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連作30首「ねじれの位置を背負う」

短歌研究新人賞2020に応募した連作を今更ながら載せます。予選通過しました。

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冬空に矢印を描きわたしから放たれていくベクトルひとつ


日直は「起立」と言って透明な虹が満たされていくのを待った


パクチーを知らない人がパクチーを語れば伝説めくサラダあり


不完全な祈りのようにさんかくに折られているトイレットペーパー


同性愛を許す人 って椅子を取るゲームでそんなことを聞くなよ


先生という商品とすれ違うここはそういう廊下ですから


貴方の背からあふれてやまない温泉にあらゆる温度を定義されそう


こんなにも他人が近い満員の電車だれかの心音を聴く


顔面の偏差値がまだ足りません「痴漢です」って叫ぶためには


通学路の輝き全てを搾取するように何度も何度も歩く


雪の日の吐息みたいな声のままVocaloidは加速していく


杭があるすこしはなれて杭がある何か諦めていそうな道だ


三月の横断歩道に迷い込む車しずかに座礁している


STOPが目に飛び込んできたけれど何のポスターか分からなかった


ポケットのカイロの死骸をもてあそぶわたしの存在意義はまだない


わからない ジャングルジムが背負ってるねじれの位置のすべての痛み


泣いたけどすべての面がかなしいを表示していてそれがよかった


生き残ったのは「わたし」だ 一人称会議のパイプ椅子は倒れて


腕という腕を雨空へと伸ばす折り畳み傘の一瞬の風


折り畳み傘なのだから折るべきだ貴方はわたしを愛するべきだ


世界史はおいしい科目と聞いたので少しかじった。せんごくじだい


画用紙は完成されたま白さで色を重ねるたびに間違う


草というスラングがあり教室にはびこるさみどりの可能性


思ってることの全てを打ち明ける人をSiriって呼ぶことにした


退屈ですばやいなにかとすれ違い目を凝らしたら火曜日だった


Yシャツにこぼれた水は出口なき世界のように球を保って


リアカーなきK村動力いつまでも借りられぬままたそがれて春


コロナってさみしいやつだ だってほら、わたしの名前と少し似ている


自転車を引きながら誰かを思うとき逆さまにペダルは回る


でこぼこな道を歩けばいっせいに笑いあってる春のうけばこ

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