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【前編】ロバート・キーガン教授によるIDGs特別セッション参加レポート(リーダーになぜ内面の発達が必要なのか 〜SDGs、組織変革に必要な内なる変容の力〜)

早くも1週間前になるが、去る7月23日(火)の午前中に
「なぜ人と組織は変われないのか」の著者:ロバート・キーガン教授
環境ジャーナリストでシステム思考や学習する組織を日本に拡げた立役者でもある枝廣淳子さんが登壇することになったIDGs特別セッションに参加してきたのでレポートしたい。

ことのはじまり

今回、ロバート・キーガン教授が来日されるのに合わせてIDGsの特別セッションをやっていきたいとIDGsの活動もされているMiLiの荻野淳也さんが企画されたのがことの始まりだ。
この企画は、日本で活動しているIDGsのHubのコラボレーション、つまり特定の活動Hubではなく複数のIDGsの活動Hubが協力して開催した画期的なイベントになった。
セッションの中でHubの紹介をして欲しいというお声掛けもあったので、紹介資料の作成や発表は想定していたが、東京開催で遠方なこともあり、リモートで参加だろうな。そんな心持ちで関わっていた企画だ。

ところがあるタイミングで風向きが変わり始めた。
企画者の荻野さんから今回日本側で迎えるにあたって枝廣淳子さんをお呼びすることにした、枝廣さんとの打ち合わせをするので参加しませんか?との声掛けがあったのだ。

枝廣さんといえばIDGsを学ぶにあたって参考文献ともなる
「学習する組織」「世界はシステムで動く」など学習する組織やシステム思考に関わる書籍の翻訳をされていたり、

システム思考のまちづくりへの活かし方を書かれたご自身の著書「好循環のまちづくり!」や近年では、「ぶれない軸をつくる東洋思想の力」など多くの書籍を読ませていただいている。

私自身、IDGsを知るきっかけとなったのは、枝廣さんが共同で立ち上げられたチェンジエージェントのアカデミーで「学習する組織を導くリーダーシップ集中プログラム」「社会変革のためのシステム思考」を学ばせていただいたことでもある。

さらに、枝廣さんが実施されている読書会も取り扱われる書籍が興味深いものが多く音声講座を聞かせていただいたこともあり、枝廣さん登壇には個人的にも湧かせていただいた。

必然的に、手を挙げて事前打ち合わせに参加させていただくことになった。
打ち合わせの中で予想外の方向に。。
IDGsを現場で推進するものとしてパネルセッションに私が参加してはどうかとのご提案。
キーガン教授と枝廣さんの間に入るのは身に余る光栄だが、正直不安も。

果たしてどんな会になったのか。

当日のアジェンダに移る。

開催概要

日時:2024年7月23日(火曜)午前9:00〜11:00 (開場8:40)

場所:大手町 3×3Lab Future
千代田区大手町1丁目1−2 大手門タワー・ENEOSビル 1階


特別ゲスト:ロバート・キーガン教授
トークセッションゲスト:枝廣淳子氏

プログラム概要:
  1)ご挨拶
  2)内面発達指標「IDGs」 とは、IDGsファウンダーからのメッセージ
  3)ロバート・キーガン教授・プレゼンテーション「IDGsを実現するためには ~ How IDGs are more likely to be accomplished?」
  4)枝廣淳子氏・プレゼンテーション「SDGsとIDGsの関係」
  5)パネルディスカッション
  6)日本でのIDGsの広がり
  7)まとめ

内面発達指標「IDGs」

今回表題のIDGsの訳を「内面発達指標」としている部分はとても良い訳だと感じる。特に「指標」としているところがよい。
Inner Development Goals「IDGs」はゴールズと言ってるけどゴールを表してはない。SDGsの名前にちなんでつけられた向きが大きい。
そうすると、Goalsの訳を「目標」とすると、どうしても違和感があったので、指標に留めておくのはよい訳だと思う。

会はMiLiの荻野淳也さんの進行でスタートした。
キーガン教授の通訳は福島由美さん。通訳も素晴らしい。

今回キーガン教授とのIDGs特別セッションが実現したのは、エゴンゼンダー(スイス発祥のグローバルエグゼクティブサーチファーム)の丸山さんがキーガン教授を日本に招聘されたのが本当のきっかけで、今回特別協賛という形でこの場を実現していただいた。感謝です。

続いてIDG Japan Collaboration HubのCoordinator小林麻紀さんからIDGsの概要を説明いただいた。

IDGsイニシアチブ トーマス・ビョークマン氏からのビデオメッセージ

紹介の最後に、IDGsを中心的に進めているスウェーデンのIDGイニシアチブからトーマス・ビョークマンさんからのビデオメッセージ。
10月に開催されるIDGsサミットにぜひ足を運んで欲しいと紹介しながら、次のような言葉でメッセージを締めた。
「日本でのIDGsの取り組みは大変重要なもの。このようなイベントを通してグローバルなムーブメントが起こせる。持続可能で公平な未来という共通のビジョンのもとに世界がつながる。みなさんの努力が、ほかの人々の道を拓くのです。みなさんの献身とコミットメントに感謝しています。」

トーマスさんはIDGイニシアチブの思想的支柱でもあり、「北欧の秘密」と題した書籍では、かつてスウェーデンに点在していたリトリートセンターの果たしていた役割や効能を紹介し、熱い思いを披露されている。

ロバート・キーガン教授 プレゼンテーション

「平日の朝に100人もの人が集まっているのには、何か面白いことが起こるぞと言う感じがしている」という言葉でスタートしたプレゼンテーション。
ここからは、キーガン教授の言葉を要約として残しておく。
IDGsの取り組みはトップダウンで進められたものではなく、オーガニックにボトムアップで広がってきたものだが、いまや企業の役員室や政府まで届くようになった。これは、人類が直面している困難を乗り越えるために新しい方法を見出すことを渇望している現れでもある。
今現在、世の中には高みに上がるような発展の動きと、底に落ち込むような動きが同時に起こっていて、底に落ち込んでいる例としては、国内や国際間で見られる分断や多くの人たちを殺すための兵器が開発されたり、環境汚染が進んでいることもその例だと感じている。
同時に高みに登ろうとしている動きは、よく目を凝らすといろんなところに見出すことができるが、このIDGsのムーブメントも高みに登ろうとしている動きと捉えることができる。IDGsは個人がより良い人間であれるように、仲間にとっても良い地球であれるようにしていく運動だといえるだろう。
IDGsはどんどん広がっているがまだ始まったばかり。
Inner Development Goalsの言葉を見ていこう。
Innerは、私たちが今直面している社会的な困難やチャレンジは私たちの内面の魂や心を育てていくことなしには解決できないと言う認識の表れを示している。
Goalsは、みんなが一緒にやっていくために具体的なゴールを示す必要があるということを示している。

ここでIDGsの示した5つのカテゴリーを見てみる。:Being,Thinking,Relating,Collaborating,Acting
の全てが私たちの目指すあり方を示している。
IDGsが本当の展開点を迎えるためには
IとGではなくDevelopmentを強化する必要がある。
私は、5つのカテゴリーを1つの花の花びらのイメージで考えている。
このイメージで一番大切なことは、大地に根付いて伸びて成長するための茎の部分が大事だということ。
外側のゴールを認識すること以上にゴールに近づくために自分の内側を育てていく必要があることに気づく必要がある。

そして、その根本的な考え方は日本の精神の中に内在しているように感じている。これまでの6回の来日で、継続的に人間が成長していくという考え方を日本の方が持っているのを日本の宗教観、歴史観の中に見出すことができるように感じている。
私は生涯をかけて成人発達について研究してきて、世界中で書籍が翻訳されているが、実は日本で一番読まれているのです。
これは、人間が成長していくということに対して、日本の方が響き合う部分があるからだと思っている。
日本の文化や質はIDGsの動きよりももっと大きな力や頭脳があると思っている。
成長し続けて解放されていくと言う考え方はみなさんのDNAに刻まれているのではないだろうか。
禅や瞑想を通じて、自己を成長させていくという実践の文化も日本にある。
そうした中で、自分たちの働き方が健全でないことを日本の方は自覚していて孤立感や自殺に追い込まれるような状況を実直に見ているのが日本の方々なのではないだろうか。そして、こうした問題は日本だけの問題ではなく工業化を進めた世界中の国で起こっている問題でもある。

私たちが人をサポートしていこうと思った時の一番根本的な部分は、ひとり、一人ぼっちであると感じることを減らすこと。
自分の中で何が起こっているかを表現することに抵抗を感じない環境を作ることからはじまると考えている。
ここで、成人発達理論は人間が大きく成長できるという例があるので紹介したい。

ここから、キーガン教授が開発された免疫マップ(ITC)を用いて自己を見つめて成長したビジネスマンの例を示していただいた。

免疫マップについてはIDGsのツールキットでも紹介しているが、記載する項目が同じでも、深く探求できることを紹介していただいたように感じている。
今回の事例は企業のリーダーの事例で、高圧的でメンバーに寄り添いがないリーダーが、メンバーからの辛辣なフィードバックを受けて、ITCの手順で自身を振り返るプログラムを受講した例だ。
ITCの流れは以下の通りだが、キーガン教授が紹介してくれた例の、項目の深掘りの仕方はとても参考になった。

1.フィードバックを受けて「改善目標」をあげていく。
2.1に対して実際に行なってしまっている「阻害行動」をあげていく。
3.阻害行動を引き起こしてしまっている「裏の目標」となってしまっているものを考える。
4.3を引き起こす「強力な固定観念」を見つめる。

改善目標や、ビジョンを掲げたら半分は達成されたような感覚になるが、実際には、人間には複数の動機があり、動機には大きく2つの基本的な特性があるという。
ひとつは、成長したい。もうひとつは死にたくない失いたくない、リスクを最小限にしたいということ。
ビジョンを掲げれば、成長したいという基本特性に従って成長するように思われるが、実際にはリスクを最小限にしたいという、裏の目標が発動してしまう。このメカニズムは人類共通であるようだ。
裏の目標を考える際には、コツが必要そうだ。
推測という形で裏の目標を考察するのが良さそうに思う。なぜなら、裏の目標は自身でも気づいていなかったり、気づきそうでも認めたくない可能性が高いからだ。〇〇だからこういう行動しているのかも?と客観的に自身を見つめることが必要になりそうだ。

裏の目標まで記載できたら、裏の目標が生まれる強力な固定観念を紐解いていく。
固定観念を推測したのち、6、7ヶ月かけて固定観念を信じる必要があるか、固定観念に従って動かなかったらどうなるかの実験を行ったそうだ。
この実験を行ってみると言うのがポイントのように感じる。
事例では、実験を行うことで、固定観念に従わなくても問題がないことを体感し、むしろ劇的な改善が見られ、チームメンバーからのフィードバックも劇的に改善して、理想的なリーダーだと言われるようになったとのことだ。

紙面にすると臨場感は伝わりにくいが、今回の事例も追記しておく。
ぜひ、その人になったつもりで読んでみてほしい。裏の目標を引き出すことをブロックしたくなったり、抵抗を伴うものだと感じられるのではないかと思う。

本プレゼンでは触れられていないが、ここで気になってくるのは、この強力な固定観念を作り出しているものは何か?ということだ。ITCではこの先には進まないが、この強力な固定観念を生み出しているものこそが、本質的な課題なのではないか?と感じるのだ。
例示していただいたビジネスマンは貴族の出身で、他と違う優位性を持っていないといけないと考えていたとの言及があり、出自にまつわるトラウマを抱えているようにも聞こえた。
一見個人的なことだと思われる固定観念だが、実は社会の中で形成された、集団的なトラウマや課題につながっているように感じる。
IDGsを進めていくことは、人類が大小様々な範囲のコミュニティ集団として無意識に共有しているメンタルモデルを見つめることにつながっていくように感じる。
ここに、SDGsとのつながりや、社会的な課題へ向き合う足掛かりを見ることができそうだ。

キーガン教授プレゼンテーションまでのレポートは以上。
登場することになったパネルセッションや続きは後編で

アーカイブ視聴も可能です

続きやここまでの内容が気になる方はアーカイブ視聴も可能なので、ぜひご覧ください。

後編はこちらから


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