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IPOにおけるプライシングとオファリング

これまでnoteのIPO連載では、上場審査の論点となりやすい内部管理体制や経理体制の構築、事業計画策定などについて触れてきました。それらの審査上重要な項目を一つ一つクリアして、いよいよ上場を2〜3ヶ月後に控えたとき、上場に向けての最後のハードルと言ってもいいのがプライシングオファリングについてです。

上場に向けた主な流れ

IPOにおける、プライシングとオファリングとは?

まず、オファリングとはなんでしょうか。IPOは、Initial Public Offering(新規公開株式)の略なので、オファリングとはIPOのO、つまり株を実際に売り出すことです。

オファリングは、細かく分けると、以下の3つで構成されます

①既存株主による持ち株の売り出し
②発行体(IPOする会社自身)による株の新規発行
③オーバーアロットメント

③オーバーアロットメントは、IPO直後に当初の想定を超える需要があった場合に追加的に売り出す株式のことで、慣例的に①+②の15%の枠が設定されることが多く、①と②によって機械的に決まるため、ここでは深く扱いません。

①、②、③を合わせたトータルでの株式の新規発行・売り出しの合計金額を、オファリングサイズと呼び、発行済株式数に対するオファリングサイズの割合をオファリングレシオと呼びます。

オファリングレシオは20〜30%くらいが標準的と言われますが、会社の資金需要やマーケット環境によって幅があり、このレンジから外れる例もたくさんあるため、あくまで目安です。

オファリングは規模が重要

会社の資本政策にもよりますが、IPOの成否に向けては一定以上の規模のオファリングサイズを確保することが重要だとされています。その理由としては、以下が挙げられます。

  • 一定以上のオファリングサイズがないと、機関投資家が投資をするサイズに達しないため、機関投資家が株主として入りにくい。機関投資家は上場後の株式の流動性・出来高に大きな影響を与えるため、上場後の株主として重要となる。

  • オファリングサイズが小さいと、IPO直後に投資家からの旺盛な需要によって需給が逼迫しやすく、株価が乱高下して(高騰しやすく、その分大きく下落もしやすい)、株価の安定性が損なわれる。

冬の時代の前、2021年までは、勢いのあるグロース企業で海外の機関投資家をIPO時に取り込みたければ、少なくとも数十億円以上、できれば100億円以上のオファリングサイズをつくることがベストプラクティスの一つとされていました。

仮に目標とするオファリングサイズを100億円として、オファリングレシオが20〜30%とした場合、逆算すると時価総額としては300〜500億円くらいの規模が求められることになります。2021年はこれくらいの規模のIPOが多くみられましたが(オファリングサイズが100億円超のIPOは18件)、2022年の東証へのIPO企業でオファリングサイズが100億円を超えたのは3社、うち2社はプライム市場への上場で、グロース市場で100億円以上のオファリングサイズになったのは航空会社のスカイマークだけでした。そのスカイマークも、過去に東証一部(現在のプライム市場)に上場していた再上場の会社です。

ですので、いわゆるスタートアップで、100億円以上のオファリングサイズを確保できたIPOはゼロというのが2022年のIPO市場で、1桁億円のオファリングも多数見られました(これ自体は好況の時でも珍しくないですが)。ちなみに、2022年のグロース市場のIPO企業として時価総額が大きく、IPO後の株価の伸びも話題となったANYCOLORもオファリングサイズは約27億円でした。

オファリングとプライシングの関係

オファリングサイズは、公募価格 ✖️ (①+②+③) なので、公募価格が高いほどオファリングサイズが大きくなります。公募価格を決めるプロセスはプライシングと呼ばれ、IPOの肝となる株価を決定するので、発行体にとっても投資家にとっても非常に重要なプロセスです。

発行体にとって、公募価格が高いほど②株の新規発行により調達できる金額が上がりますし、全体のオファリングサイズも増えます。

また、上場時に持ち株を売り出す既存株主にとっては、公募価格がいくらになるかは自身の投資のリターンに関わるので、プライシングは非常に重要です。公募価格が高くなり、既存株主の期待する金額感に近づくほど、彼らが売り出しに応じる割合と可能性が高まるため、①売り出しの金額も増えていきます。

結果として、IPOにとって重要なオファリングはどれくらいの株価で上場するか、つまりプライシングに左右される面も大きいといえます。

プライシングのプロセス

それでは、IPO時の株価はどのように決まるのでしょうか。

IPO時の株価は、証券会社が上場前に発行体に提示する想定価格がベースとなり、上場承認後のロードショーを経て仮条件のレンジが、そして最終的に投資家からの需要を積み上げて(ブックビルディング)、公募価格が決定します。

想定価格の決まり方はざっくり以下の流れで、

  • 類似上場企業の、実際に市場でついているValuationのマルチプル(PER、PSR等)を用いて算出。

  • 並行して、発行体が策定している事業計画等を参考に、証券会社のアナリスト等がDCF等で理論株価を算出。

  • 上記のいくつかの算出方法を基にフェアバリューを決定し、IPOディスカウントを割り引いて想定価格を決定。IPOディスカウントは20〜30%程度であることが多い。

大きな意味では、未上場企業のM&Aの際の価格決定と大きく変わりません(IPOやM&Aでも本質的な企業価値は一緒なので当然)。

プライシングにおける、証券会社とのコンフリクト

プライシングのプロセスを文字にすると上記のようにシンプルですが、実際には発行体と証券会社との間でコンフリクトが生じやすい分野といえます。

前提として、証券会社はIPOプロセス全般において発行体を支援し、上場へと導く重要なパートナーです。一方で、証券会社は発行体と資本市場を結びつける役割を果たしており、資本市場の向こう側には投資家が存在しています。

発行体は自社の株を高く売りたい、投資家は株を安く買いたいというのが世の常であり、このインセンティブが逆方向に向いている以上、その間に立つ証券会社はどちらかの利益を100%代表することはできません。そもそも、IPO前の会社にとって上場株式市場のような客観的な株価がない以上、売る方・買う方、全員が満足するプライシングは難しいものでしょう。

ですので、コンフリクトというのは正しい表現ではないかもしれませんが、発行体の立場からプライシングに関してよく主張される問題として、俗に「アンダープライシング問題」といわれるものが存在します。

IPO時のアンダープライシング問題については、シニフィアン共同代表・村上さんの以下のnoteが詳しいので、そちらを参照ください。

簡単にいうと、IPO時の公募価格が証券会社によって適正と思われる水準よりもかなり低くプライシングされ、発行体が本当は調達できるはずだった資金が少なくなってしまう問題です。IPO時の調達資金はIPO後の成長投資の源泉となるものですから、発行体はもちろん、上場後に参画する投資家や、ひいては日本経済全体にとっても本来は損失といえるはずです。

何をもってアンダープライシングとするかについては、IPO後の初値が公開価格を大きく上回る「IPOポップ」と言われる現象が、特に日本において顕著にみられるという点が論拠にされることが多いです。

引用:内閣官房「成長戦略実行計画」(2021年)

IPOのプライシングは、上場準備中から漠然とした目安感のやりとりはあるものの市場の前提は常に変化していくため、IPOに向けた具体的な数字が示されるのは東証に上場申請をする前後になります。上場までは3〜4ヶ月を切っていますから、プライシングがなされる段階で主幹事の証券会社を変更するのは難しいです(主幹事を変更すると上場申請手前の証券会社の審査からやり直しとなり、上場申請取り下げ→上場延期となる)。交渉の余地は皆無とは言えないものの、価格の最終的な決定権は株式を引き受ける証券会社にあり、その価格で合意できないと現在動いているスケジュールでは上場できない以上、発行体は上場直前に弱い立場に置かれてしまいます。独占禁止法で禁じられた「優越的地位の濫用」に当たるのではないかという指摘もなされています。

政府も、スタートアップ振興の観点からアンダープライシング問題に注目しており、今年(2023年)には公正取引委員会から大手証券会社が名指しで独占禁止法で禁じられた「優越的地位の濫用」につながるおそれがあるとして、「注意」が行われています。

上記の「注意」は一社に対してなされたものですが、この問題自体は構造的にどの証券会社と発行体の間でも起こり得るもので、IPOを目指すスタートアップにとってはここ数年の大きな関心事でした。

証券会社側に立ってみると

発行体の立場からは、自社の公募価格が低く見積もられている、つまりアンダープライシングされていると感じるわけですが、証券会社の立場はどのようなものでしょうか。

証券会社がIPOにより得る売上は、オファリングサイズから得られる引受手数料(数%台の後半)のため、IPO時の公募価格を低くするとオファリングサイズが小さくなり、低い株価でのIPOは証券会社からしても損なはずです。

アンダープライシング問題の理由としてよく挙げられるものとして、証券会社(のセールス部門)にとっての上顧客である個人投資家(リテール)向けに、低い値付けの(=上場後に高騰しやすい)IPO株を配分して、顧客を儲けさせたいのではないか、という指摘があります。これについては、私は証券会社のセールス部門で働いたことはありませんし、証券会社からIPO株を購入したこともないので、実際のところはよくわかりません。

一口に証券会社といっても、発行体と直接対面するカバレッジ(営業部門)や公開引受部のほか、株式による資金調達を担当するECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)、株式の引受に関する業務を担当するシンジケート部門、そして実際に機関投資家やリテール向けの販売を行うセールス部門、IPOのプライシングにも影響するアナリストが所属するリサーチ部門など、多様な部門・関係者が存在します。その上で、IPO時の株価のベースとなる想定価格は、最終的には部署横断的な株価決定会議(証券会社によって名称は様々)で決まることになります。

このように、上場準備の過程で発行体がずっと接していたカバレッジや公開引受部以外の色々な部署がプライシングの段階になって深く関わってくるため、意思決定構造が非常に複雑になります。先に記述したように、証券会社は発行体と投資家、どちらも顧客になりますが、部門も大きく、発行体に比較的近い投資銀行部門(カバレッジ、公開引受部、ECM)と、投資家に近いマーケット部門(シンジケート、セールス、リサーチ)に分かれます。

※ 証券会社によって機能や組織の区切りは異なるので、あくまで参考イメージ。

発行体に近い投資銀行部門はリテール客を儲けさせても特に部署及び個人の大きな評価にならない気もしますので、発行体から受領する、オファリングサイズに比例して増える引受手数料の方が重要かもしれません。

一方で、シンジケートやセールスのようなマーケット部門にとっては、その株を「引き受けるリスク」が発生します。IPO企業は上場時にはじめてマーケットにデビューすることになりますので、それまでのトラックレコードがありません。業績はIPOにあたり過去数年分監査法人による監査を受ける必要があるので、財務報告については上場企業と同レベルに信頼できるものといえます。しかし、将来の事業計画については上場企業よりも予測しにくいですし、価格については未上場時のValuationはありますがマーケットで評価された実績がないため、IPO時の株価のプライシングは非常に難しいものです。

投資は自己責任とはいえ、プライシングの決定権を持つ証券会社としては、その株を発行体から引き受けて投資家(機関投資家/個人投資家)に販売する以上、一定の責任が生じます。証券会社内で発行体側に立つ投資銀行部門も、過度に高い値付けをマーケット部門に対して通して、結果として投資家に損が発生した場合は、まるっきり知らん顔というわけにもいかないでしょう。

ノーベル経済学賞も受賞しているプロスペクト理論によると、人間は利益よりも損失の方を過大評価する性質があるといわれますので、IPOによって投資家に損失が発生しないように、プライシングが保守的に傾くというのは行動経済学的な観点からの説明として納得できる話だと思います。

プライシングの交渉で交渉力を持つために

証券会社にもリスクがあり、発行体と引受を行う証券会社側でコンフリクトがあるのはわかりましたが、発行体の立場からは合理的な範囲でできるだけ自社の株式に高いプライシングをしたいと考えるのが本音です。

それでは、発行体が証券会社とのプライシング交渉において、心がける点は何でしょうか。この点は、経済産業省の資料によくまとまっていましたので、以下で引用します。

スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(経済産業省)より引用。

上記の資料は、上場noteの先駆者であるプレイドさんにもヒアリングされているようで、以下のプレイドCFO・武藤さんのnoteにもほぼ同趣旨のことが書かれていますので、こちらも貼っておきます。

簡単にいうと、共同主幹事体制にしたり、共同主幹事でない場合は他の証券会社にプライシングに関してセカンドオピニオンをとったり、あるいは有力な機関投資家とリレーションを築いておいて、その投資家からのフィードバックなど発行体のプライシングをサポートする材料を自社で持っておく、等が挙げられます。

IPOに限らず、企業が何か大型の発注を行ったりする場合に相見積もりをとったり価格交渉をしたりすることは当たり前であり、その意味ではB2Bの法人間取引の一般的なTipsを当然にこなすことが重要とも言えるかもしれません。

B2Bの比喩で更にいうと、案件としての魅力度や取引ボリューム(IPOの文脈ではオファリングサイズ)が大きいほどやはり交渉力も強まると思いますし、証券会社も商売ですので、その会社とIPO後も継続して取引してなくてもいいやと証券会社が割り切って考えるのであれば条件面が悪くなる可能性はあり得ると思います。

ちなみに、IPOのディールとしての良いモメンタムを創出するための取り組みとしては、IPO時に一部の事業会社や機関投資家に株式を戦略的に割り当てる親引けや、上場承認後にIPO時の株式取得意向を機関投資家に対外的に表明してもらうIOI(Indication of Interest)などの手法もあります。これらは、ブックビルディングなどにおける投資家の需要を喚起して公募価格を高める工夫として有効ですが、対証券会社への交渉力という観点からは少し外れるため、ここでは深く取り上げません。

スタートアップ冬の時代のプライシングとオファリング - noteの例

上記を踏まえて、noteのIPO時の実例を見ていきます。

プライシング

  • 上場承認時の想定価格:300円

  • ロードショーを経た後の仮条件:300円〜340円

  • ブックビルディングを踏まえた、上場時の公募価格:340円

  • 上場後初値:521円(公募価格比 +53.2%)

オファリング

  • 新規発行(公募株数):210,000株

  • 既存株主による売り出し:1,069,300株

  • オーバーアロットメント:191,800株

  • 合計:1,471,100株

IPO時点の発行済株式総数14,827,900(新規発行含む)に対するオファリングレシオは9.9%と、標準とされる20〜30%よりもだいぶ抑えたオファリングになっています。オファリングサイズも総額で約5億円と、冒頭で示した100億円超という規模感と比べると相当小さい金額となっています。

新規発行も210,000株で、最終的には需要が多くオーバーアロットメント分も新規発行しましたので、その分191,800株を加えた401,800株が新規発行となり、これに1.36億円あまりが会社が調達した金額となりました。

これはIPOの調達金額としてはかなり小さい金額で、当初はもっと大きなオファリングサイズを検討していました。オファリング方式も、海外機関投資家に販売できる旧臨報方式から、国内の投資家を対象とした国内オファリングに切り替え、株式の希薄化を抑えるため、オファリングサイズを大幅に縮小しています。

幸いにして当社は資本の厚みがあったためこういう戦略が取れましたが、財務的に逼迫した状態であれば大きな希薄化を受け入れてIPOせねばならなかっただろうと思います。

初値については、公募価格から+53.2%の水準で価格がつきました。投資家の方からはもっと初値が高騰するのではという予測もあったようですが、ロックアップが公募価格の1.5倍で外れる条件になっていたこともあり、ちょうどそのあたりで初値が落ち着いたのかもしれません(あくまで想像です)。いずれにしても、結果を見るとIPOポップといえる状況でした。

IPOポップとなったのは、そもそものオファリングサイズが小さいため、需給が逼迫して初値が高騰したという要素もあると思います。ただ、オファリングとプライシングの関係のところで記したように公募価格が高ければ既存株主のIPO時の売り出しが増えるなどオファリングサイズも増えますので、ニワトリとタマゴの関係ともいえます。

プライシングは、やはり発行体のCFOの立場としては合理的な範囲で高い評価をいただけるよう努力すべきですので、当社から証券会社へも色々な提案と交渉を行いました。投資家からのフィードバックを踏まえた類似企業の目線感の提案や、Valuation手法に関するもの、セカンドオピニオンの取得…など。しかしながら、外部のマクロ経済環境、株式マーケットの状況が悪すぎて市場全体が保守的になっている状況では、交渉力で弱くなってしまったという感は否めませんでした。

また、IPOの前にはIM(インフォメーション・ミーティング)と呼ばれる、IPO時のロードショーに参加する機関投資家向けに事前に会社説明を行って、類似企業の目線感などをヒアリングするプロセスがあることが多いのですが、当社は過去にはこのプロセスを実施していたものの、株式マーケットがクラッシュした上場申請期には投資家の投資意欲の冷え込みからIMを実施することができず、プライシングという観点ではそちらも響いたと考えています。

プロスペクト理論も引用して、IPOのプライシングは保守的になりがちと書きましたが、マーケット環境がかなり厳しい中では、尚更その傾向が強まった印象です。上場株式マーケット全体が保守的になっている中で、上場企業のマルチプルを参照するIPO企業のフェアバリューも保守的に算定されることになります。IPOの場合は更にそこからIPOディスカウントを割り引くところ、マーケット環境の悪さからIPOディスカウントの割引率も保守的に高くなると、保守的 x 保守的 の掛け算で悪いことが二重に増幅される感覚もありました。

発行体の立場としては、厳しい外部環境である以上、それを前提として資本政策やオファリング手法・サイズに切り替えることが求められました。ただ、これは未上場でも同じことで、冬の時代の資金調達はデットファイナンスなども駆使しながら希薄化を抑え、春を待つという「守り」の戦略を取るケースも増えているように思います。その意味では、外部環境に応じて資本政策を柔軟に適応させることは上場でも未上場でも同じかと思います。

上場した現在の立場としては、マーケットで客観的な株価が日々ついているわけなので、未上場の時よりもある意味わかりやすくなったと感じています。上場した以上は、事業をしっかりと成長させて、上場マーケットで適切に評価されるよう、企業価値を上げていきたいと考えています。

プライシングの未来

前述したとおり、IPOのアンダープライシング問題などに対応するため、新しいIPOプロセスが2023年10月に始まりました。簡単にいうと、IPOの公募価格について仮条件の範囲外の価格設定も認めるようにするなど、IPOのプライシングにより柔軟性を持たせる方向への見直しとなります。

IPOのプライシングを始めとする議論は、2021〜22年にかけて盛り上がりましたが、冬の時代となって上場グロース企業の株価も低迷しているため、一時期より落ち着いている感があります。一方で、IPO時の初値の高騰自体は冬の時代の保守的なValuationでも起こっています。むしろ、前述したとおりマーケット環境が厳しい方がより保守的なプライシングに傾きがちということだとすると、IPOポップの問題は引き続き続いているとも言えます。とりあえずは2023年10月から始まったIPOプロセスの見直しの運用で事例が溜まって、そこでまたプロセスの効果検証が行われることと思います。

外国に目を向けると、アメリカはスタートアップやファイナンスの先進国ですから、ここで取り上げたプライシングなどの問題は過去に議論されていて、証券会社を通さない直接上場(ダイレクト・リスティング)も一般的にみられます。プライシングとは直接関係ありませんが、IPOプロセスを簡略化できるSPAC上場などの手法も数年前に非常に盛り上がり、SPAC上場はその審査の緩さから最近になって問題点も指摘されるようなっていますが、課題に対して色々ダイナミックな手法が編み出させるのはアメリカの市場の力強さでもあると感じます。

IPOには、発行体、発行体の既存株主、証券会社、新規の投資家、証券取引所など、多様なステークホルダーが存在します。それぞれにIPOに対する期待値が異なり、それがプライシングやオファリングという形になって現れます。プライシングやIPOポップに関しては、正直、立場によって考え方が異なるので、色々な意見に触れていただくのをおすすめします。

プライシングやオファリングにまつわる諸課題は、結局は投資家保護と発行体の便益、そしてIPO市場が活性化することによる経済・社会への好影響などのバランスをどこに取るかという話だと思います。その意味で、唯一無二の正解はなく、それらのバランスを調整しながら資本市場は前に進んでいくのではないでしょうか。

IPOプロセスを経験したスタートアップの当事者としては、冬の時代のプライシングとオファリングはとにかく苦労したというのが実感です。苦労した分、プライシングの議論が日本でどのように進んでいくか、興味も意見も持っていますので、色々な方とディスカッションしながら理解を深め、スタートアップエコシステムに還元し、プライシングの未来を創っていきたいと思います。

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