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夢の構造・第四話「夢の中で生まれる生霊」

 世の中は、さわらぬ神に祟りなしです。この〈さわる〉ことを漢字では〈障る〉と書きます。一般的な〈触る〉の方の漢字はここでは使いません。〈障る〉と言うのは、さわりがある行為を意味しています。
 障りがある行為とは、無作法や非礼な参り方をすることです。気付かずに神域に入っていて、適当に無礼を働くと障りがあります。ここで言う〈非礼〉とは、何かするのではなく、近づいただけでも〈非礼〉になりますので注意する必要があります。
 無礼になる場合は、結界霊符と呼ばれるもので神域を示している場合がほとんどです。山奥などの霊地へ行ったら注意する必要があります。
 饑神ひだるがみは、人々が信心をなくした祠に住む神です。普通の神は饑神にはなりません。
 人の心から信心がなくなると、祠が荒れます。雑草がぼうぼうと生えてゴミも散らかります。そのような祠に祀られた神は、本来の仕事である人を守ることが出来なくなります。そして、人を守る筈の霊的な存在が、害をなすものに変容して信心を求めるのです。その現象を〈饑神〉と呼びます。
 一度〈饑神〉になってしまうと、ほとんど、誰にも手がつけられません。われわれ祓いを専門にしている者は〈饑神〉ではなく生霊の方を祓うことが多いです。
 それについては、

——嫉妬心の強き者の放つ生霊は、やがて、まわりの様々な悪霊を取り込みて生霊いきすだまと変わる。この類、極めてあなどり難し。心して判断を誤らず命をかけて祓うべし。

 生霊は感情のコントロールが出来ない人の夢の中で生まれます。潜在意識の世界に生まれると言った方が分かりやすいかも知れません。ひとたび生まれた生霊は、次第に強い感情のエネルギーを得ながら成長します。やがて、夢から出て現実世界に〈幻覚〉として現れようとします。これが幻覚のままなら良いのですが、その内、影響された他の人も同じ幻覚を見るようになります。幻覚を共有するのです。そうなると、もう立派な霊現象を引き起こします。
 多くの霊現象は、他人と幻覚を共有することによってはじまります。ひとりの幻覚がふたりになり、やがてまわりを巻き込んで、多くの人たちが同じ幻覚を見るようになります。すると、幻覚は少しづつエネルギーを得て、実在しはじめるのです。
 生霊を侮ると、ひどい目に合います。生霊は自業自得の場合が多いため、なかなか祓うと言う訳にはなりません。
 それは祓いの規則の中に、

——自業自得の者は頼まれても祓うべきにあらず。

 と言う項目があるからです。自業自得や、助けてと言わない者は助けてはならない規則になっています。
 また、生霊は特に女性に付くことがあります。

——の子に憑依とりつくは、蛇のたぐい多し。あるいは狐、あるいは饑神のたぐい多し。

 とあるくらいです。これらの理由は、生きる力が特に男性に比べて強いからです。その強い力を求めてやって来ると言う訳です。

 さて、もう少し夢のことですが、伝承に、

——自分の過去へ、あるいは未来へ行き、自分の現実や夢に接する時、見る夢あり。

 と言う伝えがあます。

——これらは現実うつつのごとし。

 とも伝えています。
 この言葉は、現実と夢の区別がつかない状態を意味しています。夢の世界には、時間軸の概念がありません。過去の出来事も未来も一緒くたに見てしまうのです。時々、未来の出来事を見て思い出すことを〈未来の思い出〉と呼びます。過去ではないことを過去形で表現するのは奇妙ですね。その未来の出来事を思い出すこともあります。

 他人の夢に入ったり、自分の夢に入られたりすることもあります。夢の世界は奇妙な世界です。夢の世界自体は、集合的無意識の世界ですので、他の人の心と接触することがあります。
 それについては、

——こちらが他の者の過去へ、あるいは未来へ行き、その者の現実や夢に接する時に見る夢あり。

 と伝えられていて、呪いの類いはこれが多いです。恋を実現しようとする時、知らず知らずの内に相手の夢や未来の現実に入り、人によってはかえって不快な印象を与えてしまい、失恋することがあります。これは、何も考えずに他人の夢に入ることで呪いになってしまうからです。
 それから、

——生きている他の者が、こちらの現実や夢に接触する時に見る夢も、またあり。

 夢の中で、現実に存在している他人と接触すると、奇妙な感覚が発生します。それは振動する二種類の映像が重なり合って、互いに不安定な振動を感じるような感覚となります。もし、他人が入ってきたと思う時は、手を延ばして空間に触ってください。ただし、怖ろしいと感じることが多いので、怖ければ触らないでください。

——すでに死にたる過去の者が、こちらを呼ぶ、あるいはこちらから、その者の夢に入る時、見る夢あり。

 と言うような怖ろしい夢まであります。
 話は変わりますが、朝夢は当たるのでしょうか?
 人が朝方に見る夢を〈朝夢〉と呼びます。そのまま当たる〈正夢〉と、内容が逆さになる〈逆夢〉とがあります。
 これについては、

——朝方見る夢には、正夢と逆夢のある。とするが、これは夢合わせ、または夢判じ、または、夢解きの時に使うものなり。朝方に多く見る故、朝夢とも伝うが、目覚める時が朝である故、朝夢と呼ぶ。目覚める時に、その日の行いや動きを決める夢を見るは、それは正夢となる。逆夢と言うは、現実うつしよとは反対の物事を見るものなるが、それによりて現実を改善すべき心の働きあり。

 と少し長くなりました。
 朝方に見る夢の〈朝夢〉には、正夢と逆夢があります。これらは、〈夢合わせ〉や〈夢判じ〉、〈夢解き〉と呼ばれる夢判断に使うものです。
 朝方に見るので〈朝夢〉と呼ばれます。目覚める時に、その日に行うことや、何かを決定する為のヒントとなる夢を見たとしたら、それは〈正夢〉と呼ばれます。続く。

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