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未映子がすごいのよ

『夏物語』を読み終えた。
もうすっかり骨抜き。
最近だと乗代先生とか宇佐美りんさんの文字列を見るたびきゅんとして、廊下の窓から好きな先輩を見つけてきゅんとするあれみたいに骨までドキドキしてってくらいに未映子先生がまた大好きになったわけです。
感想はブクログに書こうとしているんだけれど、気づくと暴走して好き好き好き好き言ってるだけになってしまうので、今ちょっと俺たち距離を置こうって言った。お互い冷静になろうって。まあ興奮して手が付けられなくなってるのはわたしだけなんだが。


私事だが、まだ物語を書く夢を捨てきれず、もうすでに「ものがたり」の「のがたり」は地の底に落ちてって、今は「も」のフックみたいになってるところに何とかしがみついてる、でもさー、そのしがみついてるのってのは今やちょっとファッション感もあるんじゃねえの? ってくらいに生活全部を賭けられていないんだけれど、今回も未映子が素晴らしい物語でわたしの体を撃ち抜いてきたので、いよいよフックにかけていた足も落とされました。
もう立ち直れない。勝手に傷ついている。
戦わずして灰。
物書き志望の皆さんは、すんげえ刺さる物語に出会ったときどんな風に立ち直ってまた筆を取って、いやもう筆じゃないか、キーボード叩きに戻ってるの?

『ヘヴン』のときもそうだったけれど、大好きな文章や世界に出会うとそう簡単には動けなくなってしまう。
最近だと本当に未映子さんの描く世界から足が抜けなくて、でも早く現実に帰らなくてはと焦れば焦るほど、ちょま、本当にあんなとこ帰りたいんだろうかと思ってしまい、こんな世界を知ってわたしは涙まで流して今だって囚われたままなのに現実に帰って何かを変えることなんてできるんだろうかと思って、あんなに素晴らしかったのに今現在わたしは何も変化がないっつーのにさあ、などとそのことに愕然としてしまって物語の布団の中に逃げ込んでしまう。

『ヘヴン』の中は暖かく、最後に見たずれのない希望の世界があんまり美しくて、そこにいたら死ぬ間際の脳内麻薬ビンビンのふわふわ感で全部曖昧でいられた。
だが、わたしはやはりまた別の物語に手を伸ばした。
また撃ち抜かれるとわかっていながら、暖かい布団に後ろ髪を引かれながら『夏物語』を手に取り貪る。
そうしてまた夏っちゃんの物語の始まりに立って、これから紡がれる命について思いを馳せながら痛む身体を布団に潜り込ませて、無力さを持て余している。

何が言いたいかって、また落ち込んでるわけです。
もう書けない。
くそみてえな話しか書けねえ。
『夏物語』のあと書きかけの自作を読んだら凡庸で陳腐でマジウケた。
泣く。
でもなんでだ。
そこにある『黄色い家』の前にもう立ってる。
いつ呼び鈴を押して門扉を開けてもおかしくない距離にいる。
また打ちのめされるとわかっていて、これはもういよいよ「も」フックから落とされるとわかっていて、手が伸びる。
物語に指先が触れるまであと数センチ。
あと数秒。


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