかったんだけどな、と首を傾げたりなんだり。これは本当に、そのときの脳内楽観主義者が自問を制し、勢いという波に乗りまくった結果だと思う。

 そんなわけで行って来たイギリス。一度先生と一緒にハンプトンコートパレスへ行ったくらいで、一週間のうち六日はステイ先の家の周り――サリー州のどこだったか忘れた――で過ごしていた。観光は、帰国日にロンドン市内を一人で歩き回ったくらいである。要所を見回るには到底時間が足りない。食事も、イギリス一般家庭の、おそらく簡素な感じ。
 でも、日本とは違う空気に触れて、違う景色の中で、異国人として生きるのは、とても楽しかった。ステイ先宅のある住宅街を早朝に散歩したり、本場のフィッシュアンドチップスを食べたり、同じようなのに決定的に何かが違う車窓の景色を眺めたり、大英博物館に感動したり、ウェストミンスター寺院の前でお金をたかられたり、バッキンガム宮殿に行くときに道を聞かれたり……記憶に刻まれている。
 これも全て、自らの思いもよらない思い切った良い舵取りの結果だとすると、なんとなくえいやで行動するのもありだと思うのだ。本当、良い旅だった。
 たまには、慎重の枷を取り外してみるのも悪くない。


 
 ところで、そもそもは「気になった映画があっても普段全く見に行かないのに、タイミングや状況、そのときの気持ちがばっちり重なって、ゆるキャン△の映画を公開初日に観に行くことにした」ということを書こうと思っただけなのだが、なぜ初めて海外へ行ったときの話になったのだろう。不思議。

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