恩田陸『ユージニア』ダイマ感想と真相考察とちっちゃいまきびしみたいな謎について
こんばんは、サネアツです。
軽い気持ちで読んだ藪の中系ミステリー『ユージニア』があまりにも面白く眠れなくなったので紹介します。
秋、読書の秋…………。
生まれて初めて考察記事というものをやってみたぞ。
前半はネタバレあまりなしの感想で、後半からネタバレありの感想と真相考察です。
普段面白いものを読んだとき、自分はまず読書メーターをざっと見て、うんうんと頷き、ツイッターで「面白かった!」とだけ呟いてスッキリするのが常でした。また、わけわからんものを読んだときは「考察」とかで調べて、う~んわからん!まいっか!で済ませていたので、今日のように紙に時系列をメモしたり記事を書いたりするのは初めてです。
なんか……刺さっちゃったんだね。
◆微量ネタバレ感想
完全ネタバレなしでは書けなかったので、少しだけ結末にかかわらない形でないように触れています。
カ~~~~~ッ!!!!モヤモヤモヤモヤ!!
なんだこれ!なんだこれ!!
一つの事件について多人数がその人の視点で証言していくから、疑似的に自分も警察や記者になった気がする~~~~!!
面白い!面白い!真相は自分で組み立てろ!!
[出会って5秒で余談]
好きな作家は恩田陸と伊坂幸太郎。
そんな自分も全作は読んでいません。恩田陸でいちばん好きで、ガキのころ初めて「この本を所有して読み返したい」と図書館で思ったのが『ネクロポリス』でした。
ちなみにこちらの方がぶっちゃけ広い層が楽しめるとおもう。
舞台は日本とイギリスの文化が混ざり合った島で、そこは特定の時期だけ「死者と会える」という伝説があるんですね。そこで起きる連続殺人事件!巻き込まれた青年はいかに――!ってヤツ。
そこで一番好きなシーンが百物語と「ガッチ」ですね。殺人事件が起きたから島にいる全員が並んで礼拝堂に一人ずつ入り、記憶が不確かだけど水?に手を浸して事件に関する質問に答えるんですね。犯人が嘘をついたらそこで精霊に引き裂かれるみたいな言い伝えがあるんですけど、これの文化的な元ネタが古代日本の神に判断をまかせる神明裁判盟神探湯(くがたち)なんですよ!!!!面白くない!?!?!?(腹をひらいて真っ黒じゃないですよ~って示すハラキリじゃなくてよかったね♡)
ここで痺れて恩田陸すげ~~!!おもしれ~~!!になりました。
恩田陸といえばだいたいラストがふわふわで、でも鬼のように面白い過程を楽しむ本ってイメージ。
たいていの人にとって面白いであろう、そして俺の人生に食い込んでる本なのでネクロポリスをオススメします。小説書き始めたのもこれに痺れたのが遠いきっかけだから読んで。大好き。
さて、全然関係ない本のダイマにしばらく使ったけど全然後悔してない閑話休題。
本作『ユージニア』はまさに藪の中。
集団毒殺事件の場にいた少年少女、お手伝いさん、調べた学生、刑事などの視点でそれぞれ事件について語られます。
「群盲象を評す」という言葉を思い出しました。
《多くの盲人が象をなでて、自分の手に触れた部分だけで象について意見を言う意から》凡人は大人物・大事業の一部しか理解できないというたとえ。(辞書より)
なんかこれすげ~見覚えあるなと思ったら、恩田陸の短編で思いっきり「群盲、象を撫でる」がテーマの作品あったんだよな。
インタビュー形式の著作『Q&A』しかり、恩田先生のなかではしばらくこれがテーマというかヘキだったのは間違いない。
それぞれの視点の証言から事実だけを抜き取って時系列に整理するのは、今まで読んでいたミステリーの探偵役がしてくれていたことでした。
これを、読者が頭の中でやっていく!
思考停止で文字をなぞるだけでは決して味わえない、原始的なミステリーの快感を味わえました。
盲目の妖しい美少女緋紗子の存在感がすげー!
事件についての本を出版した女子大生満喜子が静かで知的な女性かと思ったらそれだけじゃなくて手段選ばないところあってやべー!
薄幸の「兄さん」の追い詰められて消え入りそうなギリギリのバランスがえぐいー!
語り主がどんどん変わる作品で誰が主人公とかはないのですが、やっぱり最初の語り部の、事件について調べた満喜子が重心かな、と読み進めました。
満喜子が語っているときは普通の人のように思えたのに、その後本の出版社の人や家族による満喜子語りで「え?この人けっこうやべーやつなのでは?」となったのも面白かったです!
遠く離れたものの位置って、一方向から観測するだけじゃ測れないんですよね。二方向から見て「ああこの座標にあったんだ」と分かるかんじ。
あるいは多面的な立体に複数から光を当てることでわかる凸凹とか。
複数人から見た人物像の面白さがありました。
自分は普段は「浅い」エンタメが大好きです。悪者がはっきりしていて同情の余地なんかなくて、ドーン!バーン!で爆発して終わり、あ~スッキリスッキリ!で終わるやつ。ハリウッド映画がだいたいそんな感じですね。
これは深いというか、分かりやすい浅瀬にはない話でした。
だから、はっきりすっきり何もかも明言されたミステリが好き!という方にはおすすめできないけど、普段はそれを好む自分が読んでも面白い話でした。
けむに巻かれるのも案外悪くないな、と思えた作品でした。
総評
★★★★☆
面白くて好きだが、万人向けではなく多少人を選ぶ作品。
以後、ネタバレです。
◆ネタバレ感想
・満喜子やべ~~~~~奴じゃん!!!!!
コピー能力者じゃん。違うけど。
途中で示唆されていた「別人になりたい」が事件を調べる動機だったんだなあ……。警察に協力的じゃなかったのも、彼女のモチベが「犯人を捕まえたい」ではなくて「犯人を理解してその人をトレースしたい」って感じだったのか。おっもしれ~。
家族に吐き気を催すじゃ……じゃなった草を食わせたのもヤバエピソードだけど、でもその延長で人殺しとかしなくてよかったね。そこまではやばくなかった。
・兄さんかわいそ~~~~~!!
妹の事件て……名古屋のアベックって…………。
そりゃ病むよ……………………。
兄さんがとにかく薄幸だった。俺が隣のガキだったら確実にヘキ歪むし初恋の相手だったと思う。何の話?
う~~~~~ん……つら……………………。
・緋紗子おまえおまえ~~!!
恩田先生カリスマ美少女好きだよねわかる。
でも最後「ただの貧相な中年女性」になるのがえぐいというか魔法が解けたというか…………。
無邪気よな…………。無邪気になあ…………。
・母おいおいお前
やべ~奴その4。最後に判明するのがさすがミステリ!
最初の「青い部屋とさるすべり」の証言が決定打だったとは……。
これをまたラストに持って来る構成がすごいね。
これが最後のでっかいピース、という作りなんですね。
構成でいうと、感情移入というかほぼ主人公ぐらいに思ってた満喜子があっさり死んだ演出すごくない!?!?
いきなり新聞記事で満喜子が死んでて「エッ!?!?!?」ってなった。
すっげ~!かっけ~!こういう演出いつかやってみたい。
ラムネ瓶とか思わせぶりな情報ちりばめられてるな……。まきびしみたいにブラフをばらまくの上手いな……。
いや~面白かった……。
感想と考察を検索してざっと読んで、ほおほおと頷いたけど、この情報について触れてないな~とかそう断定するのはな~とか色々自分も語りたくなったので、わざわざ紙に手書きで時系列まとめるなどして考察してみました。
ほぼ初めてだな、ここまでしたの。
参考、読んで「おお~」と思ったもの
◆真相の考察
「基本的に語り部は嘘をつかない」「作者(恩田先生)のミスはない」としています。
これ疑ったらミステリそもそも全部だめになるからね。
もちろん文中で「嘘かも」「あえて記述を変更した」といってたのは信じています。たとえば「失われた祝祭には事実と異なる部分がある」とかね。
本文を信じた結論からいうと、
事件の実行犯は緋紗子の母と兄さん(ユウジン)である。
事件の原因は緋紗子(≒首謀者)の「一人になりたい」である。
自分はこう結論付けました。
読者視点ではなく書き手視点でのメタ読みですが、最後の最後の「青い部屋とさるすべり」が最重要情報です。これにより、今まで見ていたことがひっくりかえるくらいのデータでないと、編集の許可が下りないと思います。
なので、最初からずっと「犯人はユウジンじゃなくて緋紗子じゃね?」と言っておいて最後に「やっぱりユウジンでした」「やっぱり緋紗子(単独犯)でした」ではミステリとしてのカタルシスがないんですね。
今までスポットライトから故意に外されてきた緋紗子の母が舞台に出てきて、もう一人の実行犯!ワー!で終わった構成だと自分は受けとりました。
◎時系列と事実の整理
作中の証言を信じています。
緋紗子幼少期
・失明は神罰であると信じた母によって、緋紗子は青い部屋で何度も懺悔を強要される。(心的外傷)
毒殺事件の前
・緋紗子、ユウジンと教会で会って話をする。一緒に誌を作る
・緋紗子、ユウジンに「一人になりたい」OR「世界が消えて永遠の静けさに満ちた二人だけの国に行きたい」と言う
(確定事実ではないが、母はそれを知っているのが濃厚)
・緋紗子がたまたま持っていて紙をユウジンに渡したと言っている
・緋紗子とユウジンが最後に会ったのは事件の半年前
毒殺事件の前々日
・ユウジンが住所の書かれたメモを持っているのを子供が目撃
毒殺事件日
・順二、朝にジュース貰うが、蓋が緩いので白猫に毒見をさせる。
・満喜子、午前中に白い繭(毒を飲んだ猫)目撃。
・緋紗子「お菓子のお使い」で満喜子の家に寄り、うちに来るなと警告
・青澤家のテーブルの上に空の一輪挿しがある(手紙の言及はなし)
・緋紗子、お使いのはずが手ぶらで青澤家に戻ってくる
・昼前に雨合羽のユウジンは歩いて出発する
・雨が降り出し、満喜子は雨合羽にオートバイのユウジンに道案内をする
・乾杯のとき、お手伝いのキミが不審な電話に出る
・三兄弟が毒殺現場に戻り、通報(サイレン)
・帰って来たユウジン、雨合羽なしで掛け軸を見ながら「やっと返事ができました」
・現場には手紙が残され、ツユクサがいけられたコップで押さえてあった
・コップと手紙にはユウジンの指紋があった
色々ちりばめられていますね。伏線やブラフのまきびしが……。
夏の終わりの事件から数か月たった十月末
・ユウジン、「声を聞きに行く」と外出。
・ユウジン、数日後自殺
・遺書の内容「お告げにより青澤家に毒を届けた」
・押し入れにあったのは、混入されたのと同じ農薬の残り、野球帽、オートバイの鍵
事件解決後の慰霊祭のあと
・緋紗子、満面の笑みでブランコ
事件から十年後
・キミさん、満喜子のインタビューにて「当日何者かから電話があったこと」(と「転がっていたミニカー」)を思い出し、落ち着く
・満喜子、「忘れられた祝祭」出版。
・当時の満喜子、ユージニアの誌の作者は盲人(緋紗子)だと感じているが、手紙を書いた人については「分からない」
事件から11年後
・出版社に満喜子の連絡先を聞く不審な電話(前後関係はあいまい)
・緋紗子、教会の子供に古本屋の主人と花火で遊ぶようにけしかける。(緋紗子のほのめかしを自白とする)
・古本屋が火事になる
事件から31年後
・満喜子、再び故郷を訪問し、駅で元警官から青い部屋とさるすべりの証言を聞く。
・満喜子と順二の友人が会って話す。「あのとき知っていれば本の内容はまったく違っていた」
・満喜子「生き残った一人が犯人」と順二の友人に言う。
・満喜子、四時ごろラムネ瓶を持っていた。
・満喜子、四時半に熱中症で死亡したところを発見される。ラムネ瓶はなくなっていた。
◎推理した真相まとめ
・ユウジンと緋紗子は事件前からの接触があった
・事件の発端は緋紗子の「一人になりたい」「ユージニアに行きたい」
・毒殺の実行犯は、娘への生贄を求めていた母と、緋紗子の願いを叶えたいユウジン
・ユージニアの手紙を書いて置いたのは緋紗子
・緋紗子は「こうなるといいなあ」という風に誘導したが、直接自分で手を下したことは何もない
……いやこれ本文そのまんまだよ!
上でこまごまとした謎が残っているんだけど、結局些末事というか、上記まとめの大筋には影響ないんですよね。
自分はお絵書きパズルのピクロスが好きなんですけど、これはパズルだから全部の情報をつき合わせて仮説を立てればロジックを詰めてすべてが確定できるんですよね。
ただ、このまきびし謎については決定打がないため、断定できません。最後の一手が足りないんだよな~。
しかしながら、この曖昧さ、フィジーなところが魅力なんだと思います。断定しない美学。
他の考察では指紋とか不明点とか当たり前すぎて書いていなかったであろうことを、まとめてみました。
…………何やってんだろ。でも、それだけ面白かったので、楽しかったです!
◆さいごに
ミステリーの書き方について。
大筋の事件については本文で分かるように説明しつつ、まきびしのように随所にちっちゃい謎をちりばめ、あとでなんとなく推測させる、という方法なのかな。まきびし謎はちっちゃいので、その結論は大筋には影響ない。
全部を時系列にまとめるとすごいことになりそうだな、どう書いてるんだろう……。自分はミステリー書くときはエクセル使ったりするんですけど、完全に偏見だけど恩田先生は高度な計算をしつつもその場のノリというかライブペインティングみたいに書きながら形を作っている気がする……。
お、検索したらインタビューが出て来たゾ。
………………ほらやっぱり書きながら考えるタイプだ~~!!
最初にガチガチにプロットと時系列決めてから書くタイプの自分からは想像もつかないな。だからこそ面白い。
エンタメ度とミステリ度が絶妙のバランスで噛み合っていて、好きだな~~。
恩田陸先生の著作、メチャメチャ面白いので他のも読んでください!
以下は、エンタメ度が高くてみんなにオススメできるやつ
いや、面白い本書きすぎだろ……………………。
すご。
リスペクト。
LOVE。
◆さいごのさいごに
あとがきを読んで後悔した。
自分は文庫で読んだんだけど、単行本の方は装丁メチャメチャすごかったらしい!
装丁デザイナーがすげ~凝ったらしい。
たとえば、不安感をだすためにほとんどの文字は1度傾けてたんだって。
何それ~~~~~!?!?!?すげ~~~~!?!?!?!?
機会があればそっちも手に取って見てみたいです。
おわり。
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