禁煙は健康的だけど・・・
このところ、企業による禁煙推進の話をよく見聞きします。
禁煙自体は健康的な事だと思いますし、私は元々タバコを吸わないので禁煙がルール化された所で自分自身には何ら影響はありません。
ただ、なぜ本来個人の趣味嗜好であるはずの喫煙を企業が制限しようとするのか?
そこを紐解いていくと私のような非喫煙者にも影響が有りそうだと思えたので、今日はそういう話をしようと思います。
1・なんで禁煙させたがるの?
まず具体例を出してお話しましょう。
以下は現在ある企業で行われている禁煙ルールを箇条書きにしたものです。
1・仕事中は吸わない(就業時間内の禁煙)
2・顧客用の喫煙所で吸わない(敷地内禁煙)
3・近隣の喫煙所(公園・コンビニ等)で吸わない(喫煙マナー)
4・歩きタバコ等、灰皿の無い場所で吸わない(喫煙マナー)
5・違反者は懲戒処分とする
パッと見た感じ、もう自宅以外のあらゆる場所で吸えなさそうですね。
愛煙家の方にはかなり厳しいルールが敷かれたように思いますが、何故このような施策を講じるのでしょうか。
おそらくは、次の3点のような理由があると推測されます。
A・企業イメージの低下防止
振り返って見れば約30年前、私の幼少期には
『成人男性であればタバコを吸っている方が当たり前』
というような風潮がありました。
歩きタバコをしている人はそこら中に居ましたし、オフィス中を煙でもくもくにしていても文句は出ない。
禁煙はお医者さんに宣告された人がするもの、くらいの環境です。
しかし時は流れて現代。
日本人の健康意識は高まり、タバコの害は周知され、愛煙家のイメージそのものが当時と比べてかなり悪化している状態です。
となると人を雇っている企業としては、イメージの悪化する行動を従業員にとって欲しくはないですよね。
特に顧客と直接触れ合う機会が多い接客・サービスの分野であれば、尚更です。
上記のルールも要約すれば
「とにかく人に見える所で吸うな」
と言っているように見えますので、おそらくそういう事だと思います。
B・業務時間内の不公平感(タバコ休憩)の是正
また企業イメージの他にも、このところかなり問題視されているものの1つに
『タバコ休憩』
という物があります。
『就業時間中に定められた本来の休憩時間とは別に、タバコを吸うために5~10分勝手に休んでしまう』
これを就業時間中に何度も繰り返してしまう事から、非喫煙者(タバコ休憩を取らない人)との間に不公平が生じてしまうわけですね。
前述の通り大部分の従業員が喫煙者だった時代なら、大部分の従業員がタバコ休憩を取るため不公平感が生まれにくい…
と言うか、取る側の勢力が強すぎて問題化できなかったのだと思います。
環境は変わり、喫煙者と非喫煙者のパワーバランスも大きく変わりました。
浮き彫りになった不公平感に対応しなければ、従業員の働くモチベーションを維持する事は困難になります。
その対抗策として、喫煙=タバコ休憩の消滅という施策を講じるのは不自然な事とは言えないかもしれません。
C・健康増進(余分なコストのカット)
これは喫煙に限った話ではありませんが、従業員が病気になったりすると多くの場合、会社でかけている保険や共済が使われる事になります。
また治療費だけでなく本人の出勤が困難な場合には、抜けたポジションを埋めるための人的なコスト(就業環境の悪化)も発生します。
好きで病気になる人は居ませんが、会社組織としてもこれを避けたいのは間違いの無いところですね。
そのためのリスクになり得る喫煙を禁止する。
というのは、これもまた不自然な話ではないと思います。
ただこのABCを踏まえた上で1つ、個人的に疑問に思う事があります。
それは、全面禁煙という結果に行き着くための『手段』です。
2・厳罰化してどやしつければOK?
上記のルールもそうなのですが、『従業員がタバコを吸わない』という結果に行き着くために何をどうするのか。
私は以前こんなTweetをしています。
タバコ(ニコチン)には元来依存性が有るため、習慣的にタバコを吸う人は大なり小なりタバコ(ニコチン)依存の状態にあると言えるはずです。
特に問題となっているタバコ休憩をちょこちょこ取りたくなる人などは、比較的重度の依存状態ではないでしょうか。
つまり現実的に言えば、禁煙=ニコチン依存からの脱出になるわけです。
依存症からの回復。
これに必要なピースは、果たして懲戒・罰則でしょうか?
「今日からもう吸わないで」と言われて
「ハイわかりました」で止められる程度の依存状態なら、それで成立するかもしれません。
では“吸わないとイライラそわそわして、どうしようもなくなる人”は?
禁煙外来に通う、あるいは薬剤師さんに相談の上ニコチンパッチ等を使う、といった治療的なアプローチが欠かせないのではないでしょうか。
気合や我慢で依存症は治らないのですから。
しかしそのための費用が完全に自費となると、これは腰が重くなります。
自発的に決心して禁煙に乗り出すのならまだしも、業務命令という強制なわけですから。
内発的な動機が無い以上
「禁煙するのは嫌」
で且つ
「懲罰を受けるのも嫌」。
嫌な事と嫌な事の間で板挟みになる
「回避回避コンフリクト(葛藤)」ですね。
この状態に陥った人がどうするかと言うと、おそらく大部分が…
「どちらも実現しないよう行動する(隠れて吸う)」を選択するでしょう。
実際このルールを敷いた企業では、“隠れて吸う人”と“禁煙推進部への密告”のサイクルが発生していました。
それを受けて推進部の取った対応は
「懲戒案件だと理解してください!」という、より強い文言での通達。
おそらく未来においても禁煙は進まず、「誰がチクりやがったんだ」という新たな分断要因が環境を悪化させるでしょう。
懲戒案件だと理解していないわけではないのです。
理解はしているけれど、動機が全く無いし吸わないと辛いから吸うんです。
本当に必要なのは「禁煙してみようかな」と思える環境の構築ではないでしょうか?
例えば禁煙外来へ通う費用の補助。
あるいは禁煙する事のメリット(タバコ費用の消滅・ドーパミンの過剰分泌から離れるため日常の幸福感が増す等)を理解するための教育。
こうした費用面・労力面でのコストをかけてこそ、会社が本気で全面禁煙に取り組もうとしている事が労働者に伝わるのだと、私は思います。
北風と太陽ではありませんが「止めないとぶっ飛ばすぞコラァ!」では
出来る事もやりたくなくなるのが人間です。
健康増進は素晴らしい事ですが、アプローチの方法はもうちょっと考えた方がいいなと思ったケースのお話でした。
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