見出し画像

日曜日の夕焼け

 布団の上は暖かく穏やかで気持ちがよかった。よく寝た。しかし、この虚無感は何だろう。時刻はもう15時過ぎである。日曜日も何もなく終わろうとしている。

 就業中はいつも眠い。特に昼頃になると耐え切れぬほど強力な睡魔が襲ってくる。何とかあくびをかみしめ仕事を行うのだ。その時にいつも思う。ああ、昼寝をしたい。こんな容器の中穏やかにゆっくり昼寝ができたらどれだけ幸せだろう。しかし、いざやってみるとこれである。ああ、今日も一日無駄にする。そういうむなしさだけだ。

私はこの惰眠をむさぼっている間、やるべきことがあるのではないか。昼寝から覚めるといつもそう思う。帰宅後は時間がなく、ゆったりできないからと敬遠してきた読書や、ゲーム、古本屋巡り、映画鑑賞などをやればいいじゃないか。

しかし、いつも通り何もできない。学生の時はできたのだ。そもそも休みなんかなくても、帰ってから呼吸も置かず遊びに出かけることができたし、宿題が終わった後も間髪入れず、ゲームをした。それが今やできなくなっている。

 そんなことはずっと前からわかっているのだ。私は何回も何回も同じ週末を過ごし、何回も何回も後悔してきた。そのサイクルで心の敏感な部分は沈殿し、喜びやわくわくなどの刺激は感じず、日々の辛さはより大きくなっていった。

 何とかするにはもっと楽な仕事に就くのがいいのかもしれない。もしくは一発逆転でユーチューブなど挑戦してみるか。それなら勉強でもするか。しかし、そうなってくると調べ物をしたり、何かしら教室に通う必要がある。今を帰るためには必要なことだと分かっている。しかし、心の中の弱い私はいつも叫ぶのだ。「私は仕事で疲れている。まずはそれをいやすのが先だ」と。この抗議の声と今を変えたい、この二つの声は私の中でいつも喧嘩をする。そして、その喧嘩を経て、私が行う行動というのが面白くもないSNSを見ることと、ユーチューブを見ることだ。

 スマートフォンには魔力があると思う。時間を食いつぶす魔力が。寝転がって動画やSNSを見ると時間が見る見るうちに過ぎてゆく。一度見たら値が張ったように離れることができない。スマホを見るのは何時までにしようと決めても、その時間が来れば、「私は満足していない。楽しんでいないのだ!」とつい考えてしまう。それで、あと1分、区切りが悪いから後4分、まだ時間はあるから後10分、今から動いたって変わらないから○○時までは見て居よう、と堕落した時間は伸びてゆくのである。そうして振り返ってみても何もない虚無な休みが完成してしまうのである。

 ああ、またこれで月曜日がきてしまう。それはとてもいやだ。いつも思う。しかし、いつも思うのであれば動けばいいではないか。そう思いながらいつも具体的な行動が見当たらない。そうして、結局スマートフォンを見る。
 
いつものようにタイムラインを見る。いつものようにタイムラインの連中はしょうもないことを話している。しかし、その中でふと目に留まるものがあった。それは鮮やかな絵だった。空の絵だ。赤色と青色のグラデーションがきれいだ。夕暮れの空の絵だった。時々そういう絵は流れてくる。いつもきれいだなと思う。でも、わざわざ画像をタップしてまじまじと見ることはしない。今日はやった。どうしてだろうか。それは今日、むなしさを感じ、こうして現状を分析したことで焦りが生まれたからかもしれない。それとも、この絵のモデルとなった場所がここからいける距離にあり、今日の天気が良いからであろうか。
 
理由がどうであれ、絵が気に入ったので、スマホの待ち受けに設定した。その作業を行ううちに、ある気持ちがほんの小さく生まれた。ここに行ってみようかな。そうだ。ここに行ってみよう。私は勢いのまま準備を始める。しかし、この種火は暗く湿った心の中ではなかなか持たない。

「でも、今から準備したら夕焼けに間に合わなくなるかも」
「そんなことをしたら疲れるぞ。疲れてしまったら来週大変だぞ。いいのか」
「平日のように暗い玄関に帰ってくることになるぞ。夕方を優雅に家で過ごすのは休日の特権なんだぞ。いいのか」

 そんな言葉が私の意思をかき消そうとしてきた。いつものように脳内で争いがおこり、自動的に外出の準備の手は止まり、そのままいつものようにスマホに手が伸びた。

 画面をいつものようにタップする。

 しかし、待ち受け画面はいつもと違った。

「四の五の言わずに行け。ここで止まっていても何もならない。行けばこの景色が見られるぞ」

 そうだ。どちみち帰る時間が遅くなったところで私はやることなんてない。家にいたってどうせスマホを触り、時間を浪費するだけなのだ。

「よし! いこう!」

 私は、大きな声を出し、気合を入れ、本と財布と飲み物が入ったカバンを背負う。夕焼けを見に行くんだ。今日は天気がいい。この絵みたいにきれいな夕焼けが見れるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?