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短編【公園】



公園には、作業員が日陰で点々と休んでいる。
派遣社員のようなご婦人の真横のベンチが空いてたので、ここいいですか、といって、橋の方に座った。
お昼休み、近くの公園だ。


この公園での数年前の思い出が、ありありと思い出される。
心地よい春もしくは夏のような爽やかな風が耳を通り抜ける。



目の前に立ったエレベーターの動いている深い赤の雑居ビルが、少し神戸の生田川沿いの景色と似ている。
あのエレベーターに乗った人からは、
こちらの公園のベンチに座ったものなど、なんの関係もないとみて、切り捨てているに違いない。
同じく自分も、このベンチからそう切り捨てている。



まさかここにきて、こんなにも至福を感じるとは思わなかった。
大通りのすぐ側、一歩奥に入っただけなのに、騒音はあまりなく、この公園だけの膜があるみたいだ。鳥のさえずりと、学生の自転車の音と、葉の擦れ合う音が、強く肌に聴こえる。


ずっとここにいたい、寝ていたい、
目を瞑ったら空に浮かびそうなくらいに力が抜ける。


少し日が強くなった。
こうして携帯に打つ画面や手にも、少し強い木漏れ日が指して、ゆらりゆらりさらさらと生きている。影だって、生きている。ちいさなありだって、一生懸命生きている。



昨夜のむつっとした夏日と打って変わって、5月の強い日差しに、この冷たく爽やかな風が清々しく、とても心地よい。
1日でこんなにも天候が変わったのか、1日でこんなにも自分が変わったのか、わからない。
薬のせいなのかもしれない。
でも、今わたしは、美しく心地いい。

こんな日は二度と訪れないだろうけれど、
またこんな瞬間を探してしまう。
そんな人生を、送ると思う。



派遣社員のようなご婦人はベンチを立った。
あぁ、あそこの大きな古びた白い大きくPと書かれた病院で働いているのか。
ということは看護師なのだろうな。
派遣社員ではなかったか。
看護師という派遣社員なのかもしれないが、
派遣社員という受付なのかもしれないが、
そこのところはよく知らない。
ただ、どうぞと座らせてくれたから、優しいといことは確かだと思う。
優しいご婦人だった。



今日一日が、また美しくなった。
またこの瞬間を探しに、立ち上がる。

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