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レビュー

8
読んだ本・記事・イベントなどのレビュー
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猪瀬直樹『公』(2020年)

僕が猪瀬直樹さんの本を読んだのは『昭和16年夏の敗戦』が最初です。 やたら名著だと話題になっているので読みましたが、最初は史実なのか小説なのかわからずに困惑した記憶があります。 そんな風に、猪瀬直樹さんは物語を創造する作家でもあり実務的な政治家でもあるという興味深い立場の人物です。 この『公』という本もその著者の人生を反映するように、政治史として読める一方で、作家や文学の世界について書いた本だともいえます。 日本政治に対する猪瀬直樹さんの問題意識は明確です。 「日本は三

民主主義が起こす戦争 : 三浦瑠麗『シビリアンの戦争』

『シビリアンの戦争』は三浦瑠麗さんの初著にして集大成!と冠をつけたくなるような本でした。とにかく難しい。5年前にいちど読もうとして挫折したのですが、それから世界史の知識をつけて再挑戦したらなんとか読めました。つかれた。。。 内容は 「なぜ戦争は起こるのか」 という大きなテーマ。イギリスが参戦したロシアとのクリミア戦争 (1853年) や、イスラエルのレバノン戦争 (1982年 / 2006年) を取り上げていて、タイムリーといえばタイムリーです。 だけど本書のメインはアメ

Kindle Unlimited『密着 最高裁のしごと』川名壮志

2016年『密着 最高裁のしごとー野暮で真摯な事件簿』岩波新書 裁判の基本的な流れや、2009年から始まった裁判員制度について、ものすごく易しいことばで書かれた本です。 著者は毎日新聞の記者の川名壮志さん。学者の本と違って硬いことばもなく、池上彰さんや古市憲寿さん並に読みやすい文体でした。 この本では、法的な "親子" がどのように決まるのか、たとえば妻が浮気して生まれた子どもも、基本的には夫の子として認定される "嫡出推定" について、実際の裁判例が取り上げられていま

Kindle Unlimited『頼れない国でどう生きようか』古市憲寿・加藤嘉一

2012年の本なので、今とは空気感がぜんぜん違っていておもしろい。 アベ政治前の 「日本政治に対する印象」 ってのはこんな感じだったのかもなーと。 加藤さんがいっていた 「PopulisticなLeaderが日本人をガアーッと扇動していきそうなこわさ」 ってのは、アベ政治 × トランプ大統領の時代に僕が感じ始めたこわさを先取りしていたようにも思えるし。 それに対して 「政治はオワコン」 と反論していた古市さんの考え方はいまでも変わっていないのかなと気になった。 (内容のほ

チンパンジーと心の理論 : 松沢哲郎『チンパンジーの心』

松沢哲郎さんの『チンパンジーの心』(2000年: 岩波書店) を読みました。 今までに松沢さんの本は3冊読んでいますが、どの著書もとても興味深い内容です。「もし寿命が2年縮むとしてもこの本は読む!」と思える名著でした。 松沢哲郎さんは "比較認知科学" という学問の研究者です。 天才チンパンジーアイちゃんの育て親だと言えばわかる人もいるかもしれません。 比較認知科学は「チンパンジーなど他の動物を知ることによってヒトを知る」というアプローチの学問だそうです。 たとえば、チンパ

ゲンロン関連の動画配信サービス『シラス』を褒め称える

思想を唱え散らかすだけなら簡単で。僕がこのNoteでやってる放言もそうだけど、言うだけなら簡単なんですよ。ほんとに。 動画配信サービス『シラス』代表の東浩紀さんの本はいくつか読んだしTwitterも追っていますが、そこに書かれている人と人の繋がり方の理想像とか、このままじゃいけないというインターネット言論空間に対する危機感とかを、言い散らかすだけじゃなく「理想が実現できる環境・プラットフォーム」として自分たちの力でつくりあげたところが、まずなによりもすごいところだと思ってい

note記事 「科学と蓋然性」 Shin Shinohara

こちら素晴らしい記事だと思いました。 「科学的に証明されてる」という言葉はおかしい。科学というのは蓋然性を高めるための方法論のことで、なにか絶対的なものを裏付ける証拠のようなものではない。 (…という"科学の定義の断定"自体が危険だという考え方もあるか…?いやそれはさすがに…?) 「科学的」考|shinshinohara #note https://note.com/shinshinohara/n/n4f16341201ec

上野千鶴子『女という快楽』

Gender関連の本はよく読みます。 脳科学から見た男女の違いや、生物学から見る雌雄の違いや性戦略、それから女性が語るFeminismについての本などを読んできました。 特に大きな影響を受けたのは、Beauvoir(ボーヴォワール)の『第二の性』です。(名著だと思うのですが絶版で手に入りづらいので、もしよければ右下のKindle化リクエストの送信だけでもお願いします) この本が僕に与えたのは、男性の認識する世界とはまったく別の、別次元といってもいいくらいの女性的世界が存在す