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感銘を受けた記事について

今日、桃野泰徳さんという人物の書いた文章を読んで感銘を受けたという話を書き記しておきたい。

他人の書いた文章を読んで、心の底から感銘を受けることはあまり多くはない。もちろん、「面白いな」とか、「有益な情報だな」と思うことはある。でも、それ以上のものとなると、なかなかお目にかからない。

恥ずかしながら、桃野泰徳さんという人を今日まで知らなかった。プロフィールを見ると、大手証券会社から転じて、いろいろな会社で経験を積んだ人のようである。現在は、ティネクト(株)取締役CFO、(株)鹿せんべい代表取締役とのこと。

今日、僕がたまたま目にしたのは、「部下を食事に誘う時の注意点 披露宴のスピーチで「ドラえもん」を朗読した経験に学ぶ」という記事である。

で、僕の胸がキュンとなったのは、結婚披露宴のスピーチのところである。子を持つ親としては、思わず感情移入してしまうような心温まるエピソードなのだ。

長いが少し紹介する。

親友の結婚披露宴で友人代表としてスピーチをする大役を押しつけられた若き日の桃野氏は、親友の勤務先の役員やら地方議員さんといったエラいさん方も列席する仰々しい席で、ドラえもんの「のび太の結婚前夜」を朗読するという暴挙に出る。

「パパ!あたし、およめに行くのやめる!!」とやった途端、酒も入って、スピーチなんか誰も聞いていなかった会場が一瞬で静まり返ったという。

「わたしが行っちゃったらパパ寂しくなるでしょ?これまでずっと甘えたりわがままいったり……。それなのに私のほうは、パパやママになんにもしてあげられなかった」
「とんでもない、君はぼくらに素晴らしいおくり物を残していってくれるんだよ」
「おくり物? 私が?」
「そう、数えきれない…ほどのね。最初のおくり物は、君が生まれてきてくれたことだ。午前三時ごろだったよ。君の産声が天使のラッパみたいに聞こえた。あんなに楽しい音楽はきいたことがない」
「病院を出たとき、かすかに東の空が白んではいたが、頭の上はまだ一面の星空だった。この広い宇宙のかたすみに、僕の血をうけついだ生命がいま、生まれたんだ。そう思うと、むやみに感動しちゃって。涙がとまらなかったよ。それからの毎日、楽しかった日、みちたりた日びの思い出こそ、きみからの最高のおくり物だったんだよ。少しぐらいさびしくても、思い出があたためてくれるさ。そんなこと気にかけなくていいんだよ」

ここまでドラえもんを延々と朗読した桃野氏は、おもむろに新郎に向かい、新婦とご両親がこれと同じような気持ちで今日の日を迎えたこと、その重たい責任を受けとめた上で、しっかり頑張るようにとエールを送る。

次に新婦の方に向き直り、静香ちゃんのお父さんが結婚に迷う彼女の背中を最後にひと押しする次のセリフを読み上げるのだ。

「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。かれなら、まちがいなくきみを幸せにしてくれるとぼくは信じているよ」

そして、昔からのび太と同じくらいに鈍くさかった新郎ではあるが、自分にとっては自慢の親友であると言って、スピーチを締め括る。

実にスピーチの9割方を漫画の朗読で逃げ切ったのであるが、新婦の両親からは大いに感謝され、新郎新婦の主賓や招待者からも絶賛されたという。

このスピーチの成功の要因は、新婦のご両親をターゲットに絞ったこと、そして新婦への思いやりと、そのご両親への感謝を忘れないようにと、スピーチを届けるべき相手と基本的なコンセプトをしっかりと組み立てることができたところにある。つまり、誰のためのスピーチなのか、何が言いたいのか、狙いが明確であったことが重要なポイントなのである。

僕も今までたくさん結婚披露宴には出席したが、感銘を受けたスピーチなど本当にまるで1つもなかった。特に大学教授とか議員さんのスピーチは最悪である。彼らはあちこちで喋らされるから、あらかじめテンプレを用意しておいて、どんな場所に呼ばれても同じような内容のスピーチで対応しているのだろう。

そういうスピーチはどこででも使えるかもしれないが、誰の心にも響かないのだ。

桃野氏の記事では、そこから話を転じて、上司に誘われて食事をした時のメシの不味さの話になる。部下に食事をご馳走する場でありながら、上司の側にホスト意識もなく、部下をもてなすつもりもなく、「招かれる人のための食事会」ではなく、「招く者のための食事会」になってしまっている。そうなると部下にとっては単なる苦痛でしかない。

これら2つのエピソードを総括する形で引き取り、「人の心を一番豊かにする幸せな時間」を持つために重要な「一期一会の心」に言及して、文章を締める。

一見、何の関係もなさそうな、「上司との会食」と「結婚披露宴でのスピーチ」の2つについて、それぞれ興味深いエピソードでつないで、クロージングに持っていく発想力と話術はまさに見事としか言いようがない。

そう思うと、桃野氏の他の文章も読みたくなって、他にもいろいろと目を通してみることになった。

・「エクセルで何種類も日報…ブルシットジョブ 「囚人の穴掘り」で会社と部下壊すクソ上司」

・「ロシアの「弱さ」から学ぶリーダー像 児玉源太郎と小4で部長になった竹野くんの逸話」

・「終戦の日に考える「日本はなぜ負けたのか」元陸自幹部の言葉、国民と報道の責任とは」

以上は、その中でも僕が特に好きな記事である。

どれも、とても面白くて、感心した。感心したなどと書くと、「上から目線」で恐縮であるが、僕もこれくらい巧みな文章を書きたいものである。

会ったこともない人物を絶賛するだけの記事になってしまったが、嘘だと思うならば、是非、実際に桃野氏の文章を手に取ってご一読いただきたい。

もし機会があるならば、お会いしてお話を伺いたいものである。


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