御伽怪談第一集・第二話「化け猫の報恩」
一
時は江戸時代。天明年間(1782)の五月初旬のことであった。
大阪の農人橋に、河内屋惣兵衛と言う傘を扱う商人が大きな店を構えていた。当時、大阪でも農人橋は奇妙な出来事の多い土地として知られていた。
惣兵衛にはひとり娘がいた。名をお糸と言う。この娘は容姿も美しく、父母の寵愛はもちろんのこと、まわりからも、
——糸はん、糸はん。
と呼ばれ愛されていた。幼い頃から誰かれとなく可愛がられていたが、年頃になってからは〈農人小町〉と呼ばれ、知らぬ者とていないほど知られ