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「壁の人」キャスト座談会(くによし組壁短編集『壁背負う人々』より



くによし組壁短編集『壁背負う人々』より、今回は『壁の人』メインキャストのタナカエミさんと永井一信さん、作・演出の國吉が、各作品のことや演劇のことなど、いろいろお話しました。


左が永井さん、右がタナカさん


『壁の人』
○あらすじ
壁教団体居住地に住む人々と、壁を信じすぎた男のお話。

○キャスト 
全員(國吉以外)


新作『壁の人』のお話

國吉「作品はどうですか?」

永井「僕、出身が奄美大島なんですけど、とても田舎で、その街のルールがあって・・普通だと思ってたけど外にでたら違ったと気づくみたいな、そういう感覚を思い出しました。最初に台本読んだ時」

タナカ「島だと出ていく人も多いんですか?」

永井「僕の同級生とかは、島から出て行ってもいつかは戻る感じですね、殆ど。内地って言い方をするんですけど、大体若い人は内地に行って、やがて帰ってくる。なんなら家族とか仕事を連れてくるみたいな。東京出て来てからじいちゃんに会ったり電話したときに毎回言われるのが、『稼いでるね?』なんですよ。出稼ぎだと思ってるんですね」

タナカ「いつかは戻ってくる前提なんですね」

永井「昔はフェリーに何時間も乗って、またそこから飛行機に乗ってって感じだったんで」

國吉「島を出るのは相当なことだったんですね」

永井「そんな環境なので、もしタナカさんの役だったら・・僕はすぐに出ていくと思います。でも団体の人の感じとか考え方が、すごく現代的な宗教だなと感じました」

國吉「このお話は、特別な宗教というよりは、親戚とか、生まれながらに持っているコミュニティや、当たり前になってしまった環境とどう向き合うかを書きたいなと思って」

タナカ「家族の話を聞いてて思ったんですけど、私、逃げられないって状況がすごい苦手で」

國吉「逃げられない?」

タナカ「みんな残るって言ってるけどもう終電がない飲み会とか・・」

國吉・永井「うわああ」

タナカ「カラオケとか・・」

國吉・永井「ぐわあああ」

タナカ「ああいう、ちょっと閉鎖空間で、ここからもうどこにも行けない、みたいなのがすごい苦手で。家族旅行とかも得意ではなくて。ある意味逃げられない閉鎖空間じゃないですか。だから脱走したときもあって・・」

永井「危ない」

タナカ「単位が1ではなくて、家族とか複数になったときって逃げられなくなってしまうじゃないですか。あれが苦手で・・いいことももちろんあるんですけど。でも『みんな楽しんでるんだから』って提示されることがダメなんです。このお話の人たちは、よくみんな『もう嫌ー』ってならないなあって」

永井「脱走しちゃいますね」

タナカ「はい。こういうところにいて、このままでいいのかなとか、何かを変えてもいいのかなと思ったり、今まで生活して培って来た何かを置いてまで外に出ていく、ってことは未知数すぎて・・役柄のことになってしまうんですが、その未知数のところに立って冷静に判断してる自分の役は、すごいなと思いました」



國吉「今回4つの短編集なのですが、作品ごとのお話をしてってもいいですか? 
永井さんは初演も今回も全部出演されてて、タナカさんは今回再演と新作の2作品と、初演の『壁とアルコールとアイドル』も出演されておりますが」

永井「時系列的に行くと、一番最初に壁教が出たのって『ななめ島』ですよね」

國吉「そうですね」

永井「本当、最初に『壁教』が台本に出て来たときは面白くて面白くて。出てくるだけでコミカルだし、コント的だし。それから少し経ったときに國吉さんから『壁教の人を出す話を作ります』って言われて、『壁とアルコールとアイドル』ができてって感じで、段々壁教の人たちがちゃんと組織として存在してる感じで見えてきたというか・・」

タナカ「全貌がね」

永井「それで今回は壁教の人たちが出てくる作品と、その団体の人たちの短編集作りますって言われて・・これは面白いぞって。もう僕は本当にただのファンなので、國吉作品の。こうなって行くのかっていう、ドラマシリーズを追ってきた感覚です」

國吉「ジュラシックワールドみたいな?」

永井「そうですね。映画だけどね」

國吉「ジュラシックワールド新たなる支配者みたいな?」

永井「ファイナルね」


『壁とアルコールとアイドル』の話

○あらすじ
壁教の女、アルコール依存の女、アイドルファンの女による、アイデンティティを巡るお話。


『壁とアルコールとアイドル』より、左から小嶋直子さん、笠井幽夏子さん、菊池美里さん


國吉「4作品出るのは大変ですか?」

永井「・・どれだけ手を抜けるかを考えています。でもやっぱ稽古していくと、こうしたいなとか欲がでてきて結果自分を苦しめていくんですけど・・。初演の『壁とアルコール』のときも、どう演じたらいいんだろうってなったりしてたので・・」

國吉「初演のとき、永井さんがずっと泣きそうで、悩んだままアイデンティティの役をやってるのが結果的にはよかったのかなと思いました。それが正解ではないのだろうけれど」

永井「今回は正解を見つけたいですね」


タナカ「私、少人数のくによし組が好きで」

國吉「私もです!」

タナカ「國吉さんと三澤さきさん(※初演時キャスト)と仲良しって役もすごく嬉しかったし楽しかったですし。私はアイドルファンの役だったんですけど、推しを外的な要因で追えなくなって、でも推しを追えなくなっても意外と生きてしまえてて・・今まで好きだったものを好きだった時間は本当なのに、って・・それが辛くて。でもそういうのがポップな感じで抽出されているのが凄いことだと思います」

國吉「初演が仙台での公演で、しかもとんでもない台風だったじゃないですか」

タナカ・永井「ねー・・」

國吉「だからあまりお客さんに見てもらえなかったのが心残りだったので、再演できることは嬉しいです。・・でも全然違うんですよね、初演とは」

永井「違いますね」

國吉「初演ももっと見てほしかったな、と未だに思ってしまいます」

タナカ「この前の読み合わせの時点で『全然違う、面白すぎる』って思いました。どうなっていくか楽しみです」



『ななめ島』の話

○あらすじ
島が斜めになっているななめ島に引越してきたマチコはモデル志望。
筋肉がついて足が太くなることを恐れ、早く引越したくて仕方ないマチコのお話。


國吉「コントレックスというイベントのために作ったものだったんですよね」

永井「当時はゲロ笑ったなという思い出しかないですね。田舎太郎のセリフとか」

國吉「あ、そうなんですね。なんか私としてはすごい真面目に作ってて。笑いたけりゃ笑え、くらいの気持ちでした」

タナカ「あー」

國吉「人間自体を笑い物にしたくなくて、人と人が関わることで発生する笑いが好きだから、個性的な子たちが一生懸命生きてるだけで、見る人によってはコントにならないかなと思って。で、すごく斜めの島ならいいのかなと」

永井「國吉さんって、笑いが起こると傷ついてたりもしますよね」

國吉「矛盾ですよね・・。なんか、くによし組がそもそもシュールコメディ作るって言ってはいるんですけど、そうするとお客さんって、『笑わせてもらおうじゃないか』って気持ちで席に座るのかなと思って。そうなると、私が見てほしいところより、笑える場所を選び取ろうとされるのではないか、感じてほしいことは届いてないのではないかとか思ってしまって・・でも楽しい気持ちで客席には座ってほしいし、自由な心で見てほしいし、どう感じてもらっても正解だから・・」

永井「難しいですね」

國吉「あ、なので私は、『ななめ島』を箸休めと思ってほしくないなという気持ちがあります。一つ目の『壁とアルコールとアイドル』がちょっと切ない感じで終わって、次の『ななめ島』が見やすい感じで始まるかなと思うんですけど、『はいはいコントね』って体勢じゃなくて、しっかり見てほしい。キャストさん皆さんすごい真面目で体を張っていて・・」

永井「ね」

國吉「できれば大事に見てほしいなという気持ちです。大事に見て、たくさん笑ってほしい」

永井「欲張りだね」


『眠る女とその周辺について』の話

○あらすじ
街一番の美少女カズノちゃんが、ある日突然眠りから覚めなくなりうん十年。
眠りながらも成長を続けたカズノちゃんは、いつの間にかおじさんっぽくなっていた。
親戚をたらい回しにされた彼女は、許嫁が住むシェアハウスに預けられるが・・。
いつまでも眠る女と、その周辺についてのお話。


國吉「あれ1日しか本番やってないんですよね」

タナカ「そうですよ」

永井「めちゃめちゃやってる気がする」

タナカ「稽古自体はもう3回目なんですよ、一度延期になったので。一つの作品をこんなに稽古することないですよ。本番も乗り打ち(※当日に劇場に入り、リハーサルと本番をすること)だったので・・」

國吉「ああ・・もう本番の日の記憶がないです」

タナカ「大変だ大変だ!ってなって終わった気がします」

國吉「『眠る女』は、コロナ禍になったときに作った作品なんですけど、あのとき、一旦全てがストップしたじゃないですか。私も公演がいくつかなくなってしまって、もう本当に何も作れないって気持ちになって。でもそんな中でも、何か特技がある人はどんどん進んで行ったんですよね。映像編集ができる、配信ができるとか。他のことでもなんでも、何か得意なものがある人はどんどん進んでいって、でも私は中止になった公演を前に何も動けなくて・・。じゃあ自分で配信作品つくるかとか、そういうこともできないし。私、特技が何もなかったんです。あと、一人なんだってそのとき気づいてしまって。仲間が、いねえ!って」

タナカ「一人のルフィだ(笑)」

國吉「周りに頼れる人がいないと、ピンチのときに何もできないんですよね。じゃあ一人で私は何をやってきたかというと、一人では何もやれて来てなかったんです。
演劇って本当に人が必要じゃないですか。役者さんもスタッフさんも必要で。私は書いて演出することしか出来ないから、私は何も一人ではやれて来なかったし、今周りに誰もいないから、この先も何もできないっていう無力感と孤独をとてもとても感じてしまって・・取り残される感じがめちゃめちゃあって。この先もう演劇できないんじゃないかってすごく思って、転職サイトばっかり見るようになって」

永井・タナカ(苦笑)

國吉「そんなときに関西演劇祭in東京の方も進めなくちゃいけなくて、でもちょうど永井さんもうつになってしまって、セリフを覚えられる状態じゃなくて。どうしようかと思ったんですけど、こう・・私のように、周りに取り残されてる感覚の人は他にもいるんじゃないかと思って。じゃあそういう人たちのために、ずっと寝ていて周りに置いてかれる人の話を作ろうと思って。そしたら永井さんはセリフ覚えなくていいしって。そんな感じでできたのがこのお話で。この前のキャスト座談会で「ラストに救いがない」って感想があったんですけど、私的には、どんなに置いてかれていると思っている人でも、見てくれてる人がいるんだよっていう、希望のあるお話ではあります」

永井「見る人によって変わりますよね。カズノちゃんの悲劇として見るか、その周りの人たちのお話として見るかで」

タナカ「不思議なんですけど、毎回ラストの手触りが違う感じがあって。立ってられないくらい悲しいときもあれば、少しポジティブにいれるときもあって・・個人的になんですけど、タイムリープしてるみたいな実感があります。カズノちゃんの最後の10ヶ月を何度も繰り返してるみたいな」

國吉「ライトノベルだ。初演の主役の渋谷さんと今回の津枝さんは、寝続けているカズノちゃんの捉え方、感じ方が全然違うなって見てて思うので、ラストがすごく変わるんだろうなという気がします」

タナカ「私も語り手としていると、渋谷さんと津枝さんの語り手の感じ取り方が違っていて、それがすごい面白いなって。なんか本当に、タイムリープしてるみたい」


『演劇とは』の話

國吉「この短編集は、大事だったものが大事かわからなくなっちゃったことをテーマにしてるんですけど、私はこの作品集を、演劇に関わっている方になるべく見てほしいなと思っていて。もちろんどんな人にも見てほしいんですけど。でも演劇って答えもないし、未来も不安いっぱいだから、他の大事なものと天秤にかけたときに重さがわからなくなりやすいのかなと思って」

永井「楽しいからやる以外の理由を持ちにくいですよね。いくら本気でやっても下積みって言われるし、そういうイメージもやっぱりあるだろうし」

國吉「下積みだとしたら難しすぎるし技術が必要すぎますよね」

タナカ「この間、すごい老舗の劇団の公演を見たんですよ。70代の役者さんばかり出演してらして。で、開始5分で、一人の役者さんがセリフでなくなっちゃったんです」

國吉「わ」

タナカ「そしたら、プロンプ(※陰から役者にセリフを教えること)が飛んできて」

國吉「おお!」

タナカ「それで相手の俳優さんが『まだ始まったばっかりだぞ!』って返して、お客さんが笑って」

國吉・永井(笑う)

タナカ「そのあとも何度かその俳優さんはプロンプ飛ばしてもらってたんですけど、それを見て、あ、私まだ演劇できるなって、元気になったんですよ」

國吉「え!」

タナカ「そりゃ、今の私だったら、本番でセリフでなかったら、なんとか続けようと試行錯誤するし、私が『まだ始まったばっかりだぞ!』って言っても、お客さんは興醒めなんですけど、続けていって続けていって続けていった先なら、セリフ飛ばしてもプロンプ飛ばしてもらえて、周りの役者さんにそれを拾ってもらえて、お客さんも笑ってくれるんなら、私あと4、50年は演劇できるなって思えたんです」

國吉「それは最高だ!」

タナカ「あと、この前のくによし組の『チキン南蛮の夜』での小野寺ずるさんが本当にかっこよくて。たくさん笑いをとってたのに、ラストの叫びのところでお客さんの心をがっちり掴んで感動させてしまうっていうのが、本当にかっこよくて、憧れて」

國吉「ずるさんかっこいいですよね」

タナカ「演劇やってると一個一個のことで辛くなったり、もう続けてらんないとか思ったりするんですけど、でも結局そういう小さなこととか一つのことで元気になったりして、すごーい!ってなって。そうやって今も演劇をやっている感覚があって・・。私は人と何かをすることが好きなんですけど、でも最近は、台本を読み合わせする会みたいなものに参加したりして、そういうのでもう楽しくて。『演劇もういい』って。もういい度合いが、この作品の稽古入るまでマックスで強かったんです。もういいだろさすがにって気持ちでいて。
で、昨日友達と話してて、『俳優を、お金を稼ぐものにしていく人もいるけど、お金は一般的な仕事をして稼いで、演劇は脇に抱えてやってもいいのでは』って話になって」

タナカ「その話してて・・演劇を脇に抱えられるほど、そんなに、距離が離れてないって気づいてしまって。脇に離して抱えられるほど客観的になれないんだ。・・癒着だって」

國吉「癒着・・!」

タナカ「これを、くっついたままにするのか、ひっぺがすのかまだわかんないんですけど、続けるとか続けないとか、好きとか嫌いとか・・なんか・・」

國吉「わかんないですよね」

タナカ「そう、もうわかんないんです。こう、小脇に抱えられるくらい離れていれば、こういうとこ好きかもとか客観的に見れるんですけど、もう・・くっついてる」

國吉「離そうとすると皮膚がちぎれますよね」

タナカ「そうなんですよ。その距離感にいるから、ずっと好きなこと続けてて楽しいよね、頑張ってねと言われても、ありがとねとは思うんですけど、もうこんなにくっついて癒着しちゃってるから、好きとか楽しいとかわかんないんだよ、っていつも思います。それもひっくるめて受け止める努力をしていくんだな、していこう、と思いました。昨日」

國吉「癒着がわかったっていうのは大きいですよね」

タナカ「そう、ここがわかったのは本当に直近の一歩です」

國吉「昨日ですもんね」

タナカ「昨日です」

國吉「でも癒着って言葉、めちゃくちゃ腑に落ちました」

永井「僕もです」

國吉「演劇が好きかわからなくなるときがあって。大嫌いなときもあれば、世界一好きってなるときもあって。たぶん、演劇でお金を稼ぐという選択肢を捨てて、それこそ小脇に抱えて、黒字にならなくても、年1の趣味みたいな感じでやっていけば、ずっと続けてはいけるけど、そこでまだ納得できない自分がいて。私いつも、くによし組に出てくれた役者さんがみんな売れっ子になって役者で稼げますようにって思ってるんです。本気で。あわよくば自分も売れたいし。一回売れて、それでお金を稼げるようになれば、本当に好きか嫌いかとかもわかるんじゃないかとも思うし」

永井・タナカ(何度も頷く)

國吉「・・そんな人に・・見にきてほしい・・」

タナカ「癒着してる人に(笑)」

國吉「好きなものが好きか嫌いかわからなくなった人にも、好きなものがある人にも、見てほしいです」

タナカ「プロンプが飛んできた老舗劇団の公演や、『チキン南蛮の夜』を見て、私が元気が出たり心が打たれたみたいに、くによし組の作品は、心が撃ち抜かれるものがあると思いますので。4作品ともかもだし、その中の1作品かもしれないし。そうなってもらえるように・・私がそうできるように、頑張ります」

永井「がんばります」

國吉「私もがんばります! ありがとうございました!」


座組一同、皆様のご来場をお待ちしております!!


くによし組壁短編集『壁背負う人々』
8/23〜27 こまばアゴラ劇場

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