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【ノーベル経済学賞2020】セカンドプライスオークションとはなにか?


※追記2020/10/13
元記事は2020年5月のゴールデンウィーク中に投稿したnoteですが、2020年10月にこちらで解説しているセカンドプライスオークションを含むオークション理論がノーベル経済学賞を受賞したため、タイトルを変更しました。
以下では、セカンドプライスオークションの解説と、身近な実生活への当てはめについて紹介しています。記事下部に日経電子版へのリンクも付けていますので、そちらもご覧ください。

今年のゴールデンウィークは新型コロナウイルスによる外出自粛で、経験したことのない静けさですね。せっかくの陽気のGWに家にこもってストレスも溜まりますが、インドアな連休をポジティブにとらえて、普段は考えないことに時間を使って思いをめぐらせてみるのも良いのではないでしょうか。

このnoteでは、私がMBA留学中に学んだ経済学の概念と、実際のビジネスや生活への応用の仕方を考えてみたいと思います。

セカンドプライスオークションとは?

セカンドプライスオークションという言葉を知っていますか?

経済学を学んだことのある方や、広告業界の経験のある方にはおなじみの概念かもしれません。

セカンドプライスオークションとは、オークション形式で入札をする際に、1番高い金額ではなく、2番目に高い金額で落札することです。2番目に高い金額といっても、次点の人に落札の権利が与えられるわけではなく、1番高い金額を入札した人に落札の権利が与えられるが、実際に支払うのは次点の人が提示した金額になるということです。

セカンドプライスオークションの説明

例を示します。ある商品に対して、

・Aさん:10万円で入札
・Bさん:9万円で入札
・Cさん:8万円で入札
・Dさん:7万円で入札

とします。この場合、多くの方が通常想像する1番高い金額を入札した人が商品を落札する形式のオークションだと、Aさんが10万円を提示して落札することになりますね。これは自然なことに思えます。これをファーストプライスオークションといいます。

一方で、セカンドプライスオークションだとどうなるか。この場合、2番目に高い金額を入札したのはBさんで、その金額は9万円となり、セカンドプライスオークションではその9万円が落札価格となります。ただし、落札者は、一番高い金額を入札したAさんになります。セカンドプライスオークションを単純化して説明するとこういう仕組みになります。

Aさん(買い手)は同じ商品に対して10万円まで払うつもりがあったのだから、9万円しか払われないとすると、売り手は損じゃないの?そんな風に思うかもしれません。

ただ、オークションは他の人の予算上限や実際の入札金額というのは読めないため、Aさん視点でみると自分は10万円まで予算があるけど、安く落札できるならそれに越したことはない。他の入札者はそんなに高い金額は高い金額では入札しないだろう、9万円くらいでもいけるだろうし、いやいや8万円でもいけるかもしれないし、6万円くらいでも、なんなら他に強い興味ある人もいないだろうし、3万円くらいでもいいのでは…?と、自分以外の相手の入札を予想することになります。

ここで、たとえばAさんがライバルの動向を見誤って以下のように入札したらどうなるでしょう?

・Aさん:8万円で入札
・Bさん:9万円で入札
・Cさん:8万円で入札
・Dさん:7万円で入札

ファーストプライスオークションだと、Bさんが最高額の9万円を提示しているので、Bさんが9万円で落札することになります。Aさんは本来は10万円まで出せたはずなのに、ライバルの金額予想を見誤ったせいで、本来の目的である商品を落札するということが達成できなくなってしまいました。

これだけだとAさんが読み不足だったねという話なのですが、オークションにおいて、ライバルの動向が読めないのはBさん、Cさん、Dさんも同様です。そして、彼らも同様に、同じ落札できるのであれば安く落札できるに越したことはないため、自分が本来支払っていいと考えている金額よりも少し安く入札するインセンティブが働きます。

たとえば全員がそれぞれの予算より2万円ずつ安く入札すると、以下のようになります。

・Aさん:8万円で入札
・Bさん:7万円で入札
・Cさん:6万円で入札
・Dさん:5万円で入札

最高額を提示したAさんが落札するというのは一番最初と同じですが、落札金額は8万円で、Aさんはハッピーですが、商品の売り手としてはAさんの元々の予算の10万円はおろか二番手のBさんの予算9万円よりも低いわけですから、オークション参加者がそれぞれ安く入札した結果結果、損を被ります。安く落札できたAさんにしても、Bさんは予算どおりの9万円を提示する可能性もあったわけで落札できたのは結果論ともいえます。

これを解決するのがセカンドプライスオークションです。つまり、当初の例でいうと、

・Aさん:10万円で入札
・Bさん:9万円で入札
・Cさん:8万円で入札
・Dさん:7万円で入札

なので、最高価格を提示したAさんが、次点のBさんの入札価格9万円で商品を落札することになります。これであれば、Aさんはライバルの動向を気にせず、ただただ自分がここまでなら出せるという最大限の金額を提示しておけば、実際の価格は二番手の人の入札額で決まるので、心置きなく予算Maxの金額を入札できます。自分は予算上限を提示して、仮に二番手の人が5万円だった場合は、5万円だけ支払えれば良いのです。

売り手は本来Aさんから10万円を受け取ることができる可能性があったものを、9万円で落札されることになるので、損じゃないかという見方もあると思います。また、Aさんが本来10万円であれば問題なく落札できるところを、他の人の動向が読めないゆえに、12万円とか15万円とかの予算オーバーだけど確実に落札するためにチャレンジした価格を提示する可能性もあったわけで(こういう形で当初の想定より値が吊り上っていくのがオークションのイメージかとも思います)、その分売り手が利益を取りっぱぐれているのではないかという見方もできます。

ただ、経済学的にいうと、他人がどういう金額を入札するかわからないという情報の不透明性・非対称性などから生じる不確実な要素は上振れも下振れも含めてリスクとしてみなされ、リスクはその分ディスカウントされて価格に反映されます。そのため、入札価格も全体的には安くなる方向に働き、安くなると売り手は損をしてしまうので、参加者に安心して予算いっぱいまで入札してもらうため、セカンドプライスオークションという仕組みが存在しています。

セカンドプライスオークションの活用例

この仕組みは、広告・アドテク業界などでよく使われているようです。

この記事を書こうと思って調べたら、ウェブ広告の盟主・Googleは昨年から広告の仕組みをセカンドプライスオークションからファーストプライスオークションに移行したとのニュースがあり、アドテクが進化しすぎて価格が改ざんされるなど逆に情報の不透明性などが問題になっていたようです。ただ、実際の運用面で問題のあったという話で、理論的にはセカンドプライスオークションの仕組みの方が効率的な気がするので、いつか揺り戻しもあるかもしれません。

また、広告業界以外でも、ヤフオクなどでもセカンドプライスオークションの仕組みが採用されています。

ヤフオクは最高入札額で落札されるんじゃないの?と思うかもしれませんが、ヤフオクは自分の予算の最高額で入札しておき、ライバルが新しい金額を入札するたびに、自分の設定した予算の範囲内であれば自動的にライバルよりも少しだけ高い金額を自動で入札する仕組み(自動入札)です。落札する金額はライバル(次点の価格を入札した人)の価格にほんの少しの金額(10円や100円など)が上乗せされたものなるので、自身があらかじめ入札した最高金額ではなく2番目の価格にアンカリングされたセカンドプライスオークションになります。

シェアハウスのケーススタディ

セカンドプライスオークションの考え方はいわゆるオークション以外の身近な生活でも応用できます。私のアメリカ留学中の実体験でこういうことがありました。

スタンフォード大学のビジネススクールに留学していた際、独身の場合は1年目は大学構内にある寮が割り当てられるのですが、2年目になるとその寮を出ていかないといけないため、多くの学生は他の同級生などとシェアして大学の外に家を借りることになります。私も、アメリカ人、ドイツ人、オーストラリア人、インド人の同級生と私の5人で学校近くの一軒家をシェアして借りることになりました。

一軒家には5つ寝室があり(5 Bedroom)、今はもっと高騰していると思いますが家の家賃は当時確か月5,000ドルくらい(1ドル100円で50万円くらい)で、それを5人で分けることになるので単純に一人当たりで割ると月1,000ドルになります。ただ、もちろん部屋ごとの大きさが違い、1階に一番小さい一部屋、2階に専用バスルーム付きの大きな主寝室(Master Bedroom)と、ほかに3部屋がありました。1階の一番小さい部屋は確か5〜6畳くらいだったので、主寝室と比べると広さも設備も違うため、同じ家賃だと不公平になってしまいます。これをどう解決したらよいでしょうか?

一つの考え方として、部屋の広さに応じて家賃を配分するというやり方があります。たとえば、全体が100平米として、こちらの部屋が10平米、あちらの部屋が20平米…などであれば、全体の家賃を100平米で割って1平米あたりの単価を求め、それぞれの部屋の面積に応じて割り振った上で、リビングなどの共用部分は同じように部屋の面積ごとに配賦するか、利用頻度が同じと考えれば共用部分は均等に配賦しても良いかもしれません。これは、部屋の広さという絶対的な基準に基づいて算定するので、すごく公平です。

ただ、このやり方にも問題点があります。面積で割り振って、たとえば部屋Aが700ドル、部屋Bが900ドル、部屋Cが1,000ドル、部屋Dが1,100ドル、部屋Eが1,300ドル…となった時に、部屋自体の家賃は適正に見えるのですが、それではどこの部屋に誰を割り振るかという問題があります。これはどのように決めたらいいでしょうか?

それぞれの同居人から希望をとった上で、希望が被ったらジャンケンやくじ引きでしょうか?大抵の人がその方法をとると思いますが、これは公平には思えますが最適ではありません。なぜなら、私は留学中お金がなかったため、部屋選びの基準は一にも二にも家賃です。つまり、仮に5つの部屋で第1希望から第5希望まで希望をとったとすると、私のような人間は優先度順にA→B→C→D→Eと家賃が低い順になります(一方で、金融出身などでお金に余裕のある同級生は違う優先順位になります)。

ここで、プロ野球のドラフト会議のようにまず皆の第1希望をとったとして、そこが他の人と被ってくじ引きの結果自分が外れた場合に、必然的に残った部屋から選ぶことになりますが、その際にA〜Cまでが埋まっていてDやEなど高い部屋しか残っていない場合、自分としては第4か第5希望からしか選ぶ余地がなくなります。それなら、第1希望で競争率の高そうなAではなくBやCを選んでいたかもしれないし、Aを面積比より高い800ドル支払っても他の部屋よりは絶対額では安いので、コスパは悪いですが上乗せして払うよという交渉もできたかもしれません。

くじ引きは確かに公平なのですが、上記のような問題が発生します。これをどう解決するか?

効率的な部屋割りの実現

実際に部屋割りをしようとした際に、同居予定のオーストラリア出身、BCGのコンサルタントのバックグラウンドを持つ同級生が言いました。「学校の授業でやったセカンドプライスオークションでやろうよ」と。

仕組みはこうです。各自、A〜Eの各部屋に払っても良い予算の上限を入札して(部屋Aには900ドル、部屋Bには1,000ドル、逆に一番広い部屋Eは避けたいので500ドルとかの落札する気のない入札もあり)、各部屋で一番高い入札金額を投じた人が落札する、ただし価格は同じ部屋で提示された2番目に高い金額になる、というものです。これであれば、狭くても自分が絶対に入りたい部屋には戦略的に相場よりも高い金額を投じることができるので(といっても二番手の価格は支払わなければいけないので、二番手も高い可能性を考えると払う気のない金額は入札できない)、自分の希望に沿った部屋に決まりやすいというメリットがあります(一人の人が複数の部屋で最高入札になった場合にどうするかという問題がありますが、そこはどういうルールにしたか覚えていません。ただ同級生で同居人という信頼のある間柄なので、うまく調整したか、そもそもそういうケース自体が発生しなかったかもしれません。また、この方法だと各部屋のトータルが一軒家全体の5,000ドルにならない可能性もありますが、最後にはみ出たりした分は端数なので按分しても大きな影響はないと思います)

この方法だと、それぞれの部屋の家賃が単純な面積比率にならず、また入札の状況によっては狭い部屋の方が広い部屋よりも高くなる可能性もありますが、自分でその予算まで払ってよいと判断して入札したわけなので、納得感はあります。

実際の入札では、私はもちろん1階の一番小さい部屋に少し高めの提示をして、その部屋に落ち着くことになりました。

長期的な利益を最適化するために

セカンドプライスオークションはゲーム理論をベースとしているので、ウェブ広告をマッチングさせる高度なアドテクから、ヤフオクのようないわゆる古典的なオークションに近いもの、はたまた家をシェアする場合の家賃決めに至るまで、広い分野に普遍的に応用することができます。

ビジネスでいうと、B2Bの商材などを中心に、相見積もりをとったりコンペをしたりすることが多いと思います。コンペになった場合に、「競合より高かったら言ってください」というようなバッファを持たせた提案内容になっていることもよく目にします。これは、値引き余地を持たせるという目的に加え、発注側がそのサービス・分野に精通しておらずリテラシーが高くない場合に、あわよくばバッファを持った金額で受注できれば利益が増えるという期待もあるのではないかと思います。

これは、取引単位で見ると利益が増えるようにみえますが、発注者側に十分なリテラシーが備わった場合に、これまで高かったという事実があるため、信用が損なわれることになります(ダマされていたとまでは思わないかもしれませんが)。また、もっと安い事業者から営業を受けた場合に、本来は既存業者も同等まで安くサービス提供できるのに、新たな事業者に切り替えられ、既存の事業者の中長期的な利益は最大化されない可能性もあります。

たとえば、セカンドプライスオークションの応用(逆バージョン)で、まず提案者側が「最低この金額だったら仕事を受けます」という最低受注可能金額を提示して、実際の受注価格は二番目に低かった金額で受ける仕組みができればどうでしょうか。コンペで価格をめぐる余計な心理戦に時間を使わず、発注者側の信頼も損なわず、提供サービスの内容という本質的な部分に力を割いたコミュニケーションができるのではないでしょうか。

以上はB2Bの商習慣などを考慮していないあくまで仮定の話ですし、先のGoogleの広告の例で触れたようにセカンドプライスオークションが万能ともいえません。

ただ、本来モノやサービスは適正価格で取引されるのが関係者にとって一番よいと思うので、予算イコールそのサービスに対してある企業が払ってよいと考える価格とすると、過剰に利益をとったり、逆に利益が圧迫されたりするというのは、売り手・買い手どちらかに負担を寄せているだけともいえます。長期的に信頼関係を維持しパートナー間や社会全体での利益を最大化させるために、このような全体最適のためのアプローチを認識しておくと、ビジネスやプラットフォームの仕組みの構築に役立つと思います。

※追記2020/10/13
上記で解説したオークション理論がノーベル経済学賞を受賞とのことです。以下の日経電子版記事も併せてご覧ください。


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