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警視庁がFC2のクレカ決済中止を求めた要請の根拠法令を調べてみた。

スマホで遊べるVR風俗店 「X-Oasis」を経営しております、株式会社ファントムコミュニケーションズのKarinです。(自己紹介)

さて本日、警視庁がFC2のカード決済について、「VISA・Mastercard・JCBの3社に対して要請を行う形で」、FC2との間に入る取次業者に対して取引停止を促すよう求め、実際にその要請に応える形で取次業者がFC2との契約を解除したとのニュースがありました。

これは近年話題になっている、クレジットカード会社(私企業)からの表現規制とも密接に関わる問題です。

本来、あらゆる行政に関する権限などは、民主的な立法手続きのもと、すべて法定されているはず。では、行政である警視庁が関わっていた本件のクレジットカード会社各社に対する要請は、どの法律に基づいて行われたのでしょうか。

それを調べるため、「警察」を定義している法律を片っ端から読んでいきました。

本稿では、

  • 今回の警察の要請の根拠となった法令は何か

  • 朝日新聞の記事が、ことさらにFC2を「違法なわいせつ動画市場」と強調した理由の考察

  • 今回の要請を問題視する立場から、今回の要請に対してどういった批判ができるか

をざっくり調べた上で述べていきます。

※法律については素人の推論なので、参照箇所が違い、的はずれである可能性は大いにあります。コメントやTwitterなどで議論や意見交換の場とできれば嬉しいです。 

(11月25日追記)早速ツリーでご指摘頂いておりました部分を反映させました。対応が遅れて申し訳ございませんでした。

・はじめに

先述の通り、まずは警察の業務を定義している法律を探すところから始めました。

まず、参考サイトとして、警察庁が所管法令を列挙しているページがありましたので、こちらを参照しています。読むぞ~~~~!!

そこで気になった法律が、
「犯罪による収益の移転防止に関する法律」と「警察法」でした。

本稿では、この2つの法律について考察すると共に、本件要請がどのような要件のもと、どのような手続きを踏んで実施されたのかについて、まず推察してみます。

・「犯罪による収益の移転防止に関する法律」

この法律は、「犯罪による収益の移転防止」を主とした法律であり、「特定事業者」と定義される事業者に対して、様々な資金移動等に関する情報提供の要請や、行政からの強制力を伴った監督を可能にしています。

本件では、上記の「特定事業者へ、行政からの監督ができる」性質が、本FC2事案の「要請」をするために用いられたのではないかと推察しています。

では、その条件などを調べるため、さっそく条文を読み解いていきましょう。

・まず、「特定事業者」とは

特定事業者とは、本法律の第二条2項にて定義されています。
(「犯罪による収益」についても定義されてるけどほぼ言葉通り)
下記引用は読み飛ばしてOKなところです。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」
(定義)
第二条
2 この法律において「特定事業者」とは、次に掲げる者をいう。
(中略)
四十 それを提示し又は通知して、特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者(役務の提供の事業を営む者をいう。以下この号において同じ。)から有償で役務の提供を受けることができるカードその他の物又は番号、記号その他の符号(以下「クレジットカード等」という。)をこれにより商品若しくは権利を購入しようとする者又は役務の提供を受けようとする者(以下「利用者たる顧客」という。)に交付し又は付与し、当該利用者たる顧客が当該クレジットカード等を提示し又は通知して特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者から有償で役務の提供を受けたときは、当該販売業者又は役務提供事業者に当該商品若しくは権利の代金又は当該役務の対価に相当する額の金銭を直接に又は第三者を経由して交付するとともに、当該利用者たる顧客から、あらかじめ定められた時期までに当該代金若しくは当該対価の合計額の金銭を受領し、又はあらかじめ定められた時期ごとに当該合計額を基礎としてあらかじめ定められた方法により算定して得た額の金銭を受領する業務を行う者

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000022

(注:つまり、クレジットカード発行会社。Visa/Master/JCB)

すごくややこしいですが……
本法律によって、「クレジットカード発行会社」は、「特定事業者」として行政からの指導等を狙い撃ちで受ける立場にあることが明記されています。

・「特定事業者」に対する監督について

本法律では、「特定事業者」に対して、行政庁(注:警察を含む言葉)が直接監督をすることが認められています。

私は、おそらく本FC2事案における「要請」は、この監督に関する法律を利用して行われたのではないかと見ています。具体的な条文を見てみましょう。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」
第四章 監督

(是正命令)
第十八条 行政庁は、特定事業者がその業務に関して第四条第一項若しくは第二項(これらの規定を同条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)若しくは第四項、第六条、第七条、第八条第一項から第三項まで、第九条又は第十条の規定に違反していると認めるときは、当該特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000022

第十八条が別の条文との入れ子になっていてわかりにくいですが、事業者が「この法律で定義されている規定」に違反している場合、「当該特定事業者に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」という、強い強制力を持った規定です。

恐らく本件は、第八条1項の規定に違反しているため、第十八条が発動条件を満たしていると判断されたのではないでしょうか。
(なお、後述しますが、本FC2事案は第十八条による”命令”によるものではないと思われます。)

関係する第八条1項を下記に引きますが、読み飛ばしてもOKです。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」

(疑わしい取引の届出等)
第八条 特定事業者(第二条第二項第四十六号から第四十九号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000022

要は、「犯罪による収益っぽい取引があったときは、必ず行政庁に届け出てね」という条文です。

つまり、具体的事例で言うと、

  1. 「FC2からの売上=手数料としてその一部がクレジットカード会社の利益になっている財産が、”犯罪による収益”である疑いがあるのに、届け出を行政庁に行っていない(第八条)」と、警察が考えている

  2. その状態は違法なので、それを是正するために、行政庁(経済産業大臣)(警察)は、クレジットカード会社に対し、当該違反を是正するため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
    (【11月25日修正追記】「行政庁」は同法22条14項で規定されておりました。この場合は経済産業大臣になります。)

  3. 当該違反を是正するために必要な措置とは、FC2との間接的な契約を終了することである

という理屈で、警察から、各クレジットカード会社に「違反を是正するために必要な措置として」FC2との関係を断ち切るように命令を行うことは、法律上も可能なのではないかと考えられます。

一方で、ニュースソースである朝日新聞の記事では、「命令」等ではなく、「要請」という単語が使われています。

こちらの「要請」は、もしかすると、第一七条による、一段階やんわりとした監督行為である可能性があります。

(指導等)
第十七条 行政庁は、この法律に定める特定事業者による措置の適正かつ円滑な実施を確保するため必要があると認めるときは、特定事業者に対し、必要な指導、助言及び勧告をすることができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000022

つまり、第十八条における「命令」はやりすぎだと考えた場合、「いつでも第十八条の対象として命令することができる状態にある」ことを根拠として、第十七条に基づいて、「必要な指導、助言及び勧告」を行った可能性があるとも考えられます。

こちらの詳しい内容や、実務上の都合は私には推し量れませんが、朝日のニュースソースを元に考えると、第十八条における「命令」ではなかった可能性は大いにあると考えられます。
(行政からの”命令”を受けることは企業としての信用に関わることです。私達も何度かそういった履歴がないか取引先に聞かれたことがあります。実務上は、そういった記録に残らない「指導」がまず最初に行われるのではないかと予想しています。)

【修正追記】

是正命令の主体については、こちらのツイートでご指摘を頂きました。
ありがとうございます。

是正命令の主体が警察ではないとすると、朝日新聞のニュースではなぜ「警察」になってるんでしょうか……?

正直余計にわからなくなってきております。

【修正追記終わり】

こうなってくると、実は、朝日新聞の記事の書きぶりにも納得できる部分が出てきます。

・朝日新聞の記事が、ことさらにFC2を「違法なわいせつ動画市場」と強調した理由の考察

ここからはニュースソースの朝日新聞の記事を引用しながら、行政指導の内容について考察していきます。

>米国の動画視聴・販売サイト「FC2コンテンツマーケット」(FC2)で違法なわいせつ動画の売買が横行しているとして、警視庁がクレジットカード大手3社に対し、FC2でカード決済できなくするよう要請していたことがわかった。

https://www.asahi.com/articles/ASQCP4408QCPUTIL00R.html

そもそも、朝日新聞が報じた文面は、FC2というサイトに対する誤解を招くという点でミスリーディングな部分があります。正当な手続きを踏んでいるFC2上のアダルトコンテンツクリエイターにとっては、むず痒いところです。

正直、この記事を読んだアダルト市場に詳しくない方は、FC2が無法地帯であるという感想を持つと思います。事実そういった動画が氾濫していた経緯もありますが、昨年末頃から、本人確認等に厳しく対応するようになっており、「無法地帯」感はかなり減ってきている実感があります。

しかし、この記事においては、明確に「違法なわいせつ動画の売買が行われていたこと」「直近でわいせつ電磁的記録記録媒体陳列容疑の逮捕者が出たこと」を明記することがニュースとして必要だったのではないでしょうか。

それは、そもそも警視庁によるクレジットカード会社への「要請」が、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づいて行われている可能性が高いと読み取れるからです。これは記事の次の部分からも読み取れます。

>こうしたことを問題視した同庁は、「ジェーシービー」「ビザ」「マスターカード」の3社に全国の警察が検挙した事例や違法動画の売買実態を提示した上で、FC2の主な決済手段の一つであるカード決済を使えなくするよう要請。具体的には、FC2との間に入る取次業者に取引中止を促すよう3社に求めた。

https://www.asahi.com/articles/ASQCP4408QCPUTIL00R.html

>「全国の警察が検挙した事例や違法動画の売買実態を提示した上で」

https://www.asahi.com/articles/ASQCP4408QCPUTIL00R.html

つまり、これらの法令違反と、既に検挙されている法令違反動画による収益がFC2側にあったことを根拠にしなければ、今回の対応を警察経済産業大臣がすることはできなかったのではないでしょうか。

(私企業に対して、警察が取引相手等に干渉するような直接的な指導をできる条文が他にありましたら教えて頂きたいです。)(経済産業大臣が主体であれば割とあると思います。むしろ、今回のニュースリリースに警察の名前があったことが不思議という立場に。)

・今回の要請を問題視する立場から、今回の要請に対してどういった批判ができるか

私自身、女優・経営者として、VR空間上(いわゆるメタバース)での、アバターを使ったアダルト表現を追求する会社を運営しております。

メインサービスとして「VR風俗店X-Oasis」という、VR空間上のキャストがアバターを使い、お客様のスマホ・PCとビデオ通話を楽しむことができる、40分6000円~のビデオ通話ができるサービスを運営中です。

⇓はAbemaTVで取材された時の動画です!

その集客手段・販売先として、FC2動画を私達も利用しています。

コンテンツホルダーとして見ると、FC2はアバターを使ったアダルト表現に優しい、数少ないアダルトプラットフォームでした。
(ごく最近はゆるくなっていますが、PornhubやXvideosは、三次元アダルトのみしか掲載を受け付けてもらえない時期がありました)

そういった面から鑑みても、一部の不当な利用者に対する規制として、プラットフォーム全体に対して大幅に売上が下がるような施策を実施することは、一般的に法令を遵守する意思のある利用者の利益を害することとなり、この法律の手段は適切な範囲に対する規制とは言えないのではないかと感じています。

ここで、「行政庁」たる警察を統括している法律の「警察法」を見てみましょう。

「警察法」
(この法律の目的)
第一条 この法律は、警察官が警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。
2 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000162

なるほど!警察って「責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用する」ことはないんだ!安心!

それはともかく、この条文から、警察の仕事としての強制力は、「目的のため必要な最小の限度によって用いるべき」と解釈してもよいのではないかと考えています。

犯罪による収益の移転防止に関する法律 第十七条・第十八条は、規制の趣旨に対して必要な最小限度において用いられているとは言えず、不当な制約である……という趣旨で戦っていくのがいいのではないかと思いました。

私自身、しばらくこの方向で裏を取ったり、行政に対してやり取りをする方法を模索する予定です。

・さいごに

警察法によれば、警察の上には、それを指揮する存在として「国家公安委員会」という六名で構成された組織があります。

「警察法」
第二章 国家公安委員会

(設置及び組織)
第四条 内閣総理大臣の所轄の下に、国家公安委員会を置く。
 国家公安委員会は、委員長及び五人の委員をもつて組織する。
(任務及び所掌事務)
第五条 国家公安委員会は、国の公安に係る警察運営をつかさどり、警察教養、警察通信、情報技術の解析、犯罪鑑識、犯罪統計及び警察装備に関する事項を統轄し、並びに警察行政に関する調整を行うことにより、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持することを任務とする。
 前項に定めるもののほか、国家公安委員会は、同項の任務に関連する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000162

つまり、警察よりも上流の仕事をしている組織ですね。
国家公安委員会も、警察と同じく「不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。」のかな?

(警察の責務)
第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000162

もしかして:国家公安委員会は「警察」ではないのでそんなことない

まあ、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の17条・18条の主体は行政庁(警察)のはずだから、絶対に「不偏不党且つ公平中正を旨とし」てくれてるよね……

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」
(国家公安委員会の意見の陳述)
第十九条 国家公安委員会は、特定事業者がその業務に関して前条に規定する規定に違反していると認めるときは、行政庁(都道府県公安委員会を除く。以下この条において同じ。)に対し、当該特定事業者に対し前条の規定による命令を行うべき旨又は他の法令の規定により当該違反を理由として業務の停止その他の処分を行うことができる場合にあっては、当該特定事業者に対し当該処分を行うべき旨の意見を述べることができる。
 国家公安委員会は、前項の規定により意見を述べるため必要な限度において、特定事業者に対しその業務に関して報告若しくは資料の提出を求め、又は相当と認める都道府県警察に必要な調査を行うことを指示することができる。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」では、国家公安委員会が直接直轄の警察に「意見を述べる」ことができます。

もしも本FC2事案の「要請」が「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づいていた場合、国家公安委員会が意見を述べたことによって警察庁が動き出し、各クレジットカード会社に要請を出した可能性があると思っています。

以上

(警察関係の法律・運用にめちゃくちゃ詳しいわけではないので、事実誤認がございましたらTwitterなどにご連絡ください!修正の検討を致します)

文責
X-Oasis
Karin

協力:株式会社ファントムコミュニケーションズ 代表取締役
中丸 国生


バーチャルAV女優のKarinです。 「性別に囚われず好きな仕事のできる世界」を目指して、男性向けセックスワークをやっています。