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キリンに思いをめぐらせながら、物語のより道を楽しむー『こちらゆかいな窓ふき会社』ー

『こちらゆかいな窓ふき会社』という本を買った。作者は『チャーリーとチョコレート工場』でおなじみのロアルド・ダールだ。

タイトルにひかれて、手に取った。思えば、私は子供の頃から「ゆかいな」という言葉にひかれる傾向にあったかもしれない。

ゆかいな仲間
ゆかいな探偵
ゆかいな冒険

児童書のタイトルにいかにもありそうな言葉たち。今でも私の興味をそそる。そのうえ「ゆかいな窓ふき会社」ときたら、私の引き出しにはなかったものとして強くひきつけられたのである。

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『こちらゆかいな窓ふき会社』は原題『The Giraffe and the Pelly and Me』。邦題が『こちらゆかいな窓ふき会社』でなければ、私はこの本を手にとっていなかったかもしれない。
実は、最後まで読んだときに、原題の『The Giraffe and the Pelly and Me』がじんわりとしみてきて、原題も素敵だな、と思いはしたけれど。

内容はざっくりというと、少年ビリーがキリン、ペリカン、サルに出会う。各自、特技をいかして活躍し、夢をかなえる、というもの。期待通りに痛快で、挿絵も素敵で、ぜひ、子供たちに手に取ってみて欲しい1冊だと思う。

私はこの物語を通して、ずっとキリンが気になってしかたがなかった。私は、物語の筋以上に、あるエピソードが、ある食べ物が、ある登場人物が、印象に残って、そのことをずっと考えてしまって肝心の話の筋は忘れてしまう、なんてことがよくある。
子供の頃、より道が好きで、いつも習い事の時間に遅刻していた、ということと関係があるかもしれない。

ここに出てくるキリンは「ふつうのキリン」ではない。
「ゼラネアス・キリン」といって「リンリンの木に咲くピンクとむらさきの花しか食べられない」キリンなのだそう。

私が知っているキリンの記憶で一番新しいものは、今年の年始にいったサファリパークのキリンたちだ。(ああ、あのときは、自由に外に遊びにいけたのだなあ、マスクもしていなかったし)
姉と姪っ子がバンコクに遊びにきていたので、郊外にあるサファリパークに連れて行った。ここのパーク、ライオンやシマウマ、イルカのショーなんかもあるけど、なんといっても目玉はキリンのエサやりなのだ。

公園でキリンのスプリング遊具をお気に入りとしている娘に、ぜひとも本物のキリンを見せてあげたい、という姉からのリクエストもあって、案内をする私としても、なんとしてでもキリンだけは!と意気込んでいた。

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キリンがいるエリアに行き、まず、エサを購入する。バケツに入ったバナナやニンジンを渡される。人間がいるテラスにキリンが顔を出しているので、専用の棒にエサをさして、キリンの口元に運ぶ。キリンが舌でニョロリとエサを受け取り、咀嚼する。この繰り返し。

書くとこれだけなのだが、この一連の動作の中で、ちょっとした恐怖や驚き、発見、よろこび、など様々な感情を受け取ることとなる。
そこには、200頭以上のキリンがいるそうで、この多さにびっくりして、泣き出してしまう子供もいるそうだ。実際、大人の私も、この多さには少しギョッとしてしまった。
幸い、1歳の姪には、そのような様子はなかった。エサをあげるときは、母親と手をつないでおそるおそるやっていたものの、エサをあげ終わったあと、満面の笑みでキリンを見上げていた—というのは、あとから、自分が撮った写真を見て知ったのだが—。

私の方はというと、
想像以上にキリンの頭が大きかったこと(こんなにも至近距離でキリンを見たのは初めて!)
キリンの舌がニョロリと細長く、紫色だったこと(ちょっと恐怖)
万が一にも、キリンが姪をパクリ、とでもやらないか心配だったこと(だって、思ったよりもお口が大きいから)
シャッターチャンスを逃さないか(姪とキリンの名シーンを撮りたい!)ということ

などといったショックや気がかりで頭がいっぱいで落ち着かなかった。
姉から聞くには、今でも姪の中でこのエサやりが楽しかった思い出として刻まれているようなので、安堵した。姪の中で、「本物のキリン」としてはこのパークのキリンが基準となるだろう。

そのように、バナナでもニンジンでも、よく食べたはずのキリン。
「ふつうのキリン」ではない、「ゼラネアス・キリン」は、ある限られた花しか食べられないなんて、日頃大変な苦労をしているに違いない。

しかし、物語の終盤では、「ふつうのキリン」でないこのキリンも、<喉がゴロゴロうっとりしずく>なるお菓子を食べてこう言う。

「わたしの大好きなピンクとむらさきの花より、ずっとおいしいわ!」

なんと、お菓子は食べられるのか!という衝撃。
<喉がゴロゴロうっとりしずく>というのは

メッカの近くで作られた、とくに美味しいお菓子で、かじった瞬間、アラビア製の香り高いジュースが口の中にほとばしり、あとからあとから喉を流れ落ちていく

のだそう。
相当に美味しいのでしょうね。なんだか喉にもよさそう。「アラビア製の香り高いジュース」はなんとなく、柑橘系とかミントが入っていたりというイメージだ。

読み終えたあとも、こうやっていつまでも、物語のより道を楽しむ。子供の頃から私は変わっていないようだ。

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