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『やさしい訴え』読書感想。


冷め切った夫婦関係に嫌気がさし、少女の頃度々訪れた思い出の場所である別荘に家出する瑠璃子。
そこでチェンバロ作りを生業とする新田とその弟子の美しい薫と出会う。

瑠璃子はひと目見た瞬間から新田に淡い恋心を抱くようになる。
ある事件がきっかけとなり、肉体関係を結ぶこととなった2人。

しかし、薫と新田とのチェンバロを通じての深く静謐な関係に嫉妬した瑠璃子は、彼らが泊まりがけで仕事に行くことを知り、嫉妬に狂い飼い犬ドナを殺すと新田に宣言、家を飛び出す。

瑠璃子のおとなしそうでありながら意外と破天荒、聞きづらい質問もためらいなくする両極端な個性がtheお嬢様という感じで、実家に別荘のある人の感じが出ているなーと思った。
偏見だけど。

そんな瑠璃子が叶わぬ恋としりながら、そして気持ちを抑え込みながらも、たまに爆発してを繰り返す姿を見ているうちに恋って良いものだなと思えてくるから不思議。

自然豊かな別荘地の情景やチェンバロの装飾の美しさ、美味しそうなサンドイッチなど五感に訴える魅力が随所に散りばめられているのも素敵。

薫が原因となった事故で指を損傷した新田の言葉、
「かばってなんかいやしない。彼女はただそばにいて、欠落がかたちになった瞬間に立ち合っただけです」
が心に残る。

恋した男が別の女性をかばう瞬間ほど見たくないものはない。

早朝、湖を眺めながらコーヒーを飲んでいるような、
そんな爽やかでほろ苦い小説でした。

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