からかん

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アルプススタンドのはしの方

 朝バスを待っていた。音楽を聴いていた。 僕はあまりじっとバスを待っているのが嫌でぶらぶらうろついてしまうし、音楽を聴きながらだとうろうろしながらリズムに乗ってしまうので、列には並ばず、それとなく最後尾にいた。バスが到着するとそれでも、僕より後から来た人は申し訳なさからか、僕に順番を譲ろうとするので、それは僕がじっとしないことと引き換えにしたことと、先に乗車する権利はお断りする。すると、その女性が、なんとなく列からはぶれた若い女性に順番を譲っていた。それは違うだろ、と思った。

    • 泳ぐのに、安全でも適切でもありません

      数日間余裕があったので、東京へいってきた。数か月に一度は東京へ行くようにしているのだが、その目的は概ね美術館巡りである。ひとりでぷらぷらと出歩き、美術館や合間に映画を見る。今回も国立西洋美術館のロンドン・ナショナルギャラリー展、国立近代美術館のピーター・ドイグ展、東京都現代美術館のオラファー・エリアソン展(および同時にやっていた企画展2つと常設展)、東京都写真美術館の日本の新進作家Vol.17およびエキソニム展、三菱一号館美術館の画家が見た子ども展などを回ってきた。基本的には

      • 『放浪息子』 志村貴子

        もう忘れてしまっているかもしれないけれど、じつは僕たちは子どもだった。僕たちは子どもだてらに悩んだり、擦り傷をつくったり、つま先立ちをしたり、布団のなかで丸くなったりしていた。父親にテレビの前を横切られたし、ほこりっぽいカーテンの保健室でひと時を過ごしたりした。あたり前だけど、そこには夕焼けがあったし、夏があったし、電車もあった。そんな子ども時代の、小学校の高学年から高校生になるまでの、ひとりの少年(似鳥くん)と、その周りの子たちの物語が『放浪息子』で、その少年は「男の子」と

        • 『台湾生まれ 日本語育ち』温 又柔

          読み終えて、感想を書いておかなければとパソコンの脇に重ねてからひと月程経ってしまったかも知れない。けれどその、読み終えてからの間も、この本に対する愛着は深まっていくばかりだった。 ひとりの女の子が、父親の仕事の関係で台湾から日本へと移り住む。彼女は言葉を覚えるのが早く、幼少期はその弁の立つ口から発せられる台湾語で親類を笑わせ、日本に移り住んでからは世界を新たに知るように日本語を習得していった。そして、成長し、高校・大学と第二外国語で中国語を学ぶことになる。台湾語・日本語

        アルプススタンドのはしの方

          『凪のお暇』

          『凪のお暇』(コナリミサト、秋田書店)を読んだ。社会の中で空気を読むことに精一杯だった女性が、ついにはち切れてしまって、生活を新たにする。そういうところから漫画は始まる。まず絵柄が好きだった。ポップで可愛くて、とくに主人公である凪の天然パーマが爆発してからは、紙面がくるくるふわふわしていて楽しい。そんなもこもこの頭をした凪が、空気を読むという社会の呪縛から逃れようと、会社を辞め、以前の人間関係も断ち、住まいも変え、直毛パーマもやめる。買い物を済ませてレシートを見てみると、値段

          『凪のお暇』