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第二夜 思い出のユートピア#5 『感覚を呼び起こす観光ホテル』

ミッドナイト・ノスタルジック・エモーショナルラヂオとは**

共に1991生まれにして生粋の夜型人間 西口ひかる金井塚悠生が、夜をこよなく愛する人達にお届けするラジオ番組です。キーワードは#真夜中の連帯感。毎回テーマを設定して、カオスな脳内の2人がとりとめもなく話します。今回のテーマはノスタルジック編「思い出のユートピア」。いつもの真夜中に、どこか懐かしくて、ふいに心が揺れる瞬間を。ミッドナイト・ノスタルジック・エモーショナル ラヂオ はじめました。

思い出のユートピア

街を歩く時、気づけばいつも古い建物を目で追っていた。
学生街の古本屋さん、商店街の八百屋さん、田舎のなんでも売ってる商店、温泉街の観光ホテル、デパートの屋上遊園地、路地裏の純喫茶。
古い建物の魅力はたくさんあるけど、何故か引き付けられる不思議な引力の正体は、その建物が多くの人々の人生を彩る舞台となっていて、そこにたくさんの思い出が沁み込んでいるからだと思っている。
ミッドナイト・ノスタルジック・エモーショナル ラヂオ ノスタルジック編の第2夜は、そんな人々の思い出が沁み込んだものを巡る旅にでる。

今回の〜感覚を呼び起こす観光ホテル〜では、テーマにぴったりなゲストをお招きしました。ホテルや旅の魅力を歴史やストーリー・文化から紐解き発信されている「こばみほ」さん。ただ古いものが好きなだけではない、その背景を大事にした彼女の情熱的で濃密な記事は見ていてグッとくるものがあります。ラヂオ本編ではその想いを時間いっぱいに語っていただきました。ぜひお聴きください。

前回のラヂオはこちら

ラヂオ本編


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『感覚を呼び起こす観光ホテル』〜西口ひかるの場合〜**

いつか。

私は一人旅ができない。理由は単純なもので、寂しいからだ。誰かと話したい、いいと思った瞬間に共有したい、荷物を見ててもらいたい…などがあがる。ひとりで行き先や荷物などしっかり管理できる能力が低すぎるあまちゃんで、自分のことが信用できないので基本的に家族か友人、恋人と一緒に旅へ出る。

前職では年に2回のペースで会社メンバー女6人で旅行へ出かけていた。これが引くほど楽しいのだ。私はこのメンバーの中だと一番下。アラサー末っ子という4コマギャグ漫画にありそうなワードだなあ、と思いながら存分にお姉さま達に甘えまくる。運転は社長、助手席は上司でナビの補助、真ん中の席は先輩×2でひたすら盛り上げてくれる。私は一番後ろで、ヘッドレストの首フィットポイントを見つけ目的地に着くまで寝て、サービスエリアで買った名物おやきを美味しく食べるという役割。

6人旅では、温泉宿へ行くことが多く『ここに本当にお宿あるんか?』という秘所で泉質もわからぬまま温泉を楽しむのだ。外観、内観などさすが建築関係の旅行である…どのお宿もツボすぎる。(旅リーダーの社長には歴史ある場所がいいです、などの要望だけは言う)。赤い絨毯に、濃ゆい茶色い階段。古くても怖くない、寒々しくないこの歴史あるお宿の不思議な力はなんなの?生命力なのだろうか。人の手によって大切にされ、愛されている建物というのは、やはり温度がある。人間も愛されている人はなんか強い。根っこからの無敵感がある。愛され力?ケッッッッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎なんて思っていたけど、たった一人にでも愛され、必要とされているならば、その事実に対して素直にありがとうと受けとることなのだろう。私はそこからだ。

バブリシャス観光ホテルなら、端が見えないくらいの広い食堂でバイキングをたっぷり楽しむ。千と千尋の舞台になっていそうな老舗旅館はお部屋でテーブルの上いっぱいに並べられた、その土地の食材で作られた郷土料理をじっくりと堪能する。宿泊において『食』というのは非常に大事な要素である。大サビであり、盛り上がりどころだ。そして、お宿で食を楽しむようになった時に『私も大人になったな』と感じるのである。ファースト大人になったなあ…から随分経ってるけど、毎年欠かさず大人になったなあ…と感じてる。

老舗旅館だと館内見学ツアーなどもあったりする。できるだけこういうツアーはやってもらえたら嬉しいなあ、と思う。結構シャイなのでこういうツアーがあると質問もしやすいし素直にありがたいと思う。空間没入度も増し増しになる。老舗旅館でもそうじゃなくても、観光ホテルなどの宿泊施設の館内ツアーあったらいいな委員会。

冒頭に書いたが、私は一人旅ができない。理由のひとつに、寝る前にペチャクチャ喋りながら修学旅行みたいなノリが今の年齢になっても大好きだから、というのがある。枕投げは流石にしないし、もうべろべろに酔うこともない。静かに自分と向き合う旅もしてみたいけど、『旅の時くらい!!ね!!』となる性質なので一人旅へ出るのはまだまだ先になるだろうなあと思いながら、来月の友人たちとの旅行に胸を躍らせている。

BGM 「ロードムービー」〜Mr.Children〜

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『感覚を呼び起こす観光ホテル』〜金井塚悠生の場合〜**

思い出の箱

「観光ホテル」というジャンルがあることを数年前に初めて知った。
甲斐みのりさんの著作「一泊二日 観光ホテル旅案内」を手にしたことがきっかけだった。時を同じくして、仕事でホテルを企画・運営する会社に関わる様になっていたが、それまではホテルに種類があることを意識したことはなかった。観光ホテルの定義はいくつかあるかもしれないが、主に昭和に地方のリゾート地を中心に建てられた、家族旅行や社員旅行を想定した大型の施設だと考えている。
80年代のシティポップやバブル時代のファッションや純喫茶等、レトロカルチャーがリバイバルブームになっている中、観光ホテルも俄かに注目が集まっているが、現状は、建物の老朽化や地方のリゾート地の衰退に伴って厳しい経営状況に陥っているところも少なくはない。家族旅行も、社員旅行も時代と共に、顧客が求めるニーズも変わってくる。「観光ホテル」に残っているゲームセンター、ラウンジ、大広間等の施設を見ると、昭和を生きていた家族や会社員たちの姿が脳裏に蘇って来るように感じることがある。同時に、この施設がなくなってしまうと、過去に思いを馳せる機会もなくなってしまうのではないかとも思う。
「観光ホテル」の存在を知ってから、意識的に各地の有名観光ホテルをまわる様になった。「一泊二日 観光ホテル旅案内」の巻末には全国100軒の観光ホテルのリストがついている。その中に1つ、私にとって特別な場所があった。大阪府箕面市にある箕面観光ホテル。箕面山の丘陵にそびえ立つかつてはモダニズム建築の傑作と呼ばれていた建物である。私は、この箕面市の隣の町、池田市で生まれ育った。幼い頃の私の家族は、GW、正月、夏休み等ことあるごとにこのホテルに集まって過ごしていた。箕面観光ホテルには、家族が家族だった頃の思い出が沁みついていた。よく行っていた近所のあのホテルも「観光ホテル」だったのかと思って、私は、久しぶりに地元のホテルを訪れることにした。
館内に入って愕然とした。
噂には聞いていたが、ホテルは数年前に経営破綻した後、大手資本に買収されて、館内は変わり果ててしまっていた。もちろん、大手資本の運営は時代に合った正しいやり方なのだと思う。館内は以前は見られなかった若者や外国人観光客であふれていた。
「間に合わなかった」と思った。
この個人的な経験から、私は以前よりも一層、古いもの、歴史あるものを何かのかたちで残したいと思うようになった。どんなものもいずれは移ろい無くなっていく。社会はいつも未来だけを見ている。そんな時代の中で、いつか、過ごしたあの場所よかったねと言い合える仲間が少しでも増えたらいいなと思っている。

BGM 「革命前夜」〜Tempalay〜

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さいごに、、、

クラシックホテル&100年越えホテルラバーこばみほちゃんのおすすめホテルサイトを。

それではみなさん、すてきな夜を。

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