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おうちに帰りたい

 ハンバートハンバートというアーティストが好きだ。彼らの楽曲は柔らかくてあたたかいものが多く、聴いていると心の中のもやもやや、何か黒いものがなくなっていくような気がする。寒い雪山の麓にある山小屋のような、或いは広い草原の中の小さなおうちのような、そんな景色が思い浮かぶ。特に悩みがあるわけでもないのに、なぜか彼らの曲を聴くと涙が頬を伝うことがある。

 彼らの曲はぜんぶ大好きで、どれか一曲選ぶことなんてできないが、大切な人と喧嘩してしまった時に必ず聴きたくなるのが、「おうちに帰りたい」という曲だ。歌詞が、良いのだ。

何も言わずに家を出て
こんなとこまで来たけれど
日暮れとともに泣き虫が
心細いとべそをかく

赤く染まる街の空を
カラスが鳴いて行き過ぎる
道に伸びる長い影が
早く帰ろと袖を引く

お魚を焼く匂い
晩ご飯のいい匂い

お腹の虫も鳴き出した
意地をはるのも飽きてきた
今すぐごめんと謝って
早くおうちに帰りたい

行くあてのないぼくの前を
子どもが一人行きすぎる
鼻をすすりしゃくりあげて
脇目もふらず走ってく

闇に消えてく背中
あの日のぼくに似ている

走れ走れ涙拭いて
欠けたお月さん追いかけて
今すぐごめんと謝れば
晩ご飯には間に合うさ

お魚を焼く匂い
晩ご飯のいい匂い

お腹の虫も鳴き出した
意地をはるのも飽きてきた
今すぐごめんと謝って
早くおうちに帰りたい

https://www.uta-net.com/song/232104/

 日常の喧嘩なんて、些細なことが原因なのに、つい言わなくていいことを口走って相手を傷つけてしまうことがある。言ってしまった、とは思うもののいったん強気で出てしまった手前、引き下がれなくなってどんどん嫌な言葉が出てきてしまう。自分が悪いとわかっていればいるほど、なかなか謝れない。鼻をすすりながらがむしゃらに走り過ぎた少年も、きっと謝れなくて、うまくいかなくて、悔しかったんじゃなかろうか。

 それでもお腹は減る。どんなに大きな喧嘩をしても、謝ることが難しくなるほどこじれてしまっていても、お腹の虫はグーグーと鳴き出すのだ。晩ご飯に間に合えば、それでいい。一緒に晩ご飯を食べられればなんとかなる。

 私は喧嘩したまま家を出た日は、この曲を聴きながらできるだけ早く帰る。喧嘩したまま見送った日は、この曲を聴きながら晩ご飯を作って待つのだ。今日の晩ご飯は鍋にする。

美味しいごはんが食べたいです