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【小説】REVEALS #8

善意とヒロイズムの交差点

「やあ、望月礼司くんと、春日井大我くんだったね。今日はわざわざ来てくれてありがとう。」

オレ達の目の前に北川天馬が現れた。握手を求められたので、いぶかしく思いながら応じた。向こうは優しい目つきだが、視線を外すことなくこちらを見ていた。こちらも目を逸らせない。

「君たちは、現象の秘密に気付いたんだね。」

「はい。偶然ではありましたけど。」

次の瞬間、彼は空気の密度を上げて言い放った。

「間違っても種明かしなんてしないでくれよ。色々なものが見えすぎて、夢が見られない世の中なんだ。マジックくらい夢を見てもいいじゃないか。そう思わないか?」

「それに遅かれ早かれ、また君たちみたいなのが現れるんだ。この現象の寿命を短くしたくなければ、使えなくなるまで大事に使わないとね。もったいないよ。」

間違ったことは言っていないが、オレには「保身のためバラさないで」という言葉にしか聞こえなかった。しかし、タイガはオレとは違うように受け取ったようだ。

「はい!そうですよね!今の言葉、感動しました。天馬さんは今の時代のヒーローになろうとしているんですね。」

「そんな風に受け取ってくれるならうれしいかな。これからも一緒に頑張ろうね。」

なんとなく違和感を感じた。夢を見てもいいじゃないかとという言葉から、北川天馬を勝手に夢を引き受けるヒーローに仕立てあげようとしている。
今気づいた。この2人は似ているところがあるのだ。
人を信じさせる力と、人の心を操る力だ。

北川天馬が欲しているのは、マジシャンとしての地位や名誉なのだろうと思う。心の操作をパフォーマンスに使っているだけなように思えた。そんなに人を騙そうという思があるようには感じなかったからだ。

これはその後に北川天馬から聞いた話なのだが、彼は元々県内の有名繁華街のホストだったそうだ。

コロナで仕事が無くなり、当面再会の目途が立たなくなったことで、昔からの夢だったマジシャンへの一歩を踏み出したんだそうだ。
あの見た目や、雰囲気、人の心に入り込むテクニックはホスト時代の経験から来ていたようだ。
自分はホストという職業を蔑視していたところがあったが、彼の芯の部分に少し触れて、夜の街の人が嫌な人ばかりではないんだなと思えた。

それに対して、タイガは真剣に善意を振りかざす。
他人のために何かをしたいと真剣に思っている強い善意がある半面、他人を助けなければいけない存在として若干見下しいているところがある。
それゆえ人の心の隙につけ込むことができるし、たらし込むのが上手い。
恐らく、善意を押し通すために必要な力を得たいと思っていて、それがマジックだろうが嘘だろうが何でも良いのだ。この対決の結果がどちらに転んでも、この二人は強かにこのイベントを自分たちのやりたいことのために利用するのだろう。大我が俺たちをボランティア活動に動員したように。そんな気がした。

「前の仕事も夢を売る仕事だったから、期待を裏切ることは自分にとっても危険だし、誰も望んでいないと思うんだ。」

どうして本番前にこんなことを話すんだろうと不思議に思った。

「ただ、その分その期待を一生背負うくらいの責任は持ってないといけないと思うよ。」

これは後から思ったことだけれども、天馬はも自分が負けてしまったときのことを考えていたのだろう。

これから北川天馬がオレ達と戦うために作った新しいショーが始まる。
彼が何を思っているのか、何を考えてきたのかを見られるかもしれない。それはオレたちに勝つことを考えてきたのか、新しいファンを増やすための演出を考えてきたのか、それとも本当に夢を背負うつもりでいるのか。
それは、これから行われる北川天馬の演技を見ればわかるような気がした。


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