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「愛せる眼鏡」に出会う方法|眼鏡作製技能士の私が、“家族”の眼鏡を作る時に考えること

こんにちは! 1級眼鏡作製技能士(元JOA認定眼鏡士)の松尾しのぶです。
コンタクトレンズのお店から眼鏡店に転職し、所有する眼鏡は50本以上。“視力矯正”尽くしの10年を過ごしてきました。

眼鏡の作製は、膨大な知識と技術の習得、そして接客からファッションまで学ぶことが盛りだくさん!
とても大変ですが、その分やりがいもひとしおなんです。

そんな眼鏡作製沼にどっぷり浸かって遊泳する私が、「愛せる眼鏡」に出会う方法をお伝えします。

既に眼鏡の使用経験がある方、初装の場合は高校生以上の方を対象としています。
処方箋での眼鏡作製や、眼疾患がある方、子ども用眼鏡を作製する場合などは勝手が異なりますので、ご了承下さい。

「愛せる眼鏡」とはなにか

まず、私が考える「愛せる眼鏡」の定義はこちら。

かけるだけでハッピーな気分になれる(見た目よし
「見たいもの」を楽に見ることができる(見え方よし
かけていることを忘れるくらいフィットしている(かけ心地よし

この3つの定義を兼ね揃えた眼鏡に出会うのは、当たり前のようで簡単ではありません。

雑誌には、おしゃれな眼鏡フレームがたくさん掲載されています。
でもそのフレームを、「どうやって自分に合わせるか」ついては、どこにも書かれていません。

お客様は無邪気に、雑誌で見たフレームをお求めになります。
しかし、その人の目は強度近視だとしましょう。

強度近視を矯正する場合、レンズの度数を強くする必要があります。
するとレンズの端の部分が厚くなり、フレームからレンズがはみ出たり、かけると顔の輪郭が凹んで見えたりと、美観を損ねがちです。

そこで厚みを軽減させるために、薄型でフラットなレンズをおすすめするのですが、グレードの高いレンズは高価です。
お客様はフレームで手一杯で、レンズに回すお金は残されていません。

結果、おしゃれになりたくて可愛いフレームを選んだのに、野暮ったい眼鏡が完成。
日の目を見ることなくおうち用メガネに降格。
心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

眼鏡店のスタッフも、ベストな提案はさせていただきます。
ですがお客様のご予算やこだわりをむげにはできません。

では、こうした悲劇を回避するにはどうすればいいのでしょうか。
私は眼鏡ユーザーの皆さんにも“メガネリテラシー”を高めていただく必要があると考えています。

と言っても、難しいことはありません。

眼鏡作製は、お客様と我々スタッフの二人三脚で行うもの。
私が実際にお客様にお伝えしていたポイントをご紹介しますので、一緒に「愛せる眼鏡」を作りましょう!

「愛せる眼鏡」に出会うための7つのポイント

私は格安店でメガネ作製の経験を積んでから、高級店に移り、認定眼鏡士の資格を取得しました。

その上で、どんなお店にも共通する眼鏡作製の“マインド”をご紹介します。

知っているのと知らないのでは、仕上がった眼鏡の満足度が大違いですよ!

とにかくスタッフと話をする

お店に入ったら実行していただきたいことがあります。
それは、「この人の眼鏡、素敵!」と感じるスタッフを探して、話をすることです。

お客様の言葉とは裏腹な変身願望を叶えたり、ご本人も気づいていなかった見え方のお困りごとを解消したり。
プロのスタッフは、お話しする中でお客様の隠れたニーズを引き出し、プラスアルファの提案をします。

眼鏡はとても奥が深いので、自分がどのような眼鏡を欲しているのかわからなかったり、希望を言語化できなかったりするのが普通です。

お気に入りのフレームを見つけたと思ったら、自分のレンズ度数では、予算の範囲内で理想の仕上がりにできないことが判明してがっかり。
なんてことになると、時間とトキメキが惜しまれますよね。

最短で「愛せる眼鏡」に出会うためには、スタッフのサポートが欠かせません。

遠慮せずに、どんどん頼った方がお得ですよ!

顔型でフレームを選ばなくていい


最初の希望とは違う眼鏡を選ぶ人、多いです。

「私の顔型にはどんな形のフレームが似合いますか?」という質問を多く受けますが、そのような決まりは一切ありません。

あなたが“どんな自分を演出したいか”を一番大切にして下さい。

顔のコンプレックスを隠すために目の錯覚を利用して、面長には天地幅の長いフレームを。
丸顔には四角いフレームを選ぶ、というのは、理には適っているかもしれません。

ですが、コンプレックスを解消するためだけに、フレームを選んでいいのでしょうか?

丸顔の人が丸いメガネをかけるとお笑い芸人みたいになる、とは限りません。

同じ丸メガネでも、フレームによってシェイプが全く異なります。
ブリッジの長さもレンズサイズも違います。

眼鏡パーツ名称

フィッティングでかける位置を調整するだけで、雰囲気が変わることだってあります。

自分にはこの形しかない! と思い込んで、“かけず嫌い”は本当にもったいないです。

スタッフは眼鏡の似合わせもお手の物。
フレームの形に迷ったら、なりたい雰囲気を伝えておすすめをピックアップしてもらうなど、いつもと違う自分を楽しみながら選んで下さいね。

フィッティングできるか確認する

同じ顔の人間はこの世に二人と存在しません。
さらに、人間の顔は左右対称ではありません。

そのため“フィッティング(調整)”はとても重要なのですが、そのことを意識してフレームを選ばれる人は、ほとんどいません。

おしゃれなフレームはたくさんあれど、デザインを重視した結果、どう足掻いても調整ができない残念なフレームも、実は存在します。

自分の顔に合わせてフィッティングができるかどうか、購入する前に必ず確認するようにして下さい。

仮に、フィッティングが難しいと分かっても諦めきれなかった場合は、無理に視力矯正に使用せず、伊達メガネにしてコンタクトレンズと併用するのがおすすめです。

顔だけで似合うかどうかを判断しない

フレームを選ぶ時、顔しか映らない小さな鏡でチェックしていませんか?

メガネもファッションの一部です。
トータルコーディネートを意識しましょう!

フレームを選ぶ時は、全身鏡がマストです。
少し離れたところから、モデルになったつもりでポーズをとって、チェックしましょう。

そうすることで、普段はコンサバな着こなしが多いのに、眼鏡だけやたらハイテンションで浮きまくり、のような悲劇を防ぐことができます。

反対に、スーツを着る時用の眼鏡など、特定のファッションに合わせる予定であれば、その服を着てフレームを選ぶようにすると間違いないですよ。

測定で頑張らない


測定は、無理をしないのが一番です。

「目がいい」=「遠くがよく見えること」と勘違いしている人が、非常に多いです。

そのため、レンズ度数を測定する時に、本当は見えていないのに、目を凝らして無理にでも見ようとする人がいます。
さらには、当てずっぽうで回答する人も!

正しく測定できないので、絶対にNGです!

見えないのが悪いということは、全くありません。
力まずに、リラックスして、質問には感じたままを素直に回答するようにして下さいね。

一番こだわるべきはレンズ

フレームも決まって、測定もして、後はレンズを決めるだけ。
ここまでのこだわりは半端じゃないのに、なぜかレンズになると「安いのでいい」とおっしゃる方の多いこと。

レンズを侮ると、本当に痛い目を見ます。

例えば度数が強い人が安いレンズで眼鏡を作ると、視界が歪んで見えたり、顔の輪郭が凹んで見えたり、目が小さく見えたりして、使い心地が気に入らず結局お蔵入りに…というのがよくあるパターンです。

高価なレンズが良いとは一概には言えません。
ですが、眼鏡をかける目的が視力矯正なのであれば、一番大切なのは「見え方の快適さ」であるはず。

見た目を何より重視したいという気持ちもよくわかります。
ただし、その場合は「見た目」「見え方」「かけ心地」の優先順位を明確にしておくことが大切です。

限られた予算の中で、どうすれば「愛せる眼鏡」に出会えるのか。
できればレンズは妥協せず、スタッフも巻き込んで試行錯誤してみて下さい。

可能な限り一人のスタッフに対応してもらう


メンテナンスは定期的に

ここまでにお伝えしたように、お店に入った時点から、眼鏡作製は始まっていると言っても過言ではありません。

であれば、あなたが信頼できるスタッフを見つけて、フレーム選びから眼鏡の完成まで対応してもらうことが、「愛せる眼鏡」を手に入れるために、最も重要であるのは明白です。

眼鏡は作ったらそれで終わりではなく、こまめなクリーニングとメンテナンスが欠かせません。

担当するスタッフが決まっていれば、視力が変化した時にも、スムーズに対応してもらえます。

あなたに似合いそうなフレームをこっそり仕入れてくれていたりするかもしれません。

とはいえ、作製工程を分業制にしているお店もあり、一人のスタッフに対応してもらえないこともあります。

その場合は他のスタッフにも話しかけて、お店全体の雰囲気をチェックしましょう。
「眼鏡の加工は誰がしてくれるの?」と、具体的に聞いてみてもいいです。
居心地がいいなと感じられたら、まず間違いありません。

色々な眼鏡店に足を運んで、遠慮せずにどんどん話しかけて、推しスタッフ(店)を見つけて下さいね。

眼鏡士の私が、“家族”の眼鏡を作る時に考えること

眼鏡を作製するためには、眼光学、レンズ光学、フィッティング技術、ファッション知識、コミュニケーションスキルなど、総合格闘技か! と叫びたくなるほど、色々なことを学ばなければなりません。

ですが、自分の努力次第で、もっともっとお客様に喜んでもらえるようになるということが、たまらなく楽しい仕事なのです。

眼鏡学校の恩師が、「眼鏡屋は町の何でも屋さんです。お客さんが、家の電球が交換できなくて困っていると言ったら、交換しに行ってあげる。するとその人の生活が見える。こういうフレームのデザイン好きそうだな、とか、こういう眼鏡を作ったら楽になるんじゃないかな、なんて想像する。そうやってお客さんの生活ごとコーディネートするのが、我々の仕事です」と話していました。

この話を聞いた時に私は、「家族の眼鏡を作るみたいだな」と思いました。

皆さんには、眼鏡屋の店員と“家族になる”くらいのつもりで、眼鏡屋に通ってほしいのです。

持っている眼鏡のクリーニングやメンテナンスでもいいです。
2年に一度、見え方に変わりがないか測定し直してもらうのもいいです。
近所に美味しいお店を見つけた、とか、何でもいいんです。
ささいなことで構わないので、どんどんスタッフとコミュニケーションをとって下さい。

スリープライスは安かろう悪かろう、高い商品を扱っているお店はいいお店、ということは一切ありません。
大切なのは、そこにどんなスタッフがいるかです。

皆さんが信頼できるスタッフに出会えること、そして、「愛せる眼鏡」に出会えること、心から祈ってます!

#天職だと感じた瞬間

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