ゆるみ、ほころぶ。
小さなころ、母のお達しにより、おやつの時間は決まった時間、市販のお菓子は最小限。
手作り至上主義。
なので、日常的に出る飲み物は、ほぼ麦茶。
甘いジュースは、おじいちゃんおばあちゃんが買ってくれるもの。
私の幼い頃の世界には、普段は甘い飲み物が存在していなかった。
おとなの飲み物は苦くて当たり前、こどもの飲み物も甘くないのは当たり前。
甘いコーヒー牛乳の存在も知らずに成長していた。
学生になり、自分で飲み物を選ぶようになり。
はじめて午後の紅茶を飲んだ時の衝撃。
紅茶は、顔をしかめて飲む飲み物だったのではないのか!
たったひとくちで、知らなかった世界が開け、私は、これを飲んでもいいんだ!という、自分に対しての開放感。
ほんのり甘く、すっきり体に染み込み。
こういう飲み物があるなら、早く教えてほしかった!と心の中で叫んだのを覚えている。
小さい頃の教えは、身体の根本に残るもので。
いまでも普段は、甘い飲み物はとらない私は、お茶以外で買うのは午後の紅茶。
午後の紅茶は、私の味方ながするからだ。
大慌てで過ぎていく毎日、午後の紅茶を飲むたびに心をほころばせている。
それは、はじめて飲んだ時と変わらない、心のゆるみ。
母になった今、手作り至上主義では決してないが、母のおかげで、手作りの良さは知っている。
こどもたちに楽しく食べてほしい、という『お母さん』の思いから始まった、私のクッキーづくり。
母が手作り派でなかったら、私はクッキー屋を目指してはいなかったかもしれない。
手作りのものも食べてほしいけど、自分で美味しいと思ったものは否定せずに、大事にしてほしいと思う。
私が午後の紅茶と出会い、ちょっとだけ、特別な瞬間を手に入れたように。