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夢の構造・第五話「夢は現実を作ろうする」

 正夢は、記憶から消えていることも多いですが、ふと、
――ああ、これ、今朝の夢で見た。
 と、思い出すことも多いものです。思い出した時、夢で見たことが現実になっています。しかし、これは稀な現象です。
 多くの場合は、ふと、何かを考えた時、
——夢で見た。
 と思い込むことによって、記憶そのものが書き変わっているのです。記憶は、後からの情報で、内容が書き変わることが知られています。ほとんどすべての記憶は真実ではなく、思い込みによって再構成されているのです。
 また〈逆夢〉とは現実と反対のことを見る夢のことです。こちらも書き変わった記憶に過ぎません。しかし、どちらの夢の記憶も、常に書き変わりながら、未来そのものを作っているのです。
 たとえば試験に落ちた夢を見たとします。実際は試験に受かったと仮定します。この場合の〈逆夢〉は、試験に対する恐怖やストレスを抑える作用を持ちます。その結果としてストレスが少なくなり、試験に受かる未来を作ると言う訳です。

 さて、朝夢の中には〈夢枕に立つ〉と呼ばれる現象があります。
 これについては、

――よく朝夢に、夢枕に立つためし極めて多し。神仏などの霊的なものと接して見る夢などあり。これを夢枕に立つと伝う。

 とあり、

――俗に御神木、あるいは磐座いわくらと呼ばれるものの見せる夢あり。祠のたぐい、これも同じ。多くの土地の見せる夢もまたあり。

 と伝わっています。神仏などが夢枕に立って何かのお告げをしてゆくことがあります。多くの場合、温泉の位置とか、お金が儲かるようなことを言います。これらの夢を、きちんと見分けるには、現実の感覚を研ぎ澄ます必要があります。それには呼吸のコントロールが必要です。もし、夢の中で呼吸していないと感じたとしたら、それは夢の中であると言う意味です。常に呼吸を意識していると夢が夢だと自覚出来ます。この呼吸をコントロールする時、呼吸するする力そのものを〈呼吸力〉と呼びます。
 これについては、

――呼吸力によりて肉体の隅々にまで気が張り廻らされ、夢の中にて、その気を使い区別するなり。

 と伝わっています。
 実際には、肉体と感覚を呼吸によって鍛えることにより、夢の中で意識を持つことが出来るようになります。そのために、私は武術を学びました。しかし、武術でなくても同じような効果は得られるようです。長い息が出来て、コントロール出来れば良いのです。これはつまり、歌うような祝詞を唱え続けることによっても得られる力です。

 では、実際に、夢を見分けてどうするのかと言うと、

――悪しきことなら祓い清めて、良きことなれば楽しむべし。

 と伝わっています。
 もし悪夢で、しかも現実に悪い影響を与えるようなものを見たならば祓い清めます。しかし、良い夢ならば楽しめば良いのです。それには、夢を判断する必要があります。
 そして、結局、それらを、
――どう感じるか?
 と、どのような印象を現実世界に持って帰るかが重要なのです。夢を見分けて良いものだけを選ぶようにするのです。また、色々な夢の意味も、夢を見分けることによって判断出来るようになります。
 夢には様々な技法があります。
 たとえば、知っている人の夢と接触したら相手にメッセージを伝えることが出来ます。昔はこの方法で連絡を取り合いました。また、メッセージを伝えて来ることもあります。人は、知らず知らずの内に様々な接触を持ち、心のままに自分の未来や誰かの未来に影響を与えているのです。

 現実そのものと夢には境界線がありません。夢と現実は、おおむね同じものなのです。それを理解するには、現実をどう受け取って認識しているのかについて理解する必要があります。夢に見たことも、想像したことも、現実に体験したことも、脳の中には区別なく記憶されています。
 区別するのは、後になってのことで、
――これは夢の記憶だから。
 とか、
――こっちは現実に体験したこと。
 とか言ったラベルをつけて夢と現実を区別しています。
 しかし、時として、人は信じられない出来事や、矛盾を解決出来ない現実に出会った時、その記憶の多くを〈夢〉の方に分類する傾向があります。これと同じような構造で夢の方の記憶を現実と混同し、あたかも現実であるかのように記憶違いしてしまうこともあるのです。夢を現実に変えるには、この記憶違いを利用します。

 脳は、勘違いしていてもいなくても、現実だと思ったことに向かって無意識に行動を起こします。もし、現実の世界で体験したことを、夢だと思ってしまったら、それは記憶の片隅に追いやられ、やがて消える運命を持ちます。しかし、夢の方を現実だと勘違いしたとするならば、その記憶は現実を変更してまで辻褄を合わせようとするのです。この辻褄合わせが極端になった場合、虚言癖と言う厄介な病気を引き起こします。脳が正常に作用さえしていれば、このような状況に陥ることはありません。
 正常に脳が作用する時と、正常ではない場合との違いとは、いったい、どのようなことでしょう?
 正常な脳の状態で現実と区別のつかない夢を見たり妄想すると、それはあなたの未来の現実を変えるのです。
 一方、正常ではない状態で、現実と区別がつかない夢を見たり妄想すると、それはあなた自身の未来の性格に悪影響を及ぼして、やはり現実の変えようとします。その結果、まわりの人から批難されたり、不幸な出来事が起こって、
――悪いのは、まわりの人で自分ではない。
 と言う結論に陥りやすくなるのです。これは正常な状態ではありません。
 正常な状態の夢と、現実世界は、健康な食事と休息と適度な運動にあるのです。これらは、人としての基本的な部分です。ここが不健康になっては、夢の方も不健康になりがちです。お酒を多く飲んで内蔵が病み、記憶もなくなりやすい人は、やはり夢の方も狂う傾向が強いです。
 風邪をひいただけで、夢が断片的になることが昔から知られています。
 悪夢を見たからと言って無闇に怖れる人がいます。それは誤りです。悪夢に立ち向かいましょう。どうせ夢なのですから、どんなに怖ろしい物事に立ち向かっても損はしません。むしろ現実そのものを変えるチャンスが転がっているのです。

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