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『ΑΩ 超空想科学奇譚』発掘記事

◆はじめに
SF、ホラー、ミステリーと幅広いジャンルの作品を書いてきた故・小林泰三の代表作のひとつ。シン・ウルトラマンを観る前に予習代わりとして読んだのですが、いま考えると色合いが違いすぎて予習になってませんでした。はっきり言ってかなり濃い作品です。
本作は2001年に刊行された作品で、元々のタイトルは『ΑΩ』でしたが、文庫化に際して『ΑΩ 超空想科学奇譚』に改題されております。
まずは作者について簡単な説明を。小林泰三は1962年生まれの京都出身。作品の幅は広く、1994年にホラー小説『玩具修理者』でデビュー後、SFやミステリーなどジャンルを横断して精力的に作品を発表し続けました。後、2020年末に58歳という若さで癌のため逝去。

◆あらすじ
物語は旅客機の墜落事故があり、乗客全員が死亡と思われた壮絶な事故現場から始まります。旅客機に登場していた諸星隼人は他の乗客と同様にバラバラの死体となってしまうが、何故かその状態から蘇り、妻である沙織の前に姿を現す。一方、真空と磁場と電離体からなる世界で「影」を追い求める生命体“ガ”が、地球へと到来。“ガ”は隼人と接近遭遇し、「影」との戦いがしていくことに。徐々に滅亡に近づく人類。新興宗教、人間がグロテスクに変質した「人間もどき」の登場。激しい戦いと血肉が世界を覆っていく――。日本SF大賞の候補作となった、超ハード・アクションSF!

◆読んでみて
基本設定は『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』を下敷きにしています。ただし、正義の味方役であるべき「ガ」も敵対する「影」も人間の倫理観など全く無視して行動するのが面白い。そのため、人間からしたら怪物同士が戦っているに過ぎず、町はめちゃくちゃになり、市民は死にまくります。ある意味リアルなので、「空想科学読本」が好きな人は気に入るかも。つまりこの小説はSF的に考証して「実際にウルトラマンがいたら」ということを真剣に、悪ふざけとして、愛を込めて描いたブラックジョーク小説なのです。
作者がグロい描写を得意とすることも手伝って、なんなら『デビルマン』のような終末感のある作品に仕上がっていますが、同時に「ガ」が少々おっちょこちょいだったり、世界の終りに際して阿鼻叫喚している人々の様子をどこかコミカルに描いたりと独特の笑いのセンスが光ります。おそらく、作者は「いかにひどくて笑える話を書けるか」をキモにしているのでしょう。なので、そのバイブスが合う人にはグッとくる作品です。個人的には楽しんで読めました。
また、『玩具修理者』との接点も感じられる要素もあり、作者のファンならにんまりすること請け合い。SF、特撮、B級映画などが好きな人に特におすすめな作品です。

◆おわりに
かなりめちゃくちゃでグロい小説をイメージされるかもしれませんが(実際それは当たっていますが)、意外にも読後感はさわやか。「科学的論拠とSF的な設定を駆使してウルトラマンを書いたらどうなるか」という冗談を真面目に書いた快作ですので、「シン・ウルトラマン」と比べてみるとその異様さが際立ちそうな気がします。

上記はUSBに眠っていた発掘記事の2つめ。この感想は2021年頃『シン・ウルトラマン』の公開に際して書いたものです。noteに掲載するにあたって少し手直ししました。
『ΑΩ』と『シン・ウルトラマン』は『ウルトラマン』という土台作品があって作られたということ以外は関係が無く、その毛色も異なります。ハードな展開と、どす黒い笑いが好みの方なら『ΑΩ』を。精錬さや希望のある物語、SF的な考証を意識した作品作りが好きな方なら『シン・ウルトラマン』をおすすめします。私はどちらの作品も好きなので、もし『シン・ウルトラマン』の続編があるとしたら『ΑΩ』的なぐちゃぐちゃな展開があったら面白そうだなあ、なんて妄想します。
どちらの作品にも共通するのは、人類とは次元の違う生命体と意思疎通することの難しさ、ではないでしょうか。『シン・ウルトラマン』におけるリピアの存在は、その架け橋となっていますが、メフィラス星人にしても、ゾーフィにしても「言葉は通じるけれど、感覚を共有できない」という部分があります。『ΑΩ』の「影」や「ガ」でもそれは同様ですね。そして両方ともその歪みが物語のダイナミズムを生んでいる。「言葉」や「感覚」が異なる存在とコミュニケーションする物語。それはSFに古くからあるファースト・コンタクトというジャンルに属するものです。「他者」という一見不可解で、ときに禍々しくさえある存在と接触する中で見えてくる光明や暗黒を描いたこの2作には、そんな私の好きな「SF」が詰め込まれています。

最後にあまり関係のない話を。noteにある「AIアシスト」機能を使って、上記の2021年に書いた『ΑΩ』の感想を読み込ませたら、「記事のアイデア」として沢山ダメ出しを頂きました。とほほ。
でもAIくんとも仲良くしたいので、言われた通り少し手直ししてみましたよ。それが掲載している上記の文章です。直しながら何となく思ったのは、例えばこの「記事のアイデア」として上げられた改善点をさらにしらみつぶしに修正していったら最終的にどうなるのだろう、ということ。もしそれを続けていったら、いずれは文句の付けようがない感想文が生まれるのでしょうか。なんだかそれはループものの小説やドラマみたいで面白そうな気もするなあ(面倒だからやらないけど)。

桜坂洋『All You Need Is Kill』

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