「新卒一括採用」の終わりの始まりについて
「新卒一括採用」とか、「終身雇用」、あるいは「年功制度」というのは、日本企業に特有の人事制度だと言われる。
なんでも中央官庁の真似をしたがるメガバンクは、こうした伝統的というか、硬直的な人事制度を長らく継続していた。中途採用、第二新卒採用も一部では行なわれていたが、あくまで例外扱いみたいなところがあった。
それが、そろそろスタンスを大幅に変更する兆しが出てきたようである。
<3メガバンクが中途採用を大幅に増やす。2023年度は少なくとも計770人と21年度実績比4.5倍に急増する。新卒を含む採用全体に占める比率も4割に迫り、三菱UFJ銀行は24年度にも中途の採用数を新卒とほぼ同水準にする方針だ。デジタル分野などで即戦力となる人材を集めており、新卒中心だった3メガ銀の採用は転機を迎えている。>
で、具体的にどういう分野の人材を求めているかという点に関しては、<IT(情報技術)やマーケティング、マネーロンダリング(資金洗浄)対策、サステナビリティー(持続可能性)など専門的な知識が求められる部門で重点的に中途人材の採用を進めている。>とある。
要するに、従来のように何でも自前で育成するというのでは対応できず、即戦力の高度な専門性をもった人材を外部から調達しないことには仕事が回らなくなったということであろうか。
システム分野は昔は、明らかな「傍流」、つまり「飛ばされて」行き着く部門という位置づけであったし、真面目に人材を育成する姿勢もノウハウも蓄積されていなかった。だから、どこかの銀行のように何回もシステム障害を起こしても、自分たちでは手も足も出ないのである。データサイエンスとかサイバーセキュリティの専門家なども、内製化を図ろうにも、知見もノウハウも蓄積されていないから育成しようがなく、外からリクルートするしかないのであろう。
いずれにせよ、新規採用の約4割とか半数を中途採用が占めるようになれば、閉鎖的な社内の空気も変わらざるを得なくなる。
かつての銀行員は、初対面同士で挨拶をすると、次は必ず互いの入行年次を確認するものであった。人事制度が硬直的だからそうなるのであるが、今後は入行年次にあまりたいした意味がないようになるのだろう。
既に年功的なキャリアパスは撤廃されつつあるし、今の若い人は定年まで同じ会社で勤め上げようなどと最初から考えていないだろうし、これで「新卒一括採用」が崩れたら、もはや「何でもあり」の状態になるだろう。
中央官庁とともに伝統的かつ硬直的な人事制度の代表格であったメガバンクが変われば、その影響は決して小さくはない。
日本的な人事制度の終わりの始まりである。
あと10年ほど経てば、「新卒一括採用」が死語になっている可能性はある。それとともに、現行の日本企業的な「メンバーシップ型」の雇用制度も、今後、かなりの企業で、いわゆる「ジョブ型」の雇用制度に急激に移行していくことになるであろう。
そうなれば、日本人の働き方や労働に対する価値観、勤務先に対するスタンス等も変わらざるを得ない。
ムラ的でウェットで面倒くさくて、アフターファイブや休日まで上司に振り回されるような社内の人間関係が薄まるのだとすれば、僕みたいな人間にとっては大歓迎である。
と言っても、僕はもう既に現役世代ではないから、関係ないのだが。