見出し画像

夢の構造・第三話「夢の種類」

 夢には、ただの夢と、ただならぬ夢とがあります。夢の多くはただの夢です。このただの夢と言うのは、たとえば、電車に乗っている夢とか……たとえば大量の物体が登場するとか……知っている人達といつもと同じような日常のシーンを見ているとか言った夢の場合のことです。これらの夢は〈記憶の整理〉と呼ばれる種類の夢です。
 ここで言う〈記憶の整理〉とは、起きている時に見た物事や聞いた物事を、眠りの世界で整理している現象です。人によって傾向は違いがあります。基本的には大量の物体を見る夢が多いです。電車に乗る夢を見るのは車窓から見る景色が大量の物体だからです。また、デパートなどの売り場にいて、ショッピングしているような夢を見る人がいます。これもやはり大量の商品と言う〈物体〉を見ている夢です。日常生活のシーンを見る時も、なぜか室内に大量の物体を見る場合が多いです。
 これらの夢が、実は夢の世界のほとんどを占めています。しかし、記憶に残っていないことが多いため、
「夢は見たことがない」
 と言う印象を作り出すのです。
 しかし、よくよく尋ねてみると、
「確かに、無意味な夢を見ていました」
 と言っては、この種の大量の物体を見ていたことを思い出すのです。

 これら〈記憶の整理〉と呼ばれる夢は、脳の機能のひとつで誰でも見ています。
 これらの夢のことで、
「その夢に、どのような意味があるのか?」
 と尋ねられると、
「日常の状態を整理し、記憶を最適化する為の、脳の機能のひとつです」
 と答えています。無意味な夢ではありませんが、期待するほど大きな意味もありません。
〈記憶の整理〉以外で、ただの夢に属するものは、伝承にあります。

――心の思うままに見る夢あり。例えば欲望などを見る。性的な夢などを見る。このたぐい、極めて多し。

 空腹になったので見る夢とか、トイレに行きたくなったのでその夢を見ると言うものがかなり多いです。
 しかし、このような夢の場合、
「空腹なのに、食べることが出来ない」
 とか、
「行きたいのに、トイレが機能しておらず、また、行くことも出来ない」
 と言う場合も多いです。
 これらは、
「生理的な欲求が満たされないため目が覚める」
 と言った現象なのです。
 大きな音がして驚いた時にも、同じような夢を見ます。目が覚めると、大きな音の記憶より、奇妙な夢の方の記憶が鮮明に残るため、
「不思議な夢を見たなぁ」
 としか思えないのです。

 夢は、なにも〈記憶の整理〉や〈生理的欲求〉を見るものばかりではありません。
 それ以外の夢で多い夢は、伝承に、

――次に多しは 夢殿と呼ぶ夢の集まる場所へ行き、そこで見る夢なり。

 と伝わっています。
 夢殿は、夢の集まる場所の総称です。これは夢の世界の奥にあります。
 夢の世界は、人の集合的な無意識の世界です。人の心は、この集合的無意識の世界でつながっています。そして、そのつながった世界の奥にある場所のことを、昔の人たちは〈夢殿〉と呼んでいたのです。しかしこの〈夢殿〉は物理的な場所を意味してはいません。あくまでも〈夢の世界の奥深く〉と言う意味にすぎないのです。

 夢の中には不思議なものもあります。霊的なモノが影響して見る夢です。こちらは〈ただならぬ夢〉に属します。
 これには、

――また 性を異にするモノの見せる夢あり
その多くは、の子に付く女の気の見せる夢なり。人の心を夢の中に捕らえ、とりことする。これをして夢中と呼ぶ。

 と言う伝えがあります。
 人の心を捕らえて虜にすることを〈夢中〉と呼ぶそうです。この〈夢中〉については、

――夢中は、人として我を忘れ生きる気をもらす。多くは全身に汗がふきだし気という気は 汗とともに抜けるなり。やがて数日をして、衰弱し死に至る。

 と伝わっています。
 これらは、いわゆる〈魔物〉の一種です。また〈亡霊の祟り〉とか〈呪い〉と言う呼び方もされます。夢中に取り付かれると、全身から汗が吹き出して数日で死亡ぬそうです。
 時々、
「恐ろしいものを見た」
 と言っては衰弱して、数日で亡くなる人の噂を聞きます。これらは〈夢中〉のように、夢の中で気を吸われ衰弱して行く現象です。しかし、これらの現象は極めて稀なことですので怖れることはありません。
 夢で気を吸う種類のものでも、また、霊的なものが人の気を吸う場合も、

――夢にて人の生気を吸う類あるは、息を吸うなり。人にとりつきて、その者の息を吸うが、これがすべてではない。

 と伝わっています。
 すべての霊的なものが人の気を吸う時は吐く息を吸うのです。
 そのことから、
「目の前に幽霊が来たら、息を止めて、気を吸われないようにする」
 と言った俗信が生まれるのです。これが、真実なのか、俗信なのか、幽霊に気を吸われたことかないため試したことはありません。

 霊的なもののついでに、悪夢を見せる霊的なものについての伝承に、

――生霊いきすだま死霊しにすだま、あるいはきつねたぐい、極めて多し。時には、饑神ひだるがみもあり。いずれにしてものろい、あるいは、たたりのたぐいであるが故、必ず、いずれかにその原因ちなみあり。

 と、言うものがあります。
 この生霊と言うのは、古くは〈いきすだま〉と呼ばれていました。生きている人の霊である〈念の力〉が、人に悪夢を見せる現象のことです。また、死霊は、古くは〈しにすだま〉と呼ばれていました。こちらの方は、亡霊の類が人に悪夢を見せる現象です。そして、饑神ひだるがみと呼ばれる最大の悪夢の原因は、

——さわらぬ神にたたりなし。

 と言う言葉が伝えるように、さわることで祟る神です。続く。

  *  *  *


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?