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届いちゃいけないのにな

諦めなんか、つかない。
きっと僕は、うるうるした目で、君を見つめてる。
それでいい。
今では、もう君には家庭があるんだから。
今の僕は、近くて遠い場所から君を見つめてるだけ。
それでいいんだ。
それが、君の選択なんだから。
納得なんか、いくはずがない。
それでも、しびれるほど君だけ見つめてる。
このまま、おじいちゃんになるとしてもいい。
君以外と結ばれて、君以外と嘘の家庭をつくるくらいなら、君だけを見つめていたい。

君が、旦那の不満と愚痴を呟きながら、僕の手を握ってくる。
あぁ、ダメだよ。
確かに、ずっと望んでいたけれど。
ダメだよ。
そんなの、ダメだよ。
届いちゃ、いけないんだよ。

だけど、僕はその手を握り返したくなる。
ずっと望んでいた君が隣に居てくれるなら。
ずっと望んでいたんだから。
その手を握って、僕は生きていたい。

友達だって、親戚だって、職場だって、そんな僕を祝福出来ないんじゃないか……
だって、君には……いくら言い訳したって、君には家庭があるんだから。
たとえ別れたって、家庭があるんだから。

だけど、華々しく、みんなに祝われて結婚した友人たちの生活の末路を聞く度に、思う。
中には、もう別れた人もいて、別れなくても妥協と我慢の日々らしいし、幸せそうな人ってあまりいなくて。

略奪婚した人の末路だって、本当は、一緒なんじゃないか?
奪われる不安に負けて、相手を信じられずに束縛をする人、妥協と我慢の日々の人、おじさんおばさんになれば飽きてしまって別れた人。
それは、きっと略奪をしたから特別にではなく、略奪ではなかったとしても、自分の中の囁きに負けていたんじゃないか?

結婚をして幸せになれる人って、結婚をしなくても幸せになれてしまえる。
今、僕が目の前の女性に思う感情は一時のものなんだろう。
たぶん、彼女は僕と結ばれたって、また僕の愚痴を誰かにこぼしながら、妥協と我慢を二人でしていくのかな。

ふと、冷静な自分が出たとき、やっぱり奪ってまで一緒になる価値のある女性って、そういないよなってつぶやく自分がいた。

さめていく僕に、彼女は離婚したよって、うれしそうに見つめてきた。
ごめん、僕はなんて、罪深いんだろう。
彼女が本気になればなるほど、ひいてる僕がいるんだ。

もう、ごめんなさい、別れたいなんて、言えないね。
けっして、遊びじゃなかったんだけど、思い出にしてほしい。

なんて、彼女の元旦那を思えば言い出せなくて、憂鬱なまま、僕は歩き出していた。

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