【後編】ロバート・キーガン教授によるIDGs特別セッション参加レポート(リーダーになぜ内面の発達が必要なのか 〜SDGs、組織変革に必要な内なる変容の力〜)
前編からの続き
開催概要
日時:2024年7月23日(火曜)午前9:00〜11:00 (開場8:40)
場所:大手町 3×3Lab Future
千代田区大手町1丁目1−2 大手門タワー・ENEOSビル 1階
特別ゲスト:ロバート・キーガン教授
トークセッションゲスト:枝廣淳子氏
プログラム概要:
1)ご挨拶
2)内面発達指標「IDGs」 とは、IDGsファウンダーからのメッセージ
3)ロバート・キーガン教授・プレゼンテーション「IDGsを実現するためには ~ How IDGs are more likely to be accomplished?」
4)枝廣淳子氏・プレゼンテーション「SDGsとIDGsの関係」
5)パネルディスカッション
6)日本でのIDGsの広がり
7)まとめ
枝廣淳子さんプレゼンテーション
枝廣淳子さんからは、ご自身のシステム思考との出会いから始まったストーリーでSDGsとIDGsの関係をお話しいただいた。
以下要約。
システム思考との出会い
環境問題の通訳からキャリアをスタート。環境問題に課題意識を持ち1999年から環境ニュースをメール配信。
2002年に「成長の限界」の著者、デニス・メドウズ、ドネラ・メドウズが主催する持続可能性とシステム思考の国際的なネットワーク、バラトン・グループの会合に呼ばれたことをきっかけに、システム思考を知る。
小田理一郎さんと共にシステム思考を広げる活動を始める。
システム思考のよいところ
システム思考に出会って人生が変わった。生きるのがすごく楽になった。
ビジネスにも使えるが、一人一人の生き方という点でも役に立つ。
・ちょっと待てよのシステム思考。
解決策に飛びつくのではなく、問題と思っているものは本当に問題なのか?解決策をやった時に他への影響ないの?と周りとの関係も見ていく。
・人を責めないシステム思考。
人が起こす問題もあるけど、繰り返し起こったり、一生懸命やっても解決できない問題は人ではなく構造が引き起こしていると考える。
氷山モデルの紹介
システム思考は、氷山モデル=出来事、パターン、構造、メンタルモデルの関係で説明される。
出来事に対して出来事に反応しがちだが、出来事の下にはパターンがあって、パターンを作り出す構造があって、構造はメンタルモデル(キーガン教授がいう強力な固定観念、こういうものだ、こうあるべきだ、こうに違いないといった意識、無意識の前提)から生み出される。という考え方。
システム思考とは
システム思考を簡単に表現すると、つながりを辿って関係性の構造をできるだけ広く見て、対症療法ではなく効果的な対策を副作用を低減しながら考えられる方法。
システム思考というと難しく感じる人がいるので、「つながり思考」と呼んでいる。
最近では、VUCAの時代になり、企業でもシステム思考をやりたいと言うところが増えている。
私もワークショップなどでシステム思考を紹介する時に、「つながり思考」と呼んで紹介していたので、同じ呼び方をされていることに感激。
SDGsが進まないワケ
環境問題の取り組みを進めながら、近年は日本の持続可能性を考えて地方創生のサポートを行なっている。
SDGsが進まないワケ
効果的な行動が足りていない。
• バッジをつけたりウェブにロゴを貼るだけ
• 承認・評価を得ることが目的になっている
• 思いついたことやできそうなことをやるだけ
• 考える範囲が狭すぎる
• 難しいと簡単にあきらめる
• 新たなやり方や考え方にトライしない
• 自社の中だけで完結しようとする
• 本気でやろう!という情熱が(経営層に)ない
効果的な行動とは
• 単発の思いつきや、やったフリではなく、
• 信念・志を持ち、
• 向かうべきビジョンを共有した上で
• 広く深く状況を理解し、
• 他に及ぼす影響やトレードオフも考慮に入れ、 • 多くのステークホルダーと共に進めていく
• 実際に変化を創り出す行動で、
• 自己修正をかけながら
• より質の高い解決策を創り続ける
これがまさにIDGsだと思う。
ずっと感じてきた大事なことがIDGsに重なっている。
最近は、変化を作る側に回りたいとの思いから、未来創造部という会社を立ち上げて熱海で現場のプレーヤーとして取り組んでいる。
特に企業研修、リーダーシップ研修(現場の体験を入れて)、ユースチームの育成に取り組んでいる。
プログラムの内容
プログラムの内容はIDGs教育と言える
・ビジョンを作る
・システム思考でつながりから構造を考える
・効果的なコミュニケーション
・合意形成
・振り返りと今後に向けて
最後に
リーダーになぜ内面の発達が必要なのか。と言うテーマについて言及する。
近年取り組んでいる東洋思想(儒教、老荘、貞観政要など)をみると、東洋思想的には、内面の発達してない人がリーダーになり得るわけがない。
内面発達がリーダーのスタートライン。どうやって内面を発達させてリーダーたる人になるか。天の命を受けてリーダーになる。というのが中国的な考え方。天命に沿っている限りは天が応援してくれる。そうでなければすぐにひっくり返されるという強い使命感を持つと言うのが中国思想で考えるところのリーダーシップ。
そう言う意味で、IDGsはシステム思考とも東洋思想ともつながる。
非常に大事で面白いと感じている。
パネルセッション
パネル
ロバート・キーガン教授:K
枝廣淳子さん:E
鬼木基行:MO
司会
荻野淳也さん:JO
企業で内面発達を語る難しさや課題について
企業で推進する現場からの発言者としてパネルセッションに参加させていただいた。パネルセッションの主なやり取り。
JO:上司がハラスメントを行うなど、内面が発達していないリーダーが生まれるのはなぜか?
E:東洋思想では君子と小人を分けて考える。君子になるために帝王学や歴史に学ぶ、メンターがいるなどが合わさって君子が育つ。
企業が外面的なものを(売上や利益など)求めると外面的なリーダーが生まれる。パタゴニアのように内面の重要性を認識して求めていく必要があるのではないか。SDGs関係なくてもIDGsは企業のリーダーとして求められるものになると思う。少しずつ求める軸がシフトしている状況に希望を持てると感じている。
K:職場で内面の発達を語るのが難しいことに対して、日本での経験を踏まえて話をしたい。経営陣向けのリーダーシップ研修で初めて免疫マップ(ITC)を紹介した時には、西洋的なフレームですね。日本ではあまりやりませんが、という反応だった。しかし、次に来日した時には、500人の前で大手電機メーカーの役員が内面の成長の話を共有してくれた。自分がビクビクしているリーダーだということを学んだ。自分が恐れられていて、高圧的であったことに気づいた。なぜ高圧的になってしまっているか考えると、自分がよくわかっていないことをバレるの恐れて高圧的になっていることに気づいた。
これを言った時に、会場はシーンとして聞き入っていた。
リーダーが自らを晒してリスクをとることで、人の感銘を生む。
MO:企業の中で働いていると、リーダー=指導者である必要を感じる。
しかし、IDGsに触れることで、全員が学びの途中であることに気づくのではないかと思う。その瞬間に、互いの関係がリセットされフラットな対話が生まれるように感じている。
E:SDGsに対するコミットメントを引き出すにはどうしていけば良いか。
K:SDGsは非常に大きな問題に見える。だからこそ自分にとってリアルで現実感にあるものにつながる必要がある。
自分にとって個人的なことにつながることができたら自分の内面を発達させていこうということにつなげていけると思う。
個人的な目標に対してではなくて、いいことだからやろうという場合もある。
いいことだからやろうと思ってもらえるようにするには、職場環境が個人の成長を応援するようなものに変えていく必要がある。成長を促す環境は、たくさんのフィードバックが得られる職場だと思う。ポジティブなフィードバックや賞賛が増えると心理的安全性が生まれ、ネガティブなフィードバックも受け入れることが出来るようになる。
E:利益を最大化しようとする企業でIDGsを広げることやリーダーシップのあり方を変えることの大変さは?どこに希望を持っているか?
MO:1年前に私もIDGsを広めたいとの思いから役員にむけて、IDGsについて、世の中のトレンドSDGsとの関係性も含めて説明し、ワークショップの実施を提案したが、この必要性を自分ごとに落とし込める人は少ないのではないかとのコメントをいただき1年ほど温めることになった。
企業が持つ課題や風土と紐づかないと必要性を伝えるのが難しいことを痛感した。
そうしている間に、我々の部署の課題:隣の部署をやっていることを知らないのに戦略を描けるのか?もっとつながろうと、ゆるつくつながる、ゆるつな活動が始まることになった。
ゆるつな活動は、真ん中に遊びを置いてつながることでもっとお互いを知ることができるというコンセプトでワークショップを開催している。私もその活動にジョインして1年活動して、つながりを作るためにIDGsの考え方やワークやツールがとても有用であることに気がついた。今年度は、ゆるつな活動の中ぶ、IDGsのツールを使ったワークを取り入れている。先週初めてIDGsのエッセンス、つながりを取り戻すワークとNVCを取り入れたワークショップを開催し非常に好評だった。IDGsを前面には出していないが、IDGsのツールや考え方が有効に機能した。
その場その場の現場の課題に熱を持って動いている人とIDGsがかけ合わさると導入が加速するのではないかとの仮説を持てた。
K:職場でそんな風に起こるのだいう実例を聞かせてもらえて、おめでとうと言いたいし、私自身もインスパイアされた。
E:組織で推進する時に作り出したい変化や最終的に目指しているものは何?
MO:IDGsに取り組むことで、一人一人がより本質的な課題へ向き合うようになる。一人一人が向き合うということは企業としての方向性も社会へのインパクトがより効果的で大きい方向にシフトして、働く人のやりがいや生きがいにも繋がってくる。働く人がやりがい、生きがいを感じられるということは、持続可能な状態であり、企業としての持続可能な成長にもつながると感じている。(このときに、ビジネスマンは、企業人であると同時に一市民であるため、より良い社会と企業のあり方の関係性が強化されていくと思っている。IDGsが社会や企業の持続可能な発展の基盤になっているというのが、私の願いでもある。)
E:企業の短期的な効率至上主義を乗り越えるにはどうしたら良いと企業では考えるか?
MO:チーム単位で見ると定量的なアウトプットが求められ、高圧的な状況で作り出されたものなのか、調和のもと作り出されたものなのか見えにくいが、ある人数単位を超えてくると、高圧的な状況ではアウトプットが最大化されるのが難しくなってくる。人の流動性が高まっているのが手伝って、悪い職場は人がいなくなり知見がたまらず立ち行かなくなる。効率性の観点からも内面の発達に目を向けるのは合理的に思える。
(一昔前のように終身雇用で一つの会社で勤め上げるという常識も変わりつつある。ひとつの職場に居続けなければいけないという状況ではなくなり、悪い職場からは人が去っていくようになっているように感じている。)
JO:ここから掘り下げていきたいところですが、もう一つ伝えたいことがありパネルディスカッションの時間をここで終了とさせていただきます。
国内で活動しているHubの皆様からの紹介
結び
最後は、IDGsの調査アンケートについて共有
これからのいい社会を作るためにどんな内面を高めていけば良いのか、どんなスキルを高めれば良いのか日本の方々の声を集めていく動きだ。
日本からの回答が少ないとも言われているので、この記事を読んでいただいた方にもぜひ回答いただきたい。
IDG Japan Hubs Collaborationの皆様
キーガン教授がIDGsの花のイメージで一番大切なことは、大地に根付いて伸びて成長するための茎の部分が大事!とおっしゃっていましたが、この写真では私が茎になっているという偶然のプレゼントも。
アーカイブ視聴
8/15までアーカイブ視聴が可能です。
要約できていない部分はぜひ生の声でご確認ください。
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