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未来を切り拓くために、手術という選択をした。

この記事では…

 よーしガシガシ記事をアップしていくぞ〜!と意気込んでいたのにもう1ヶ月半以上経っている…おかしいな。どうしてかな。今日こそはブログにこれを書こう、あれを書こうとストックばかりが溜まっていく…。

 さて、今日はタイトルにもある通り、私の人生における最も大きな決断の一つについてお話しさせてください。いよいよ明日、私は手術を受けます。
 バクロフェン髄注ポンプ(ITBポンプ)をお腹に埋め込み、胸椎の方へ伸ばしたカテーテルを通して、24時間365日私の髄液にバクロフェンというお薬を流し込めるようにする手術です。どんな手術かについては後ほど説明いたします。

 脳神経外科の先生から手術の難易度について「脳外科2年目の医師が担当できるくらい簡単な手術」と伺いましたので、きっと何事もなく終わってくれると思いますが、人生初の手術ですので少し緊張しています。ここに手術という選択に至るまでの経緯を記して、心の準備をしようかなと思っています。

 あなたが私の知人でいらっしゃるなら、私が置かれている状況と私の選択について理解していただければ幸いです。もしあなたが線維筋痛症の患者で、私と同じように治療の術がなく毎日生きるだけで苦しいと感じているなら、ぜひこの先進的な治療の可能性について知ってください。

重要な注意点

 この記事に書かれていることはあくまで私個人の経験、感覚、考えであることをご留意ください。私がここで紹介する治療によって痛みが改善・回復したと述べていても、あなたやあなたの大切な人にとって同じように効果を得られる保証はありません。また、現時点ではこれらの治療を実際に担当してくださる医師は日本にほとんどいないであろうこともご理解ください。
 もし私がお世話になっている先生を紹介してほしいという強い希望がおありでしたら、ご連絡くださればお伺いすることはできます。実際に診察を受けられるかについてはお約束できかねますのでご了承ください。

ご縁のご縁 

 2月にアップした記事に、新しい治療法が見つかったことを書きました。年が明けてからしばらくして、私の元に1通のメールが届きました。送り主は私の障害者手帳の意見書を書いてくださった先生でした。その時、元々は主治医に意見書を書いてもらったのですが、審査に通るための規定を満たしておらず、塾の個別指導で教えていた元教え子のお父様にお願いしてご友人を紹介していただいたのがご縁でした。
 メールには、大学の先輩が取り組んでいる先進的治療を受けてみないかということが書かれていました。昨年5月に意見書を書いていただいた時に、「世界の中でもかなり先進的な線維筋痛症の治療法を研究している知り合いがいる」という話は伺っていたのですが、結局詳しいことを教えていただくことができていませんでしたので、「今更なぜ?」と思いつつも読み進めてみました。
 その治療法は外科的な手術を必要としており、気軽には紹介できないと考えていたようですが、症例がいくらか集まってきて非常に良い成果が出ているのと私の条件がかなり合っているとのことで、今回話を回してくれたそうです。
 その治療に取り組んでいる脳神経外科の先生は、私がアルバイトで担当していた教え子のお父様のご友人の先輩ということですから、もはや奇跡に近いご縁です。私がもしあの時一生懸命教えていなかったら、もしその子が合格していなかったら、親御さんぐるみでお付き合いさせていただくこともなかったでしょう。「アルバイトとは言え誠心誠意全力で取り組んでいたことがこういう形で返ってくるとは思わなかったな」としみじみ感じたのでした。

手術によって新しい選択肢を増やす

 ちょうど修士1年生の最後に行う発表会のための準備に追われていた頃だったので非常に苦しいスケジュールではあったのですが、こんなチャンスは2度と巡ってこないかもしれないと思い、二つ返事で飛んでいきました。

 その先生は薬理学、神経、慢性痛といった分野に明るいようで、脳卒中の後遺症などで歩けなくなった方の機能回復などにも取り組まれているそうです。得意としているのは私が受けるバクロフェン持続髄注療法(ITB療法)と、脊髄刺激療法(SCS)です。
 いくら薬を飲んでもリハビリを続けてもなかなか改善しない慢性疼痛の患者に「諦める」以外の新たな選択肢を示すために手術による治療を続けておられ、最近は線維筋痛症にも同じ治療の有効性を見出しているとのことでした。

 ここで先に挙げた2つの治療法について少しご紹介したいと思います。素人の解説なので間違っていることもあるかもしれません。病院などの説明のリンクを付けましたので、より詳しく知りたい方は参照してください。←まだ付けてません

バクロフェン持続髄注療法(ITB療法)

 筋肉が意思に反して緊張してしまうせいで手足をうまく動かせなかったり、思うような姿勢が取れなかったりする「痙縮(けいしゅく)」という症状があります。
 これに対して、筋弛緩薬であるバクロフェンというお薬を髄液に直接投与し続けることにより、内服や血液への注射による治療と比べてより効果的に筋肉の緊張を和らげることができます。

 バクロフェンを入れたポンプをお腹に埋め込み、同時に脊髄腔にカテーテルを通してつなぎます。ポンプから送られた少量の薬がカテーテルを通じて目的の位置に到達し、排出口から出て効いていきます。

 ポンプは直径7cmとかなりの大きさがあり、臍のあたりを大きく切開する必要があります。またポンプに入れられた薬には限度がありますので、3-4ヶ月ごとに補充する必要があります。電池が7年で切れるので、治療を続ける場合はポンプごと手術で交換します。
薬の注入口は体外に出ておらず注射で打ち込むため、傷口を見なければ外からは全くわからないそうです。薬をどの程度注入するかは、無線のプログラマを使って体外から調整することができます。

 手術の有効性を予測するためには、少量のバクロフェンを髄液に注射して実際に痙縮や痛みが取れるかを見ます。数時間から半日程度で効果は消失します。

脊髄刺激療法(SCS)

 激しい慢性疼痛をお持ちの方であれば、こちらの治療法をご存知の方は多いかもしれません。脊髄刺激療法は、交通事故などによる脊髄損傷、脊髄手術後の神経痛、幻肢痛などで薬・リハビリどちらも効果が不十分である神経性の慢性疼痛に対して行われます。

痛みを支配している脊髄のターゲット位置に電極を埋め込み、コードで繋がった刺激装置から電流を送り電気的な刺激を行います。電極と刺激装置は体内に埋め込まれており、刺激の調整は患者自身が無線コントローラによって行います。

 ITBポンプと比べると小さな機器で済みますが、やはり電池に寿命があります。充電式は定期的な充電が、非充電式は2−5年ごとの交換手術が必要です。
 トライアルで仮に置いて効果を確かめてから埋め込むため手術は2回行われます。また、全身の疼痛の場合は上肢・下肢に分けて行います

 トライアルの前段階として、ケタミン試験によって有効性をある程度予測できることが知られています。ケタミンという薬剤を静脈に点滴で注入することで痛みが取れるかを見ます。ケタミン試験で有効となれば、手術を伴うトライアルに進みます。

線維筋痛症に対する有効性は?

 これら2つの治療法は、いずれも日本の「線維筋痛症診療ガイドライン2017」には取り上げられていませんでした。
 線維筋痛症を専門とする主治医も外科的な手術の効果に対しては懐疑的で、SCSは何例か見たが無効で、ITB療法は適応がない(線維筋痛症の治療として健康保険で認められていない)とのことでした。
 つまり、線維筋痛症に有効である、と断言するにはまだエビデンスが不足している治療法であると言えます。ただし、ITBもSCSもそれ自体はかなり前からありよく知られた治療法のため、知見は多くあります。まだ線維筋痛症に対して有効だと考えている、あるいは試している医師はほとんどいないということです。
 私がお世話になっている先生は、「同じ線維筋痛症患者でも、有効な例とそうでない例がある」と言います。発症からの年数は3年以内で、脳には異常がなく、年齢がなるべく若い方が良いそうです。さらに有効性を事前に予測するための検査は欠かせません。

※ITB療法に関しては、実際に「痙縮」が起こっていると医師が判断すれば保険適用範囲内で手術できるそうです。

 先生は線維筋痛症の専門医ではなく、さらに外科医なので多くの症例を見ることはありません。今まで手術を担当されたのは9例のみで私が10例目です。(ただし、上記の手術の経験は優に3桁を超えるとのことなのでベテランであることは間違いありませんから、手術を安心してお願いすることができました)
 この9例のうち、最も重症で完全に寝たきりだった1例を除く8例で痛みが大きく改善しました。無効だった1例では、有効性を予測する検査でも無効でした。
 ITBポンプを埋め込んだ方では、3年経過時点でバクロフェンは必要なくなり、生理食塩水のみを流しているため実質的にポンプを取っても構わない状態になった例もあるそうです。
 症例が積み重なり検証が行われるまで結論はできませんが、事前の検査などある程度条件を満たせば、有効性は期待できると私は思っています。

 というのも、今までの3年間で「激しい痛みが起こる時に筋肉が固くなって緊張した状態になる」ことはよくあったからです。
 そしてマッサージやお風呂など、普通の肩こりと同じように筋肉の緊張をほぐすようなことをすれば痛みも和らぐとわかっていたため、線維筋痛症のうち、少なくとも私の場合は痙縮が発生して痛みに関わっているのではないかという意見にはかなり納得感がありました。

新たな可能性「磁気刺激」へのチャレンジ

 緊急でなく、命にも別状がない中で「痛みを緩和する」ために外科的な手術に踏み切るには、手術をする前に効くか効かないかを知りたいと思うのが普通だと思います。それは手術をする先生にとっても同じです。やらなくても死ぬわけではない手術をわざわざやったのに全く効かなかったのでは、お互い悲しいというほかありません。

 手術の有効性を簡単に予測するためにその先生が初めに利用しているのが「磁気刺激」という検査です。これこそが私の生活をガラッと変える鍵になりました。

 磁気刺激は、直径20cm程度(?)のコイルを体外からあてがってパルス電流を流し、電磁誘導によって磁場を発生させ筋肉を司る神経を刺激する方法です。2、30年は経っているであろう古そ〜うな機器でバチッと電流を流すだけなのですが、これがとにかくめちゃくちゃ効きました。
 服の上から当てるだけなのでとても簡単ですし、これといった副作用もありません。3〜5分くらい両足と腰に当てると、移動に車椅子が必要だった私が、なんと突然杖なしでスタスタ歩き出し、廊下で走ったり、終いにはスキップもできてしまいました。痛み? 全くありません!
 書いていて、そして知人に話していても「すっごく嘘くさいなー」と毎回思うのですが、本当の話です。何か怪しい催眠術にでもかかってしまったのではないかと疑いたくなりますが、施術前後の動画を撮っても効果は明らかで、とても「勘違い」「気のせい」というレベルではありませんでした。
 実際、一度簡易的なモーションキャプチャの手法で磁気刺激をやる前後の歩行能力スコアを算出していただいたのですが、歩行速度・足の振り上げ高さ・左右バランス・歩幅などの全ての項目で改善が見られました。
 先生が怪しい宗教をしている方でなくて本当に良かったなと思います。多分勧められたら入信してしまうと思います。笑 それくらい目覚ましい効果でした。

 原理としては、磁気で筋肉を司る感覚神経や運動神経を刺激することで、一時的に筋肉の緊張が取れて弛緩します。これで痛みが取れるということは、逆に言えば「(なんらかの原因で)筋肉の緊張が痛みを引き起こしている」ということになるわけです。
 磁気刺激の効果は残念ながら一時的なものでしかなく、今までの患者の中で一番はっきり大きな効果が現れたという私でさえ、3日が限度でした。つい昨日まで飛んだり跳ねたりできていたのに、今日は全く動けず寝たきり、という状態でした。

磁気刺激の可能性を探る

 ここまで大きな効果が出るなら、磁気刺激だけで治療することも可能かもしれない。手術をせずに治せるならその方が良いと、先生から検査としての磁気刺激で治療の可能性を調べてみたいという申し出があったとき、喜んで応じました。
 磁気刺激の前後で痛みがどれくらい変化したか、どんな症状の改善があったか、戻る時はどのような様子だったかなどを細かく記録し、報告しました。2日連続で刺激したり、低周波刺激(電気刺激)を組み合わせたり、いろいろ試しました。
 自分を使った実験のようで面白く、同時に自分の症状がどんどん改善していくのがはっきりわかったのでとても嬉しかったです。スタスタ歩けるようになったのはもちろんのこと、のぼれなかった家のマンションの階段を一人でのぼれたり、今までは考えられないほど遠くまで散歩しに行ったり。そしてなぜか味覚障害が完治したりしました。
 「かつての私に戻りつつある」という手応えを感じていました。

「切らない」治療の限界—大きな波の中で

 しかし1ヶ月ほど取り組んでみて、徐々に限界も感じていました。磁気刺激によって痛みが減少あるいは消失するのはせいぜい3日で、その後は痛みが戻ってきます。「痛くて歩けない」から「痛くても歩ける」になり活動の強度・範囲は大きく改善しましたが、やはり「痛い」ことには変わりなかったのです。
 2日連続で刺激することで効果の延長を狙いましたが、これは不発でした。頻繁に繰り返すことで徐々に効果が持続する日数が伸びていくのではないかとも期待されましたが、やはり数日で戻ってしまいます。
 磁気刺激が効くと言っても、先生は外科医で、毎週私の磁気刺激のために手間と時間を割くことは難しく、また私も遠方に頻繁に通うのは負担が大きすぎます。
 加えて磁気刺激は保険で個別に認められた項目がなく、疼痛治療の器具その他というとても低い点数に含めるほかありません。そのため病院の経営を考えても現実的ではないそうです(これは多くの手術をこなすベテランの脳外科医であることが災いした形でした)。

 誰か同様の治療をしてくれる先生を他に見つけて(ただしアテはない…)このまま磁気刺激や低周波刺激を地道に続け、外科的な手術を回避することにこだわるのか。
 それともやはり手術という道を選んで、早期に痛みをなくすことを目指すのか。

 今後の人生を左右する大きな大きな決断が迫られました。

やはり、切らない治療だけで痛みをなくすのは無理なのか——

 先生に言われるまでもなく、うっすらと感じていた限界でした。そして何より、今はどんどん回復してこのまま治っていきそうに感じていても、経験上この病には「波」があるから、どこかで頭打ちになって悪化する場面が来る、という直感がありました。
再び以前のように完全な寝たきりになった時、手術を希望しても痛みを取ることは難しくなっているかもしれません。発症からの年数は既に3年半。先生の勘ではギリギリのラインです。

 これが最初で最後のチャンスかもしれない。
 この長く続く痛みと苦しみがなくなってくれるなら、お腹を切るくらいどうってことはない。
 まずは普通の生活に戻りたい。
私の人生を、取り戻したい。

 私の心は、決まっていました。

手術の恐怖と、終わらない激痛の記憶

 開腹手術でポンプを埋め込むか、脊髄に電極を埋め込むかもしれないという手術の話をすると、決まってみなさん悲壮あるいは深刻な表情をしていました。手術をするかどうかは大変な選択である、傷跡が大きすぎる、若いあなたにはあまりに重い——などなど。私はそういった反応を少し不思議な気持ちで受け止めていました。
 お腹をズバッと切ってかなり大きな異物を埋め込み、ずっと一緒に生活する。何年かに一度はまた手術をして取り替えなければならない。常に病院に行って薬を補充してもらわないといけない。当然、手術自体にもリスクがあります。もしかしたら、やっても痛みが取れないかもしれません。これらの「手術に伴う負の側面」は誰もが想像しやすく、できれば勘弁したいものだと感じるからでしょう。

しかし私がそれら手術の負担や恐れと天秤にかけているものは、3年半もの間24時間365日ずっとずっと私を苦しめ続けてきた絶え間ない激痛と、それに伴う心の苦しみ、そして終わらない病に対する”疲れ”なのです。
 痛みや苦しみ、心の負担というものは目に見えません。口で説明することはできるし、相手も耳を傾け頷いてはくれますが、本当に激しい痛みで口も聞けないような場面は家族以外の人に見せることがありません。家族ですら、私が激痛で眠れなくても夜通し凝視しているわけではありません。誰かに会って話をしているのはむしろ”痛みの和らいでいる一瞬”を切り取った状態なのです。
 今回、改めてこの病を本当の意味で人に理解してもらうことは決してできないのだということを実感しました。もし手術と聞いて恐れを抱いた人たちも、私と同じ痛みを3年半ぶっ続けで経験したならば、きっと多少は考えが変わるだろうと思います。

体を何度も何度もズタズタに引き裂かれ続けるような激しい痛みの繰り返しで、いっそ殺してくれと言いたくなるような、しかし死ぬことさえできない日々の再来を免れることができるのなら、どんな手術だって怖くはありません。

 明日の手術が終わった後、私は手術をしたために新しく生まれた数々の課題と向き合っていく必要があるでしょう。それでも未来は以前よりも明るく輝いていると信じています
 私がこの選択でどんな人生を歩むことになるのか、見守ってくだされば幸いです。

それでは、行ってきます!


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