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祈りのカタログ・第十八話「針聞書の蟲たちのこと」

 最近、『針聞書はりききがき』や『蟲の知らせ』のことを尋ねられたので、蟲のついでにそのことなどを書きます。この『針聞書』と呼ばれる本は古くから伝説となっていた本でした。
——本物があるなんて、まさか?
 と思っていたくらいです。それが発見されたと言うことで、何度か太宰府の博物館まで見に行ったことがありました。この本は蟲たちの本です。目に見えない蟲たちの絵が、たくさん描いてあります。
 元々は長い巻物で戦国時代に薄暗い洞窟の中で発見されたそうです。蝋燭ろうそくの炎の中で浮かび上がる蟲たちの絵は、かなり不気味だったと思います。どんな蟲が描いてあるかと言うと、それは体内に巣くう蟲たちの絵です。
 人の心の中に生まれる、たとえば〈臆病の蟲〉とか〈癇癪かんしゃくの蟲〉と言った形のない蟲たちから、病気を引き起こす蟲たちのことについてまで色々と描かれています。そして、その対処方法までも描かれた本です。
 元々は巻物でした。それを書き写した過程で一枚描き忘れ、その分が最後のページにまわされていました。オリジナルの巻物がどこへ行ったのかは不明です。しかし、この本が残ったおかげで、目に見えない蟲たちのことが、少し分かるようになりました。
 この本は、
「他のどの解釈とも違っていて、日本道教の影響を強く受けている」
 と解説にありました。戦国時代の〈日本道教〉と言うのは〈陰陽道〉のことを意味しています。そして、その本が元になって、日本独自の〈鍼灸の技法〉が発達しました。
 鍼灸は中国からもたらされた技術です。しかし、わが国で独自に発達したのを〈和針〉と呼びます。この〈和針〉は『針聞書』によって伝わった技法なのです。それらの技法は、人の体内の蟲たちをイメージして実体化した後、退治すると言うものです。中国から来た〈気功〉の技法と言うよりも、神道の御神体の作り方の技法にあたるものです。
 中国の気功の技法は、どちらかと言うと、
「自分の気を、どうこうする」
 と言う技法ですので、多くの場合、その技を使う人が短命になりがちです。

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