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元最寄りのバス停が無くなるらしい【阪急バス加島線】

 10年ほど前まで十三に住んでいて、よく市バスや阪急バスで大阪駅に出かけていた。そのうち、阪急バスの方が廃止になるとのこと。

 僕が利用していた頃は、二つのバスを合わせて15本/hくらいは運行されていた気がする。比喩ではなく、本当に待たずに乗れた。

 そんなものが無くなるのだから、まさに盛者必衰という感じだ。


*  *  *

 僕は2000年生まれで、10歳の頃までを大阪の十三で過ごした。

 幼稚園を卒業するころには自転車に乗れていたはずだから、バスをよく利用していたのは、おそらく3~4歳頃、つまり‘03~‘04年頃であったはずだ。

 僕が利用していたのは梅田から十三を経由して加島方面へ向かう阪急バス加島線と、並行して走る大阪市バス97号系統だ。

 もちろん僕は母や妹と一緒にバスに乗るわけだが、バス停の時刻表を見た経験は、一度も無かった。それくらいバスはひっきりなしに来ていた。2、3台団子になって来ることもしばしばだったように思う。

 調べてみたところ阪急バス加島線は、‘97年改正の時点で日中7~8分間隔、市バスも5~10分間隔くらいで運転されていたらしい。そんな様子だったから、時刻表を顧みるような人間はもとよりほとんど居なかった。

 僕も生まれてからずっと、バスと言えばこの路線だったから、日本のバスは全部こんなものだと思っていた。何のためにバス停に時刻表が置いてあるのか、本気で理解できなかった。


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 両親が離婚した。それで小学4年生の時、母方の親類を頼って兵庫県へ引っ越した。田舎と言うほどでもなかったのだが、それでもやはり車社会で、車の無い僕の家族はバスを利用する外になかった。

 近所のバス停の様子を見に行って驚いた。

 30分に1本。 

 今にして思えば、路線バスとしては割と恵まれた本数であるのだが、大幹線だった以前の路線との落差に度肝を抜かれた。バス停に時刻表が設置されている意味を、10歳にしてやっと理解できたのである。


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 それからはや10年、二十歳になった僕はふと地元のことを調べて見たくなり、突如加島線廃止の報に接した。

 事業所などの撤退による需要減、運転手の不足などの要因により、ちょうど僕が大阪を去った頃から、少しずつ本数を減らしていたのだそうだ。7分間隔が10分間隔になり、15分間隔になり、20分間隔になり、今では40分に1本となっている。その40分に1本のバスも、7月19日までの運行だ。

 長らく地元にも帰っていなかった僕は、そのような事情を知る由も無かった。さしずめ浦島太郎である。

 僕の記憶では真昼でも待たずに乗れたバスが、あと二週間もしないうちに廃止されてしまう。隔世の感だ。しばらく乗らないうちに御堂筋線が廃止されるようなものである。


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 僕が加島線を利用していた2000年代初頭は、まだまだ前後扉のツーステップバスが活躍していた。乗り口が車体の後ろの方に付いていて、狭幅の扉から入ってすぐに二段のステップを登る必要があるバスだ。

 夏場などは、バスが到着するなり、乗り口のすぐ近くのエンジンから発せられる熱気と排ガスのにおいに包まれた。扉が開き、路上から、自分の背丈ほどもある床面へ、二段のステップをよじ登るように上がった。

 と、こんな風に書くとひどい車両のように思えてしまうかもしれないが、乗り物の好きだった僕はこれら一つ一つにワクワクする気持ちを掻き立てられたものである。

 車内に入ってしまうと、別世界のように涼しい冷房の効いた車内と、ツーステップバス特有の高い目線が心地よかった。

 時々、阪急電車と併走しながら、頭上に大きなアーチのかかる淀川大橋を渡る。長い橋の継ぎ目を通るたびに、バスは小刻みにガタガタ揺れた。継ぎ目を越えるごとに、大阪都心の摩天楼が近付いてくるのだ。


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 もちろんバリアフリーが叫ばれる中で、ツーステップバスは既に姿を消している。並行していた市バスも今では大阪シティバスに変わってしまった。大阪駅を出てすぐに見えた梅田北ヤード、色とりどりのコンテナに目を輝かせたのも昔の話だ。そして今度は、見慣れた阪急バスがもう地元を走らなくなる。

 僕はもう二十年生きた。世の中の方でも二十年分の移り変わりがあるのは道理である。しかしこれだけ身近だったものが無くなってしまうというのは、妙な心持ちがするものだ。

 廃止までに時間を見つけて、こんなご時世だから人ごみには気を付けて、少しだけ乗りに行きたいところである。



トップ画像は wikipedia からお借りしました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hankyu_Bus_-_Osaka_200_ka_2273.jpg
撮影者:JKT 様 ライセンス:CC 表示-継承 3.0



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