私のオススメ積読書
おうち時間が増えて「積読」の消化作業が進んでいると聞きました。私からお勧めしたい一冊があるので、ここでぜひ紹介させてください!
著者の30年以上に及ぶ精神科医としての臨床経験を基に、脳科学的な見地からトラウマメカニズムの解明と克服法について記しており、私のメンタルヘルス理解への第一歩となったとても貴重な本です。
ここに書かれている様々な患者のケースは多くの人にとってあまり身近ではないかもしれませんが、彼らの身体に起きている変化とその理由を理解すると、自身の日常の思考や行動も同じ仕組みから発生した身体プロセスの結果であることがわかると思います。
さらにこの本の素晴らしいところは、以下のような点にあると感じます。
1.著者のプロフェッショナリズムに触れられる点
・時代によっては忌避されたであろう精神疾患というテーマに生涯向き合い続けていること
・既存の定説や手法にとらわれず、自らの臨床経験を基に積極的に新たなソリューションを見出していること
2.心と身体に関する新たな発見を見い出せる点
・「心」は脳の反応と呼ぶべきであること
・脳は身体の各部分と密接に関わり合っていること
・上記の点から抽象的に感じられる「心」を具体的な存在として理解できること
・つまり具体的な行動によって心の回復は可能であり、その評価も定量的に可能であること
・生物(特に人間)の身体は生きるために非常に高度な防衛・自己回復機能を持ち合わせていること
人間は自身でコントロールできないことに対して恐怖や不快感を抱きます。再びコントロール可能な状態にするには変化が必要であり、変化には大きなエネルギーを必要とするからです。
今であれば、新型コロナに対して有効な対処手立てがないこと、経済活動の鈍化によって金銭的な目途が立ちづらくなっていること、自由に外出できないことなど様々な不確定要素・コントロール不能要因が重なっています。
こういった状況下でなぜDVが増えるのでしょうか?
この本の中でトラウマサバイバーの視点からいくつも描かれている「脅威の対象の勘違いと過剰防衛」を、DVをする人に当てはめて考えてみたいと思います。
人間は脅威から身を守るとき「闘争逃走(凍結)反応」を引き起こします。アドレナリンを出して脅威の対象と対峙するか、その場から全力で逃げるか、或いは感覚や思考を閉ざして固まるかという反応です。
ここで脳が闘うことを選択したとき、目の前の人を仮想敵と勘違いして手をあげてしまう、それが要因なのではないかと思います。
このような反応が出るとき理性は無視されてしまうわけですが、理性とは社会性を保つために必要な規範であり、各集団がプラスαで身につけた能力になります。つまり個体が最低限生き延びることを命題としたとき、優先順位が下げられてしまうものでもあるのです。
もし上記の仮説が正しければ、行為を停止するために有効なのは、理性を説くことよりもコントロールできるものを増やしたりそれらに気づくことです。
DVのような深刻で既に顕在化してしまっている状況でない限り、それを実践するために難しいお題を設定する必要はないと思います。むしろコントロール行動とフィードバックの確実性・即時性を大事にして日頃から習慣化した方が、いざというとき脳の勘違いを引き起こすリスクを減らせるのではないかと思います。
例えば笑顔を作ろうと思ったら、口角を上げて目尻を下げてみますよね。笑っている自分を鏡で確認する。それだけでも良いと思います。
私自身の経験なのですが、以前サンフランシスコに住んでいたとき、自分の部屋に鏡がありませんでした。窓が小さい部屋だったので閉塞感があり、急いで30cm四方のフレームも何もない鏡をAmazonで注文しました。それをガムテープで壁に貼っただけなのですが、場所が出入口横だったので、必ず鏡を通して毎日複数回、自分の顔を見ることになりました。
これはメンタルヘルスにとても良い習慣だったと思います。(自分の顔の好き嫌いに関わらず)私はここにいて、自由に感情を表現できると感じたからです。またこれを繰り返していると、コントロールできるのは自分だけという当たり前のことに気づくこともできたように思います。
本の中で根幹となっている考えは、人間に働く原始的な防衛・自己回復機能が生理的反応を引き起こしているという点です。
このことを知っておくだけでも、理解や許しや別の選択肢を選ぶことができるようになり、穏やかに過ごせるようになるのではないかと思います。
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