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「勝てない」と思った漫画の話

 今の私は漫画をあまり読まない。特定の漫画家や、たまに興味本位で手に取るぐらいで、年10冊も読めば良いほうだろうか。アニメのほうはサブスクリプションサービスにあるものをまとめて観たりするが、『カイジ』や『バキ』、『男塾』に『ジョジョ』など、いかにも男受けしそうなタイトルばかりが並ぶ。
 漫画を読まないことに特段のポリシーがあるわけでもなく、自然にそうなっていったというだけの話である。むしろ学生時代は漁るように読んでいた。高校1年の頃に地元にブックオフができて、そこで読んだ『ナニワ金融道』を皮切りに、年齢からすると若干「ませた」漫画を読むようになっていった。金融漫画の流れで『ミナミの帝王』、同じ原作者の流れで『白竜』、更に同じ「漫画ゴラク」に連載されていた流れで『食キング』…というように。ちなみに高校の修学旅行中、バス移動の暇つぶしで『食キング』を読んでいたら、同級生から「お前の読んでいるその漫画はなんだ」となり、にわかに『食キング』ブームが起こったのは懐かしい思い出である。

 大学に入ってからも漫画読みは続いた。その当時からグルメ漫画好きだったのだろう。当時『ビッグコミックスピリッツ』で連載中だった『美味しんぼ』も当然読んでいたし、『クッキングパパ』も漫画文庫でまとめられていたものを読んでいた。ちなみにドラマ化をきっかけに大ブームとなった『孤独のグルメ』も原作漫画で、2004-5年(大学2-3年生)の時点で読んでいる(当時ネット上で交流のあった、漫画編集の方に薦められたんだと思う)。自分で描こうとした時期もあるし、そもそも「美術」に触れ始めたきっかけはその流れで読んだ山口晃の『すゞしろ日記』だった。

 一方で同世代の『ドラゴンボール』や『スラムダンク』を読んでいなかったりするのだが、それでも十分に「マニア」と呼ばれる程度には読んでいたとは思う。

 そんな私は15年前、あるホームページにぶち当たっていた。それはアマチュアの漫画投稿サイトで(こういうのを読んでいる時点でかなりのマニア)、そこには小学生が描いた漫画が掲載されていた。中高生ぐらいが漫画投稿のサイトをやっていることはままあることだが、小学生がというのはかなり珍しい。

 あの頃の「りぼん」の影響を受けたかのような、キラキラした登場人物たちが同じ向きで会話をしているような内容。ページ数も8ページに満たないぐらい。そういう部分に注目するのなら、あえてこうして取り上げるほどのことでもないと思う。
 しかし、その漫画のストーリーが、当時の自分としては衝撃的だった。

「小学生の主人公が学校に通学し、学校で友達が出来た」

 という、それ以上でもそれ以下でもない、とんでもなく日常で、単純すぎるストーリー。主人公が学校に遅刻したとか、答えがわからず先生にお小言を言われたとか、そういう「ひねり」すらない。
 しかし漫画全体には「友達ができて嬉しい!」という気持ちが、漫画のページからはみ出んとばかりに溢れかえっている。きっとこれ、作者の実体験・実話じゃないかと思ってしまうぐらいに。

「どこまでまっすぐに描くんだ!」

 私はそう思った。実話だとしたら、相当嬉しかったんだろうなぁと。そして同時に、たぶんこれはプロの漫画家にはきっと描きえない作品だと思ってしまった。

 もちろん、百戦錬磨のプロが技術的にこの著者以上に上手に描くことはできるかもしれない。しかしそれは「料理屋の料理」、どこか「冷めた」作品に落ち着いてしまうような気がする。当時、福本伸行や「アックス」で『正義隊』という漫画を連載していた後藤友香のような、「熱量で描く漫画家」の存在を知っていたとはいえ、そんな彼ら以上に「初期衝動の魅力」というものを、この漫画で思い知らされたような気がした。

 それから15年が経つ。ストーリーの記憶も若干あやふやになってきてはいるが、あの時のインパクトは今でも忘れない。

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