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東京新聞社会部は「ピースワンコ」宣伝部だったのか?

■間違い記事検証、8カ月放置

 東京新聞はファクト・チェックを怠ったまま、2019年5月18日、当時、動物愛護関係団体から告発を受け、広島県警の捜査対象になっていたNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の活動を持ちあげる記事を新聞(夕刊1面)やWebサイトに掲載してしまいました。

 筆者が4日、東京新聞読者部に記事の間違いを指摘したところ、記事に間違いはないと強弁していた同社の社会部も間違いを認めるに至ったようで、6日に読者部から8日発行の東京新聞夕刊に「訂正」を掲載すると連絡がありました。調べたところ、事後的な書き直しが可能なWeb版の記事は7日に訂正を終えています。

 告発団体、日本の保護犬猫の未来を考えるネットワークは、この記事について、掲載直後から、事実関係の確認もしないままPWJからの一方的な情報をもとに掲載された記事であるとして、弁護士を通じて東京新聞の社会部に抗議文を送っていました。

 しかし、記事を出稿した社会部は黙殺を続けたそうです。それどころか、個人で問い合わせると、「どこか団体に所属しているか?」「こちらの取材や記事に間違いは無い」などと高圧的な回答に終始したという怒りの声も聞きました。

 東京新聞の自慢は厳しい「ファクト・チェック」のはずです。同社ホームページでは「選んだ情報の裏付けを取って信ぴょう性を確かめているかどうか。原稿が正しい日本語になっているかどうか。見出しが的確かどうか。そうした毎日の厳しいチェックを経て、新聞は初めて商品になり、皆さまのご自宅のポストへと届けられる」とPRしています。

 それなのに、なぜ、こんなことが起きてしまったのでしょうか?

■「結論」ありき、「お友だち」取材

 私は、東京新聞社会部長・杉谷剛氏が、個人的に親しい広報コンサルタントで、PWJを顧客として抱えていたソーシャルピーアール・パートナーズ社代表・若林直子氏からPWJ/ピースワンコを取り上げるよう依頼を受けて、事実上「はじめに結論ありき」というかたちで東京新聞の取材が始まったことが問題の根源にあると思います。

 広報コンサルタントの若林氏が記事掲載直後に書いたSNS投稿にその経緯や記事掲載後のPWJ側の喜びが詳しく記されています。

 彼女は最初「これまで、妬みや、方針が違うアンチからのネットでの様々な誹謗中傷」に憔悴したことや、「週刊新潮をはじめ、酷い記事やそれを信じるSNSのコメント、テレビ局からのネガティブな取材依頼が多くあり、その対応に追われていた」という心情を延々と吐露します。

 そして問題の記事について、「相談したときに、すぐに動いてくださった東京新聞社会部長杉谷剛さん、現場で何日間にもわたる大がかりな取材をしてくださった東京新聞の原田さん、本当にありがとうございました。大西さんとすぐに電話で喜びあい、わたくし、泣いてしまいました」と書いています。

 つまり、苦境に立たされているPWJを擁護し、PWJの保護犬事業「ピースワンコ」への読者からの同情や共感を集めることが記事掲載の第一の目的だったのです。

 「はじめに結論(美談)ありき」で夕刊1面「にっぽんルポ」への掲載が決まり、この団体がなぜそのような状況に置かれることとなったのか、その背景や事実の検証、東京新聞自慢のファクト・チェックは二の次となっていたと私は推測します。

 東京新聞社会部に読者から問題を指摘する声が届いても、PWJの情報に依存していた記者や編集者らは馬耳東風。広報コンサルタントが部長にささやいたに違いない「そうした苦言や批判はたくさん寄付を集めているPWJへの妬みである」という「予断と偏見」が植え付けられていたのでしょう。

 そして上司の社会部長の命令もしくは推薦による「お友だち取材」であったがゆえに、担当デスクや記者は記事検証を放置しても平気だったか、間違いに気がついても「知らんふり」をして咎められることがなかったのではないでしょうか?

■掲載経過を東京新聞は検証を

 東京新聞といえば、最近は首相官邸の官房長官記者会見で一人奮闘している望月衣塑子記者が有名です。PWJコンサルタントの若林氏はSNSで、杉谷社会部長や「もっちゃん」らとも長い付き合いだと示唆していました。

 その若林氏は、顧問でもないのに日経勤務時代の元上司を自社の顧問だという虚偽の情報をホームページなどで宣伝していました。筆者の取材に対し日経が虚偽だと確認し、彼女は取り消し・謝罪、ホームページ閉鎖(本人はリニューアル準備中と回答)に追い込まれています。

 若林氏が吹聴することは話半分くらいに受け止めておいた方がよいのかもしれません。

 しかし、杉谷社会部長が若林氏とどのような関係があってピースワンコ美談を取り上げることになったのか、東京新聞編集局はコンプライアンス違反の有無を含めて調査した方がいいでしょう。

 お友だちのコネで記事を取り上げたり、記事の問題点を訴えた人たちへの高圧的な対応を聞いたりすると、東京新聞も実は旧態依然、謙虚さを欠く、権威主義的な古い体質を残す組織なのではないかと疑いたくなります。

■情報をPWJに依存

 文末に訂正箇所がわかるように手を加えた記事を一つの問題報道事例の資料として転載します。訂正は3か所に及びます。

 一般の読者にはわかりにくいことかもしれませんが、実は新聞業界では1つの記事で3つも間違いがあり、訂正するのは極めてまれなことです。プライド高く、言い逃れができる限り間違いを認めようとしない体質が蔓延しているからです。

 いずれも統計など公表資料で確認をすれば、すぐにわかることなのですが、東京新聞は8カ月もチェックを放置していました。

 取材を受けたPWJ/ピースワンコは間違いを知っていたはずですが、世間から同情を買うには好都合な間違いであるためか、東京新聞に間違いを指摘しないまま自らのホームページで東京新聞の記事を紹介し続けています。

 私が問題だと思う点の第1は、PWJ/ピースワンコが広島県動物愛護センターなど同県内の動物愛護センターから引き取っている犬は「殺処分対象」に限られるのに、東京新聞の当初の記事では「引き取った犬すべて」と説明していたところです。広島県の殺処分ゼロはPWJの力だけで実現したという錯覚を流布させてしまいます。

 広島県では動物愛護センターに収容される犬は例年2500頭前後にのぼり、PWJが2016年4月に「殺処分対象を全頭引き取る」と独自の活動目標を宣言する以前から個人や団体が犬を引き取っています。

■殺処分ゼロ、支えるのは誰か

 PWJ内部では犬の引き取り能力超過で2年目の2017年から大混乱をきたしていて、広島県警が狂犬病予防法違反で捜査を始める2018年6月以前から、広島県庁では知事・副知事を含むハイレベルの会議でPWJへの譲渡頭数を抑制する、滋賀県の動物愛護団体エンジェルズなど実績のある他の団体への譲渡を増やしていく、という方針が決まっていました。

 広島県動物愛護センターや他の団体関係者の情報を総合すると、PWJは2016年4月からの「殺処分ゼロ」を継続すると宣伝しつつ、最近は自ら引き取り数を抑制しているもようです。このままでは、殺処分再開の責任を県が負わされると恐れてか、広島県動物愛護センターがエンジェルズなど他団体に犬の引き取り強化を相談する機会が増えているようです。

 せめて捨て犬の保護で中心的な役割を果たしている県動物愛護センターに取材をしていれば、PWJがすべての犬を引き取っていると勘違いするはずもないのですが、東京新聞はそうした周辺取材や裏付けを怠ってしまっているのです。

 2つ目の問題は、銀行との関係に関するものです。私は広島県から入手したNPOの認定関連資料を含めて過去数年のPWJの財務内容はかなり詳細に分析しましたが、東京新聞が当初触れたような「5億円融資の引き揚げ」の事実はありません。

 そもそもそこまでの銀行融資残高はありませんので引き揚げようがないのです。PWJは2017年度に債務超過に陥っているので、それを機に銀行が予定されていた融資を撤回したのではないかと推測し、東京新聞への質問で指摘したところ、その通りでした。

 これが「5億円引き揚げ」ではなく「5億円融資予定の取り消し」だったとする記事訂正の背景です。

■倫理綱領に反する報道姿勢

 ところで、日本新聞協会の倫理綱領には次のようなことが書かれています。

 ・正確と公正 新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。

 ・独立と寛容 新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する。

 この記事は、動物愛護、犬の殺処分ゼロに取り組むNPOの話題であって、それは一国の政治体制や経済システムを揺るがすような問題ではないかもしれませんが、新聞記者に課せられた任務や戒めは共通です。

 ましてや記事が掲載されたのは、ふるさと納税などで年間10億円近い寄付金や会費を集める団体が、狂犬病予防法違反や動物愛護管理法違反の疑いをかけられていた時期です。より正確・公正な報道を心がける必要があったと思いますし、記事への抗議に対しても率先して検証してしかるべきだったと思います。

■融資取り消しの真相

 撤回された原因について、東京新聞の記事は2018年度に広島県警から狂犬病予防法違反の疑いで書類送検され、週刊誌やインターネットで猛烈な批判にさらされたことと結びつけています。しかし、その前の2017年度決算時点で借入先の異変が生じていて、私は同年度中に判明した債務超過のリスクが原因ではないかとみています。

 つまり2017年度末の借入残高は前の期の倍に増え、7億6千万円へとなりましたが、そこに債権者として、投資家村上世彰氏の関係企業から3億3千万円、ふるさと納税サイトを運営するトラストバンクやその創業者から計4千万円などが登場します。その年からすでに借入先確保に奔走した様子がうかがえます。

 東京新聞が記事を訂正するにあたって、その点に留意すべきだと私は指摘しておきましたが、東京新聞社会部からの回答は「取材の詳細については回答を差し控えさせていただきます」という素っ気ないものでした。あいまいにしてやり過ごそうということのようです。

 しかし、狂犬病予防法違反によるバッシングといういわば風評により銀行が融資と取り消したのか、それとも債務超過という厳然とした経営リスク上の問題で取り消したのか、その違いは極めて重大です。

 狂犬病予防法違反について、県警が書類送検にあたって容疑事実として示したのが全体の一部、25頭だけだったことを逆手にとって、東京新聞の記事はおそらく意図的に事件を矮小化するかのような書き方もしています。動物愛護のためリスクを取って一生懸命に働いているのにわずかなミスですべてが悪かのようにたたかれている、というPWJ/ピースワンコが得意とする泣き落とし戦術と同じです。

 もし、私の見立て通り、債務超過という事態を受けての銀行の方針変更であれば、おそらく支援者の情に訴えて寄付金をたくさん集めるということも難しくなることでしょう。

 PWJ/ピースワンコに再確認するなら、きちんとその点を確かめてみて欲しかったと思います。東京新聞の記者も本当はその重大さに気が付いているのではないかと思ったりもするのですが。

■犬保護事業は黒字、資金は潤沢

 私は繰り返し指摘していますが、決算資料を読むと、PWJの捨て犬を保護するピースワンコ事業は黒字を続けいて、その余剰金はPWJの預金として積みあがっています。

 大西健丞代表理事らPWJは、犬舎の増築や犬の養育費用、医療費などで資金不足を訴えては寄付を募っているのですが、資金が足りないのは本当にピースワンコなのでしょうか?

 私は違うと思います。ピースワンコ部門は多いときには年間2億円近くの広告宣伝費を使うくらいですから資金が潤沢なはずです。赤字で資金を必要としているのは、ワンコほどの訴求力がなく寄付が伸びない医療や観光など地域創生事業なのです。

 銀行からの借り入れを増やせないためでしょうか、PWJは公益社団法人Civic Force(渋谷区、大西健丞代表理事)からも2018年度末に3億円を借り入れています。

 一般向けの公表資料では伏せられていましたが、広島県に提出した資料には記載されていました。決算期を乗り切るための短期融資のようで、Civic側の決算(2019年8月期)資料ではPWJ向けの融資があった事実さえ確認できないようになっています。

 公益法人のお金をさも自分の財布であるかのように使う大西代表のやり方は、利益相反により団体に損害を与えかねない、極めて危険な行為です。

 良識ある経営者であれば慎むはずのそうした資金操作にまで大西健丞氏が手を染めていく理由は何なのでしょう?私の問いに対し、いまだ大西氏側からの回答はありません。

 寄付と国や国際機関からの補助金くらいしか収入源のないNPOがどうやって11億円の借金を返していくのでしょう?

 そもそも預金もあるのにどうして借入金をそこまで膨らませてしったのでしょう?

 大西健丞氏はピースワンコへの寄付を訴える手紙を昨年末、支援者らに送りましたが、こうした単純な疑問にまず答えるべきでしょう。

 それまでは犬の殺処分ゼロを応援している方々も、PWJに寄付をするのは控えたほうがよいと私は思います。お金が無駄になる恐れがなしとは言えないからです。

■参考■訂正された記事(修正箇所は〇印です)

 新緑の芝生を駆け抜ける。激しく収縮する筋肉と、荒い息遣い。小さな命が確かに鼓動していた。
 「みんなヘトヘトになるまで走り回ってますよ」。広さ七千平方メートルにわたるドッグランで走る犬を見ながら、NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の大西健丞(けんすけ)代表(51)が目を細めた。
 広島県の山間部に位置する神石高原(じんせきこうげん)町。標高七百メートルの山あいに、ピースウィンズが運営する犬のシェルターがある。岡山県の同様の施設と合わせて二千八百匹が暮らす。飼い主から捨てられたり、野山で捕獲されたり。本来なら殺処分されていた命だ。
 〇県で殺処分対象になった犬をすべて受け入れ(×県に持ち込まれた犬をすべて受け入れ)、譲渡先も探す。民間団体による前例のない取り組みで、かつて全国ワーストだった広島県の殺処分数は二〇一六年度から三年連続で「ゼロ」を達成している。
 シェルターの運営費は年間十億円。ほとんどが会費と寄付金だ。なぜ一つのNPOに巨額の資金が集まるのか。理由は大西さんの特異な経歴にある。
 一九九六年にピースウィンズを立ち上げ、イラクやコソボの紛争地で難民を支援。国内の非政府組織(NGO)活動の道を切り開いた存在で、アフガニスタンの復興支援を巡り外務省と対立して注目を集めたこともある。
 しかし同時に無力感もあった。「紛争地では資金に限りがあり、助かりやすい人から支援した。命を選別するのが、地面の砂をかきむしるような思いだった」。そんな時、国内で捨てられる犬の残酷な現実を目の当たりにした。

◆経費は年10億円
 決死のメッセージだったのだろうか。「ピースウィンズ・ジャパン」代表の大西健丞さんが広島県の殺処分施設を見学した際、壁に刺さった小片をみつけた。
 「生の爪でした」。身が震えた。職員に聞くと、二酸化炭素が室内に注入され、犬は十数分間もだえ苦しんで死んでいくという。二〇一一年のことだ。
 施設には、被災地支援活動に同行する救助犬の候補を探しに来ていた。しかし、それでは数匹しか救えない。命の線引きをした難民支援が頭に浮かんだ。「犬だけでも自分の力で全部を救いたい」と決意が芽生えた。
 自らの知名度と資金集めのノウハウを注ぎこみ、個人支援者や企業から六億円の出資を得た。シェルターの用地として目をつけたのは、客足が遠のき廃れていた神石高原町のキャンプ場。地域再生に悩む町から安価で土地を借り受け、犬舎やドッグランを建てた。二畳の部屋が一列に並び、それぞれが屋外の庭やドッグランに連結する造りは、保護犬の先進国ドイツを参考にした。
 「殺処分ゼロ」を目標とする自治体は全国で四十二あるが、感染症やかみ癖のある犬は対象外という自治体も少なくない。すべてを受け入れるピースウィンズでは獣医師が病気の犬を治療し、スタッフが気性の荒い犬を一からしつけ直す。東京や神奈川、広島など全国七カ所に譲渡センターを設け、人になつくようになった犬を希望者に引き渡している。
 年間十億円の運営費による殺処分ゼロの取り組み。ただ、その評価は称賛ばかりではなかった。

◆保護対象が激増
 「想定が甘かった」。大西さんの悔いは今も消えない。一六年に全頭引き取りをスタートさせた後、早々と苦境に陥った。
 一五年度の県の殺処分は約八百匹。これを基に年間千匹を受け入れられる体制で臨んだが、一六年度に千四百匹、一七年度に千八百匹と〇県から引き取る犬(×県が引き取る)犬が急増した。県の担当者も「殺されないと知って、保健所への持ち込みが増えたのでは」と驚いた。
 ピースウィンズはその全てを受け入れたため、五匹を入れる部屋に保護犬が八匹、十匹と増えた。病死やけがが多くなり、獣医師のケアが追いつかない。そして昨年十一月、二十五匹に狂犬病の予防注射を打たなかったとして、県警に書類送検された。
 週刊誌やインターネットで猛烈な批判にさらされ、〇予定されていた五億円の銀行融資が中止された(×銀行に五億円の融資を引き揚げられた)。大西さんは支援者や企業への資金集めに奔走し、犬舎の増築やスタッフの増員で窮地を何とかしのいだ。
 今も愛護団体から、過密な施設の環境で保護犬を死なせたとして刑事告発されているが、大西さんは「逃げるのは簡単だが、犬たちを見殺しにできない」と信念を貫く。一八年度の保護犬は千五百匹に減った一方、譲渡数は前年度から倍の七百匹に増加。再建の兆しは見えた。
 殺処分ゼロを目指す自治体の多くは、広島県と同じように民間の善意に頼っているのが実情。NPOがやむにやまれずに引き取った結果、飼育環境が劣悪になる例も相次ぐ。
 問題の根源は、ペットブームに乗って次々に子犬を産ませて売る業者や、ペットを手放す飼い主、安易に殺処分する行政…。大西さんは「われわれも完璧ではなかった」と反省しつつも社会に訴える。「人間の都合で殺されていく命に目をつぶっていいのか。一人一人ができることを考えてほしい」

◆第二の犬生歩む
 ピースウィンズに保護された犬たちは、さまざまな場所で第二の暮らしを歩んでいる。
 岡山県早島町の本山浩治さん(47)宅で暮らす二歳のテンは、捕獲された野犬のおなかの中にいて、シェルターで生まれた。
 「一頭でも命を救えればと思って、保護犬を飼うことにした。最初からお利口さん。職員さんがしっかり飼育してくれたんでしょう」と本山さんは感謝する。三人の子どももテンの境遇を知った上で飼っており、長女のさくらちゃん(11)は「ちゃんと育てなきゃ」と心に誓った。

子犬の時に保護された夢之丞(ゆめのすけ)(八歳)は、ピースウィンズのレスキュー部隊と出動する災害救助犬になった。一四年の広島土砂災害を皮切りに国内外で出動し、行方不明者の遺体を何度も見つけてきた。
 現在は購入した三匹を含めて救助犬は五匹。週一回、施設内で訓練し、がれきやコンテナの間に隠れた職員の場所を見つけると、「ワン」と鳴く練習をする。
 今後は生存者を発見することも目標。被災地に同行する西香(にしかおり)さん(23)は「救助犬が示したわずかな反応を逃さないようにしたい」と日夜、訓練に熱を入れている。
 糖尿病患者の体内から分泌される成分の臭いをかぎ分け、生命の危機につながる血糖値の低下を飼い主に知らせる「アラート犬」も育成中。一方で年老いたり、病気を持っていたりして飼い手のつかない犬たちは終生、シェルターで世話をする。
 運営スタッフの安倍誠さん(34)は「一匹、一匹、どうしたら幸せに生きられるかを考え、最善を尽くしていきたい」と、駆け寄る犬たちを順番になでた。 (文・原田遼/写真・中西祥子、原田遼)


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